幕話02 もう一人の剣匠
2015/12/27
全体編集により、修正加筆を行っています。
シャティル達が旧鉱山から王都ラナエストへ到着し数日後。
シャティルの当面の借金返済のため、また今後の活動の仕方を考慮して、一行は冒険者ギルドへ冒険者として登録する事を決めた。
王都には試練の迷宮という地下迷宮があり、ここへ入る為には冒険者資格を取る必要があるのだ。
5層潜る事に冒険者レベルが+1される仕組みで、45層まで到達してレベル10ともなるとようやくベテランとなれる。この冒険者レベルによって受けられる依頼も管理されているため、まずは冒険者レベルを上げることが当面の課題であった。
現在、シャティル、レド、ミスティ、ミーナ、レティシアの5人と猫ゴーレムのクアンは、試練の迷宮の地下3階を歩いている。ギルビーとオルフェルは製作活動をしているためここにはいない。
隊列はミーナが先頭で便利たいまつを持ち、二番手がシャティル、三番手がミスティ、四番手がレティシア、殿が魔法の明かりを持つレドだ。普通は魔法使いが殿役はしないものだが、レドは装備と身のこなしとから、殿を問題なく勤めている。ともすれば、不意打ち《バックスタッブ》を受けても杖で余裕で受け止め殴り返すから、本当に魔法使いかと疑いたくなるシャティルであった。
今日の目的は、ミーナの新しい武器「緑風の鉈」の試し切りと、シャティルから頼まれてレドが自作したミスティの新しい杖とレド自身の杖、これらの使い勝手と、レティシアの戦闘技術を確認するのが目的である。
レティシアは元々自分の腰にぶら下がっていた、剣の柄のようなものを装備していた。クアンの説明によると、その昔、解放騎士乗りが好んで装備していた武器で、嵩張らない事が利点の、魔法で光の剣身が発生する細身の剣になるということだった。
試練の迷宮に入って最初の戦闘の時に、レティシアの技量もさることながら、その武器の目新しさにレドが俄然興奮して、今度調べさせてくれとレティシアとクアンに迫ったのは言うまでもない。
一方、シャティルは相変わらず“泣き鉈”を装備している。レティシアの武器、“レイタック”を一度貸して貰い振るってみたが、軽すぎる、と言ってすぐ返してしまった。
「どっかに魔剣でも落ちてねえかなぁ」
「そんな簡単にあるわけないでしょ!」
相も変わらぬボケと突っ込みをシャティルとミーナが交わしながら進んで行くと、前方に小部屋発見。そしてモンスターはコボルドが三匹。
すかさずミーナとシャティルが立ち位置を交換し、泣き鉈がコボルドの一匹を刺突する。ミーナのグルウィン・ベイルもコボルドの木製盾をかち割り、左腕に半分食い込んだ。
「ラクリマ!」
ミーナが発したキーワードでグルウィン・ベイルから風刃が発生し、コボルドの左腕と喉を切り裂いて絶命させる。
残る一匹はミスティが杖で打ち据え、怯んだところにレティシアが突進して額をレイタックで貫いた。
コボルドの装備は質が悪いものが多く、剥ぎ取ってもあまり良いものはないが、今回のコボルド達は銀貨を計30枚ほど持っていた。その他は片手サイズの小さなツルハシを腰ベルトに紐で繋いでいたが、特に価値のあるものにも見えず、それは放置した。
「あまりゆっくりしてると屍肉あさりが来るから行こう」
屍肉あさりとは迷宮の掃除役でもある、地下ハイエナやスライムなどだ。ちなみに、一番会いたくないのは金属を腐食させるラスト・スライムである。
それからしばらく一行は、オークやゾンビといったモンスターを倒しながら、地下6階まで潜った。
地下6階を歩いていると、前方からたいまつの明かりが見えてくる。多少警戒しながら進むと、相手の全容が見えてきた。一人だ。
長髪を後ろで無造作に束ねて垂らしており、背中には大きな、太刀を背負っていることにシャティルは気付いた。目は細くそこはかとなく軽薄そうな表情だ。オルフェルにちょっと似ているかも知れない。
ロンクーなまりの、やはり軽薄そうな声で相手が訪ねてきた。
「こんなところで人間と出会うのも珍しいですね。どこまで行くんですか?」
「適当に探索して切り上げるんで、特にどこまで、とは決めてないな。俺はシャティル。あなたはロンクーの“侍”?」
「そのとおりです。私はレギン。我が師ジュウザから剣匠の称号を貰っております」
シャティル達は息をのんだ。複数の剣匠に会うなんてそうそうあることではない。
しかし、相手はミーナ達の驚きを別の方向に解釈したようだった。
「ふふ、驚いてますね。まぁ剣匠と出会うなんて滅多にないでしょうからね」
含み笑いをしつつ、シャティル達を見渡したレギン。その視線が、レティシアの前で止まった。
「お嬢さん、お名前は?」
「え?・・・僕? 僕はレティシアです」
「僕っ娘!キタァ!」
レギンは突然叫んで身をよじった。その異様さにレティシアが上体を引いて半歩後ずさる。
「レティシア!良いお名前だ!私の好みだ!私の妻になってくれませんか?!私はレギン、22歳です!」
ずいっと迫るレギンにおびえ、レティシアは飛び退ってシャティルの右腕に組み付いた。
「ヤダ!断る!」
「なぜです?!私ならばあなたを守り、幸せにして見せます!剣匠の妻になれる人なんてそうそういませんよ!」
「あなたの事、全然知らないし・・・それに、剣匠ならシャティルだって剣匠だもん!」
レギンの表情が止まった。
にたり、とした視線でシャティルを睨め付けてくる。
「ほう・・・剣匠?あなたも剣匠ですと・・・?」
「ま、隠すつもりもないがな。剣聖ゴードの弟子で剣匠のシャティルだ」
「ほう・・・あのゴードの弟子ですか・・・なるほど。それにしてはお持ちの武器が剣ではないようですが?」
嫌み臭いレギンの物言いに、本当はまだ武器の目処が立っていないのだが、ここでそれは言いたくなかった。
「今、新調中なんでね。今日は持ってないのさ」
「控えの武器でダンジョンに潜るとは余裕ですねえ。さすがは剣匠と言ったとこですかな?」
最初はただの軽薄な男かと思ったら、シャティルが剣匠だと知った途端に嫌み臭く粘着質な物言いになったレギンに、ミーナもミスティもいらいらし始めている。
「今日は仲間の武器の具合を見るのが主体だからな。しかし、俺以外の剣匠に会えるとは思わなかったよ。あんたも武闘祭に出るのか?」
「もちろんでますよ。剣聖の称号を得るためにも!」
「じゃあ、ライバルって訳だ。武闘祭で対戦組まれたらお手合わせ願おうか」
「いいでしょう。剣匠は何人も要りません。それに」
レギンはそこで言葉を止め、レティシアを見た。
嫌な予感がするレティシア。
「今日はレティシアに出会えた記念すべき日ですから無粋な真似は止めておきましょう。しかし!いずれ彼女を賭けて勝負させて貰いますよ」
「勝手にレティを景品にするなよ。大体、さっきお前、いきなり振られてるだろうが」
シャティルももはや遠慮しなくなってしまった。容赦のない指摘にグサっとくるレギン。
「いかに慈愛の女神アイーシャと言えども、常軌を逸した勧誘は認めておりません。お引き取り下さい!」
ミスティも先ほどからの苛立ちを抑えきれなくなったようだった。
アイーシャの僧侶からの忌避まで受けて、レギンはショックを受けていたようだったが、なんとか立ち直ったようだ。
「今日のところは私はこれで帰らせてもらいますよ」
そう言ってきびすを返しかけ、レギンが立ち止まる。
「あ、そうそう、この先に生意気にも掛かってきた魔獣が居ましたので切り倒してきました。私は要りませんでしたが剥ぎ取りしたければどうぞ。それでは、次の機会を楽しみにしていますよ」
そう言って、レギンは遠ざかっていった。
「何なの?あの男・・・」
ミーナが呆れて言う。
「今度有ったら、「ロリコン剣匠!」って言ってやろ!」
「ミーナに言われるとは奴も災難だな・・・」
レドが苦笑し、一行は気を取り直して先へ進むことにしたが、なにか毒気を浴びてもう帰りたい気分にもなっている。そのため、レギンが言った魔獣の死骸だけでも見てから帰ることにした。
しばらく進むと、次の部屋に何かが倒れている。
近づいてみると、それは大きな飛竜、ワイバーンだった。首が両断されている。
「これを・・・アイツが一人で倒したの・・・?」
ミーナが驚いてつぶやく。そこにシャティルの笑い声が重なった。
「ふっふっふ・・・伊達に剣匠を名乗っちゃいないな。柳生流剣術、柳生ジュウザの弟子レギンか。面白え、刀が手に入ったらきっちりケリつけてやる」
「シャティル、あの人に負けないでね?」
「ああ、まかせとけ!」
レティシアが掛けた言葉には、単なる激励以上の気持ちが込められている事に、言った方も言われたほうも気付いていない。
レドは苦笑し、ミスティは背中を向けてムッとしたが、それに気付いているのはクアンだけだった。
『ソウルチェック結果・・・・・・あまり良くはないニャ・・・』
「それで、このワイバーンどうするの?何か剥いでいくの?」
「奴のおこぼれ貰うみたいで俺はやだね」
「え~!もったいないよ!」
ミーナがシャティルに抗議するが、シャティルは譲らない。困ってレドを見ると。
「奴は剥ぎ取る知識も運ぶ手段も無かっただけさ。シャティルがいらないなら、こいつをギルドに売ったお金はシャティル抜きで山分けしようか」
ニヤリとしながら言うレドに、畜生、判ったよ!と言って解体作業を始めるシャティル。
それからしばらくして、シャティル達はきっちりワイバーンから剥ぎ取った肉や皮を確保し、帰路につくのであった。
二人の剣匠の出会いが今後何をもたらすのか、まだ誰も知るよしはない・・・




