幕話06 竜達の会合
2015/12/27
修正加筆を行っています。
ラナエスト魔法学院にあるレディアネス・クレイドの研究室兼私室。
数々の研究資料とその対象である材料、魔法を組み込まれた無数の魔法道具や貴重な魔法触媒の数々があり、魔法使いや財宝狙いの冒険者に取っては垂涎の、宝の山である。
一方、宝の山に目がない生き物は世の中にも居るわけで・・・・・・
「なんで、竜って、ねぐらに財宝を貯め込む習性があるんだ?」
机上で作業をしながらレドが周りに問うと、全長1アルムスほどの銀の小竜が本棚の上に正座しながら(竜の正座とは犬のお座りと同様の姿勢である)答えてくれた。
「生まれ持った習性だけれど、基本は光り物の見た目が好きね。後は魔力の籠もった品物はその魔力の波動を感じると落ち着くから好き」
銀竜シュペリエは雌竜で極めて話が通じやすい。話し好きであることと、アリシアの騎竜であったことから、人間社会を率先して学んでいた節が見受けられる。
「寝床の材料としての好みもあるね。僕はやはり金貨の寝床が良い。金臭さも、材質によって違いがあるからねぇ」
魔術用の香草を幾つか植え込んだ鉢上の縁で背筋を伸ばしているのは翡翠の小竜トーニアス。七竜一の伊達男らしく、常に顎を引いて顔を斜めにして向けてくるなど、他竜に比べて気障な、いかに自分が格好良く見られるかという仕草に結構こだわるようだ。
「ねぐらの財宝はその竜の強さの証とも言えるでござる」
竜将軍と異名を取る赤銅竜ウィルマサは、入り口が見える位置にある腰掛けの上を陣取っていた。
「俺ぁ別に財宝には拘らないけどな。ただし、財宝に釣られて強え奴が挑んでくるってのがイイ」
最も勇気溢れる特攻隊長と紹介された青銅竜のガンドール。誰にでも気を許さないそぶりが多いが、素直じゃなく照れ屋である事も最近判ってきた。外套掛けの頂上に鳥のように留まっている。
「ワシとしては金銀宝石よりも知識の書物がいいのう。ただし、寝床としては金貨がワシの身体にはいいのじゃ」
七竜の長老格ゴッデスは一番物知りと言うだけあって、書物が好みのようだ。今も本棚の書物と書物の間の空隙を見つけて入り込んでいる。それにしても金竜が金が好きとはやはり関連性があるのだろうか?
「私は鉱石よりも宝石のほうが好きだな。オニキスで満たされた寝床が夢であったよ」
七竜のNo.2である黒竜ノクス。身体が小さくなった分、夢は現実味を帯びているかもしれない。
今はレドが作業している机の隅にうずくまってレドの手元を見ている。
レドが作業しているのは、小竜ゴーレムを作り出すための幾つかの部品作成であった。
机上に小さな魔法陣の描かれた羊皮紙を敷き、その中央に銀板、周囲に紫水晶を粉砕した粉、銀粉、にかわを置く。
レドが魔方陣系Lv6「宝具制作」の呪文を唱えると、既に6度も繰り返して手慣れた魔印誓言が銀板に刻まれ、そこににかわを元にした接着剤が流し込まれた後、紫水晶の粉が吸着していく。
さらにその表面を銀粉が覆い隠すと、今度は銀板が曲がっていき円筒形に形成された。
続いて、物質変化系Lv9「極小化」の魔法により銀の円筒が小指の爪先ほどに小さくなり、時間系Lv9「永続効果」でその効果時間を永続的なものに変える。
そこまで作業すると、レドは立ち上がった。
「ちょっと学院長に行って魔法を掛けてもらってくるよ」
研磨されたルビーに先ほどまで作成していた小さな銀の円筒を仕込むには、物質変化系Lv11の「分子浸透」が必要なのだが、レドはまだLv11に達していないからだ。レドの実力は最近ようやくLv9に届こうというところである。
仕込みルビーが完成すれば、その後は封印系Lv2「破邪封印」で黄銅竜キャンツの霊魂をルビーに封印し、物質変化系Lv1「整形」で抜け殻となった鉱石を元に他の金属を加えて小竜の形に造形、ルビーを埋め込めば小竜型ゴーレムの完成である。
七竜のうち6体はこのような手順で新たな身体を手に入れ、残る1体、黄銅竜キャンツのゴーレム体制作を6体の小竜が見守っていたのであった。
レドが部屋を出て行くと、ノクスが話を切り出した。
「いよいよ、もう少しでキャンツも復活するわけだが、我らは今後どうするのだ?アリシアが現世に留まることを選んだ以上、付き従うつもりではあるが、レディアネス達に対して我らはどうする?」
「こうなったのも何かの縁。ワシとしてはレディアネスの使い魔として協力しても良いと思っておるよ」
ゴーレム体の制作計画をレドがゴッデス達に説明したときに、使い魔として協力してくれないかとレドが要請したのだ。ただし、あくまでも協力要請であり、使い魔としての隷属魔法は用いないとレドは説明した。
アリシアに仕えることを一番として構わないが、暇なときはレドの冒険の手伝いや古代知識の助言者として協力してほしいという説明であった。
「アリシア姫の身体を作るという事に関しても協力せねばならぬし、何よりも、“解放騎士”の魔導ブレインNo.Xであったクアンの話は信頼できる。今、この世界はワシらが戦争に敗れた世界であり、偽神は健在のようじゃ。だとすれば、ワシらは復活した火種。来たるべき時に備えて再びチャンスが貰えたと喜ぶべきじゃろうな」
「シャティル殿は剣匠ということでござるが、剣聖となった後、人類の剣として立つことが出来るだろうか。それが出来れば期待できるのでござるが」
「ソウルチェックはクアンが逐一やっているみたいだけどねぇ。僕としては、彼らは見所があると思っている」
ウィルマサの懸念にトーニアスが答える。
「再び戦う力をくれたことに関しては、俺ぁレドって奴に感謝している。どうせ敵対するならそのときは食い千切るだけだしなぁ」
「ガンドールは簡単に考えすぎよ!」
「じゃあ、シュペリエはどうするんだぁ?」
「私は彼らを信頼して良いと思ってるわ。テオストラの戦いぶりや私達を助けてくれた行いを見るに、彼らは古代王国の後継たる資格ありだと思っています。時が来れば、我らのねぐらの財宝や解放騎士の手がかり等、与えてもいいのではないかしら」
「それに関してはまだ早計だ。しかし、それを見極める意味でも、彼らと行動を共にするのはいいかもしれん」
ノクスの意見に他の5竜が賛同した。
「キャンツの意見はいいのかしら?」
「今はまだ話せる状態ではないし、あいつが語り始めたら長いわ五月蠅いわ・・・・・・まぁ、我らと異なる判断はしないだろう。それでは、レディアネスの要請を受けるとしてだ、交渉はゴッデスに任せる。我からの要望とすれば、オニキスを敷き詰めた寝床がほしいくらいだな」
ノクスの発言に、ずるい、それなら僕は金貨の寝床を、とか私は銀貨とかそれぞれが好き勝手に話し出し、後ほど戻ってきたレドが、使い魔となる条件としての寝床整備案に対し、顔色が青くなるのであった。
「シャティルの金欠をいつもからかっていたのに、まさか、俺が同じ羽目に陥るとは・・・・・・」
後日、七竜の装飾がされた杖を持つLv9魔法使いレディアネス・クレイドが、剣匠シャティル・ヴァンフォートを連れ回して冒険者ギルドの依頼を片っ端からこなす光景が、ラナエストでよく見られるようになるのであった。




