030 各地へ散る仲間達
2015/12/27
修正を行っています。
エルフの狩人にして鍛冶師であるオルフェルは、ここ数日、間借りしているギルビーの家で防具作りを進めていた。仲間の剣匠、シャティル・ヴァンフォートが扱う武器、ルイン・ブリンガーがついに完成したこともあって、残すは防具の作成、オルフェルの出番となったのだ。
イメージは固めてあった。銀の剣匠とよばれる青年に合うのは澄み切った夏の夜の星空。夜藍色とでも言おうか。その夜空に、銀の星々を散らせるのだ。
形状は動きやすさを考慮して全身鎧にはしない。胸から肩と首周りを防護する、いわゆる冒険者や歩兵向けの軽鎧形式で、別個に腹部、脇腹、腰回り、腕と足を防護する部分鎧との組み合わせだ。
軽さと頑丈さ、対腐食性を両立させるため、仲間の若き天才魔導師レドが新しい金属合金を用意してくれた。レダルミウム合金と名付けられたその金属は、軽量かつ頑丈だが鍛造には向かない金属らしく、アルミニウムと銅とアダマンタイトを混ぜたものらしい。
注文通りに作ってもらった、各部分の枠とでも言うべき金属。これを主となる革に組み合わせ、内張りに新素材を使う予定だ。
巨大ムカデの甲殻を伸ばして薬品処理しオルフェルが薄く引き延ばしてみた素材は、防刃性は弱いものの、薄くとも弾性に対圧性に富み、防具の内張りとしては申し分なさそうだ。
問題は主となる革である。レドが用意してくれた皮は双角獣と呼ばれる南方の水辺に棲む魔獣の皮で、強度としては申し分ない。しかし、オルフェルとしては重さと色合いに満足がいかず、さらなる強度が欲しいこともあり、今ひとつ納得いかないのであった。
「やはり、仕入れに行かないと駄目か・・・・・・」
オルフェルは一つ、ため息をついた。
王都ラナエストの南東、城壁の外側の一角には、緑の芝が張られた緩い傾斜帯がある。ラナート平原南東の区画は一大水稲地帯であり、シナギー族の草小舟が行き交う交易路でもあるのだが、この一角は緑地に浮遊する性質の草小舟の発着場となっているのだ。様々な色の帆を張った小舟が係留されている中、そのうちの一隻にオルフェル達が居た。
草小舟に乗っているのは、エルフのオルフェルとシフォン、ヒュームのジーナロッテ、そして船頭は当然シナギー族のミーナだ。
オルフェルが魔獣の皮を仕入れる為には東の城塞都市ハギスフォートにある専門店に行く必要があった。ハギスフォートまでは草小舟が一番足が速く、幸いにも一行にはミーナが居たため、それならば急いで行こうと言うことになったのである。シフォンはラナエストに着いて日も浅く、特別予定も無いことから出来るだけオルフェルについて回ろうとしているし、ジーナロッテはシナギー族のゲストハウスに居候という実質ミーナ預かりになっていることと、社会科見学という名の好奇心が理由だ。
「草小舟なら3時間も走れば着くと思うわよ。用事が早く済めば日帰りも可能だとは思うけど」
「見物も兼ねて1、2泊するくらいの余裕はあるけどな。他の連中もそれぞれ別行動してるし」
「私はオルフェルに任せる」
「私も社会科見学だから行程は任せるわ」
「珍しくみんなバラバラの行動だもんね。あ、お土産シャティル達に頼むの忘れた」
今回は珍しく、各々が別の用事が入った為、各自バラバラに行動することになったのだ。ギルビーとミスティは北のブルフォス村へ、シャティルとレティシアは西のアキネルへ、レドは南のルモンズへ向かう事になっている。
とりあえずは出発しよう、と言うことでミーナが操船し、草小舟は帆を張って緑の海原へ動き始めた。
ラナエスト中央噴水広場の北西側、北大通りに面して北方行きの乗合馬車がある。
ドワーフ族の彫金師にして鉱山夫のギルビーと慈愛の神アイーシャの僧侶であるミスティは、これから北のブルフォス村まで、馬車の旅を始めようとしていた。
ギルビーが依頼を受けていた彫金細工が完成し、依頼主まで届ける用事があったのだ。一人旅は危険だからとミスティが同行を申し出たのだが、そこには他にも見知った顔が居た。
「まぁ~ブルフォスに行くってんのなら、周辺案内は任せてくれよっ」
「お前もどちらかというと新参だろうが。デカい顔をするでない」
小柄な背丈で細身、短髪黒髪の若い優男はイアン。躍動感溢れる快活な雰囲気はどことなくシャティルに通じるものがある。
もう一人はスラリと伸びた長身の優美な女性で、銀色の艶やかな長髪と冷めた雰囲気のまなざし、毒舌が特徴な魔術師スフィだ。
二人ともブルフォス村からやってきて現在は魔法学院に逗留していたのだが、レドから、ギルビーがブルフォス村へ行くので案内してやってくれと頼まれていたのであった。
4人は馬車に乗り込んだ。馬車は6人乗りで、他に乗客が居れば相乗りという形になるのだが。そろそろ定刻で出発になろうかというその時、外から騒がしく馬車を求める声が聞こえてきた。
「待って!その馬車待ってぇぇっ!」
「乗るから待ってぇー!」
若い女性の声に御者が答えて乗車を承諾し、続いて扉が勢いよく開け放たれた。
「間に合ったーっ!」
息を切らしながら客席に上がってきたのは、袖無しの短衣と膝上の短いズボンに薄衣の羽織を着込んだ二人組であった。片方は栗色の髪を束ねており、背負い袋と木製の弦楽器を持っている。もう一人は黒髪の長髪で手足に金属冠を束ねてはめており、出で立ちからすると吟遊詩人と踊り子であろう。
「騒がしくてご免なさいね。私は吟遊詩人のラサヤ、こっちは踊り子のリンネ」
「武闘祭までまだ時間があるしブルフォス村へ観光とついでに営業してこようかと思ってね」
走り出した馬車の中でお互いに自己紹介を交わしたギルビー達は、道中ラサヤの巧みな話術と歌や演奏に楽しませてもらいながらブルフォス村へ向かうのであった。
ラナエスト魔法学院の一室で旅支度を終えたレディアネス・クレイドことレドは、自室の隣にある資料室という呼び名の宝物庫に向かった。手には七匹の竜を模した像を各所に組み込んだ、改良した冒険の杖を持っている。
七竜の仕える姫竜騎士アリシアの霊体は、普段は霊媒のルビーの首飾りと共にレティシアと行動を共にしているが、今回は首飾りがレドの首元に掛けられていた。
レドのそばにアリシアが、半分透き通った立体映像の如く、姿を出現させる。
「手紙を寄越した人はルモンズに居ると言ってましたっけ?」
「ああ。魔法学院の卒業生、つまり俺の先輩に当たる方で、直接の指名による依頼だ。と言っても、最初に手紙を出したのは俺なんだけどな」
「あら、それは初耳だわ」
「こちらから研究の為の協力依頼をしたところ、見返りに依頼をお願いしたい、ということなのさ。なんとしてもこちらにも協力して欲しい手前、断れない。その関係で、今回はアリシアにも憑いてきて欲しいんだ」
自分がどう関係があるのか、アリシアが不思議がると、レドが答えた。
「その人の名はヴィシュテル。俺の伝手の中では自動人形作りに一番詳しい人なんだ。アリシアの身体を造るために協力が欲しいのさ」
ヴィシュテルには詳細は伏せ、自動人形造りの指導を仰ぎたい旨と、その素体に死者の霊魂を宿らせることが可能か?という質問を手紙で送ったのであるが、それに帯する回答が、『貴殿の質問は我が研究の命題である。至急訪ねて来られたし』であったのだ。
「そんなわけでこれから港街ルモンズまで行く。転移ゲートでルモンズの北側の町外れまでは行けるからすぐだけどね」
「私としては3千年後の世界はなんでも見たいものだけど」
「馬車で行くと500ケリーの距離で10日掛かるからね。なに、観光する時間だって生きてりゃこれからたっぷりあるさ」
「それ、私が幽霊だって判ってて言ってるわよね?」
ちょっとむくれたアリシアも可愛いものだと思いながら、レドは転移ゲートの魔方陣に足を踏み入れた。
シャティルとレティシア、猫のクアン(正確には猫型自動人形であるが)は、冒険者ギルドで依頼を受け、ラナエストの西にある城塞都市アキネルへ向かうべく馬上の人となっていた。
依頼内容は旅の商人ナドリス・デヤニールという女性の隊商の護衛だ。
商人と言っても、ナドリスが仕切る隊商の構成人員は女性ばかりであり、ほぼ全員が慈愛の神アイーシャの信徒や神官である。彼女らは商人であると同時に信仰を普及すべく、旅しているのだという。
ナドリスはラナエスト武闘祭の特需を見込んで遠方から来ており、開催までは隣接都市との往復による近距離交易で利益を上げるつもりらしい。
オルフェル、ギルビー、レドとそれぞれ別々の予定が入った事から、暇つぶしと金策、ついでにアキネル観光を兼ねてシャティル達は依頼を受けたのであった。ちなみに、ミーナがニンマリとして「デートにでも行ってきたら?」とレティシアに言い赤面させたことをシャティルは知らない。
ラナエスト西門を出て少し行くと、中原を潤すヨネス川に掛かる「ラナート橋」が見えてきた。ラウルウッドの巨木を切り出して大河に掛けられたその橋は50マトルにも及ぶ川幅を一跨ぎで超えている上路橋だ。
その橋上を往く隊商の馬車は幌突きが4台、隊商の構成員は16人。護衛はシャティル達を入れて4人と少なめだが、商人達も旅慣れており神官としての能力を持った者も少なくないことから、数よりも質を護衛に求めたようだ。シャティル達が挨拶したときも、テオストラ騒動の解決者として「銀の剣匠」の事を知っていたらしい。
さらには、他の二人の護衛のうち、一人は茶色のローブに三角帽子を被った魔法使いのモニカという女性、この人物の実力はシャティルも知らないが、もう一人が文句無しの人物であった。
白色のマントとターバンに両手大剣を背負い、右目に眼帯をした威丈夫の壮年の戦士。
アルハージア砂漠の“砂漠の獅子王”、 魔剣“ロックマスター”の使い手、 バルフィード・レイフォーンであったのだ。
数日前の暴風亭の宴会の折、剣聖ゴードに挨拶してきた事で顔見知りではあったが、よもやこんなにも早く再会出来ようとは。
あの時はシャティルに武器がなく手合わせの願いようもなかったが、今はルイン・ブリンガーがある。出発前に面通しした際、護衛そっちのけで決闘を申し込みたい欲求にシャティルは駆られたが、それを我慢しとりあえず護衛期間中に話をつけようと決めて、今は護衛に専念することにしている。
馬上に見えるバルフィードの背中姿にシャティルの期待は高まり、そんなシャティルの後ろ姿にレティシアはちょっと不満気で・・・・・・その二人を見てクアンが自動人形らしからぬ溜息を馬の背でついているのだが。
そんな彼らの内心とは関係なく、ナドリスの隊商は過剰とも言える戦力に護衛されてラナエストを立ったのであった。
相変わらずの不定期連載ですが、プロットはしっかり出来ております。
後は書く時間だけだー。
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