幕話04 技術の功罪
2015/12/27
行間修正を行っています。
全体編集に伴い、この話を幕間に移しました。
ラナエスト魔法学院に、スフィとイアンの二人が訪れた時の事。
スフィとウォルスは久しぶりに再会したこともあり、まだ色々と話があるという。そこで、イアンは学院長室を出て、レドの部屋に案内してもらっていた。
「なぁ、俺、23歳なんだけど、レドは何歳?」
「16歳です」
「若っ!その割には貫禄あるな。19歳位に見える。あ、あと、タメ口でいいぞ」
「なら、そうさせてもらおう」
イアンは、部屋の中を色々と興味深そうにあちこち眺めていたが、壁際の棚に置いてある二つの物に目を止めて近づいた。
一つは、先日ミーナに却下された炎の矢が打ち出される銃、もう一つはシャティルが当面使える用に製作した、新しい剣だった。
「これは、銃!?この世界にも銃があるんだ! それにこの剣は、刃が無いな。重さだけでも充分ダメージ与えられそうだが」
「イアンの元居た世界にも銃はあるのか。こちらでは、古代王国の文献に載ってたのを見つけたんだ。その銃は、中でガスに火打ち石で着火させ、その炎を触媒に炎の矢を打ち出せる仕掛けだ。仲間の森守用に作成したんだが、森守が火を撃ったら火事なるし獲物も焼けるからって駄目出しされたよ。撃鉄も文献にはあったのに、連射の邪魔だって言われた」
最後は苦笑しながら言うレド。
「空気を触媒に「集水」して、塩を触媒に「低温」で氷を造る。あとは氷を触媒に「氷弾」、とすれば、塩の補充だけで氷弾銃が造れるんじゃないか?」
「それは俺も考えたんだ。でも、3つの魔法を瞬間的に順番に使う形式は、引き金を引いてから氷弾が出るまでにどうしても時間差が生じるんだ。それに魔力消費も激しい」
「術者の魔力を使うんだ?ふうむ・・・それなら、こいつを使ったらどうだ?」
イアンはポケットから金属状の小さな板を取り出した。それは楕円形に近く、白地に薄く青味が入った色彩だ。
「スフィルの鱗だよ。氷の魔力が元々籠もっているし、消費魔力は自然回復するらしい。これなら理想的な氷弾銃が造れるぞ」
貰って良いのかと聞くと、スフィには内緒な、と笑って言う。身体を乗っ取られた氷帝竜と戦った時に数枚手に入ったらしい。
「この世界の魔法は、非常に学問的で俺には覚えやすい。元の世界の学問の技術が応用が利くんだ。それから、この世界の魔法は、精霊や魔法生物だとか竜だとか、触媒に使えそうな生物素材への試みが少ない気がするな。例えば、火の精霊をなんとかすれば、炎系魔法の触媒なんてほとんどそれで済んじゃうだろう」
「おそらく応用は出来るけど基本知識には入れてないんだよ。対象の生物が乱獲されても困るだろうからな」
「それは理解できるけど、魔力を持つ生物がなぜ生まれるのか、その環境や霊質を研究するのも面白いかもしれないぜ。精霊達の本体は普段、霊界に居るんだろ?その助力を引き出せるようにすれば、触媒事情はがらっと変わるかも知れない」
確かに霊界への干渉の仕方というのはまだ考えたことがない。精霊使いが結ぶ精霊契約を参考に調べてみるのもありだとレドは思った。面白い。イアンと話をしているとどんどん、目の前の雲が晴れていく気がしてきた。
イアンが今度は剣を手に取ったのを見て、レドが説明する。
「そっちの剣は魔法の「整形」と「元素加工」で作成したのだけど、これも文献にあったタングステン合金の加工に成功してね。でも、研いで刃を形成するのは固すぎて無理みたいだ。それと、固すぎて台座の金属と一体化させることが出来ないために、宝石を付けて魔力付与品にすることが出来ないんだ」
「タングステン・・・俺の世界にもその言葉はある。古代王国の時代にどこかで接点があったのかも知れないなぁ。剣の方は、指輪のでかい物のイメージで、鍔元に外付け固定・・・魔力伝導性の高いミスリルとかで目抜き穴に棒状のものを差し込んで固定すれば出来るんじゃないか?目抜き穴くらいは開けられるんだろ?」
「その手はあるな。見栄えは多少悪いかも知れないが」
「なぁ、せっかくなんでその作業してるとこ、見せてくれないか?」
イアンはテーブルに手を付いて身を乗り出しながらお願いしてくる。
「構わないよ。後でイアンの魔法カードの作成も見せて貰っていいかい?」
「もちろんだとも!」
それから小一時間の間に、タングステンの剣に魔力付与する作業は無事完成した。イアンの発案通りに目抜き穴を使うのが良かったようだ。これで後日、ギルビーの手を借りて最終調整をすれば、立派な魔法剣としてシャティルに渡せるだろう。
その後は、レドは、イアンのカード作成技術を見学しながら、求められて改善案を考えたり、触媒インクの作成法や触媒の入手方などを議論したりしていた。
イアンはLv3の魔法使いということだが、その知識は部分的にLv6に相当することも判った。魔法学院で基礎の勉強をすれば、おそらくあっという間に卒業資格を取れるのではないだろうか。
現在は、タングステン製の剣の細かな飾り加工を続けながら話をしている。が、話題が銃の話になったとき、イアンが真剣な表情で聞いてきた。
「なぁ、レド。あの銃について、知っている人はどれくらい居る?」
「俺の仲間と、学院長と、鍛冶師のシンガとエベラード、くらいかな」
「鍛冶師が知っているのか・・・ちょっとまずいかも知れないな。今のところは魔法がないと作成出来ない銃だけどもさ・・・・・・俺の世界では、あれが魔法無しで製造されている」
「魔法なしで?」
「金属で弾丸を造り、火薬の爆発力で発射するんだよ。刀剣鍛冶なんてほとんどいないんだぜ」
「そうなのか!」
「で、その結果・・・俺の世界の歴史では、騎士は廃れてしまった」
イアンはそれから、自分の世界の銃についてレドに教えた。
銃の開発により、騎士や武士の鎧は重いだけで役に立たないものとなり、戦場の主流武器は銃に変わっていったこと。兵士の養成に時間を掛けずに済む、つまり素人でも殺傷力のある武器のため、戦場と戦闘員が増えたこと。特に、火薬の存在が砲撃や自爆テロと言った、安易に敵を殺傷する手段を拡散させ、銃器の所持を制限している国に比べて制限していない国は暴発事故や凶悪犯罪が多いこと、等々。
「だから、そのエベラードが魔法を使わない銃を開発し、品評会で公表することは、この世界に革命を起こすことに近いんだ。俺は、止めさせるべきだと思う」
「一理あるな。しかし、他の誰かが作ってしまう可能性もあるのでは?」
「その可能性があるから自分が先に作るってのは、自分が殺される前に相手を殺せる武器を作るってことだな。もう最初から、“相手を殺す”前提が決定されてしまってるってことだ。俺の世界ではその延長上で・・・とんでもない爆弾が開発されてしまった」
イアンの表情に只ならぬものを感じ、レドは次の言葉を待った。
「例えて言うと、戦争に火竜のブレスのようなものを使っていたんだ。研究者達は、そのブレスをどんどん強く、広範囲に使える用に研究を重ね」
「既存の火竜を鍛える事に限界を感じた研究者は、全く新しい竜を作るところから始めたんだ。その結果、新しい竜はブレスどころか、身体全体に強力な毒を持ってしまった」
「初めてその新しい竜のブレスが吐かれたのは俺の国だ。その結果、大勢の犠牲者が出た」
「今では世界各国がその毒の竜を所持し、互いにいつでもけしかけることが出来る状態で喧嘩し、たまにその竜の世話の仕方を間違えて毒を喰らったりしてるのさ」
それは、レドに取って想像以上に重い話だった。エベラードが銃の開発に成功した場合、世界の有り様がが変わってしまう、その危険性は重い。
仮に、この情報を国王や騎士団長、学院長などの審査員に伝えた場合、エベラードは評価される武器を造ったにも関わらず、選考から漏れるだろう。それは・・・彼という人材と技術が、他国へ流れる可能性も発生するのだ。かといって、銃を評価して五本指にすれば、その時点で銃の有用性はラナエストを中心に広がってしまう。
「・・・どうすればいい?」
「それを伝えようと思っていたんだよ。幸い、この世界は魔法がある。銃を無力化する手段をいくつか開発しておけば、銃の価値は極端に飛び抜けないと思うんだ。例えば、火薬の燃焼を無効にする魔法の開発。それから金属の矢尻や弾丸を一箇所に集めて戦士達を保護する魔法の開発とか・・・」
イアンとの出会いは、レドの魔道具開発に新たな光明をもたらしたが、それ以上に、レドの識見を広げる切っ掛けとなった。世界の壁を越えた二人の知識のやりとりが、確かに限界突破をもたらす事をレドは感じていた。
いずれ世界そのものを壊していく事になるかも知れない。しかしレドは思う。それならば壊れた後に新しい秩序をもたらすところまで考えるのが責任の取り方だろう、と。
今回はちょっと重いというか真面目なお話でした。
異世界のガンナーって好きなんですが、放置するとファンタジー世界がファンタジーを失っていくのでは?と書いてて気が付いた事が発端です。
元は本編に入れていましたが、幕間に移した方が本編のテンポが良いかと、移しました。
ブックマーク登録や感想や評価等頂けると嬉しいです。
よろしくお願いします。




