03 テオストラの幽霊
2015/12/27
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テオストラ露天鉱床はラナエスト王国国営の鉱床だ。
テオストラは“露天”と言われるだけあって、およそ直径1ケリー(km)に渡る大穴がその範囲だ。
大穴の中心にはごつごつした岩山があり、その山と周囲の大穴内壁の間が、現在のところ、100マトル(200m)ほど掘り下げられている。
例えれば、冒険者ギルドの酒場で出されるウイスキーグラスの中央に浮かぶ氷塊の用だ。
穴の周囲の壁に沿って階段や昇降機、横穴などが無数にあり、また、内壁から中央の岩山に向かってはあちこちに吊り橋が架けられている。
中央の岩山は崩壊しないよう木材で支保の柱や足場が組み付いており、内部に侵入する坑口が随所に見られる。
一見すると、大地を掘り進んだら堅い岩山があったので、岩山を避けながら周囲を掘り進むと同時に、穴の周辺も中央の岩山もあちこち調べまくってる、という状況なのだ。
実際のところは、今のテオストラ露天鉱床の地形形成の要因は別である。
テオストラは中央の岩山からは主に鉄鉱石やまれに貴重鉱石が、周辺の地盤からは珪石やまれに銀鉱石が獲れる。
さらには経験則として、岩山の表面は良質な鉄鉱石が獲れ、また、岩山内部もより下方へ、より中央へ行くほどミスリルやアダマンタイトが採れることが知られている。
その結果が、前述の地形を成しているのだ。
ゆえに、一攫千金を狙う者達は岩山内部を深く掘り進むか、岩山周辺の採掘範囲をさらに広げることを考えるのである。
入り口には騎士団の詰め所があり、入坑者と退出者及び産出鉱石の確認が行われている。
入坑者は王国に直接雇われた監督者の他、日雇いの鉱山夫で構成されており、産出鉱石は基本的に国の物とされている。ただし、鉱山夫はその日の採掘量の2割まで、かなりの格安で買い取りが可能となっており、鍛冶師やその徒弟が直接掘りに来ることも珍しくはない。
この仕組みに特に異論が出ないのは、詰め所で貸与される魔道具“土捨棒”が優れものだからだ。
この魔道具はラナエスト魔法学院が開発した物で、4本一組となっている。地面に設置すると、採掘で発生する土砂を、その内部に捨てることが可能なのだ。この魔道具のおかげで、余計な土砂や岩石を搬出するという苦役から解放されたため、鉱床開発は一気に加速した。
この魔道具は騎士団が厳重管理しており、他国も欲してはいるがこれまでのところはどこにも渡されては居ない。技術公開もされておらず、その理由として、「捨てられた土砂はどこへ行くのか?」が公表出来ない内容なのではないかと疑われている。
その日、トリントン商会から派遣されてきた鉱山夫達は、よりよい品質の鉱石を求めて、テオストラの地中奥深くまで掘り進んでいた。
彼らは、鍛冶師トリントンから指令を受けており、一番良い鉱石を求めてテオストラの“底”の“中心部”を目指していたのである。
この計画を実行してから既に4ヶ月。他の鉱山夫と違って途中の採掘は岩山表面をなぞるだけに留め、ひたすら地中を掘り進んだ結果、側面に見えていた岩山表面は段々と天井側へ移行し、彼らは目的地が近いことを確信していた。
そして遂に、一番“底”と思われる場所に到達したのだ。
天井に見える鉄鉱石のいくつかを採取した彼らは、仲間の内の一人が、腰に吊した赤くて小さなツルハシで一度だけ壁面を叩いた事を特に気にも留めなかった。
これから、地上に戻りつつ、道中の鉄鉱石を採掘しなければならない。8割は国に納めなければならないからだ。詰め所の騎士達は鉱石を見る眼も特に持っていないため、後は底で採掘したものを買い取れるよう数量を確保して、出入り口を塞いで偽装する必要がある。鉱山夫のリーダーはそう判断し、地上へと戻る指示を仲間に出した。
“底”への出入り口を偽装し、鉄鉱石も充分集まったところで数日ぶりにようやく地上へ戻れる、と安堵した鉱山夫達。
既に、同業者達も歩き回る地区まで戻った事で、彼らは安心しきっていたのだが坑道内のランプの暗がりの中、前方から、何か白いモノが向かってくるのが見えた。
ずるる・・・・・・ずるる・・・・・・ずるる・・・・・・
何かを引きずるような音が聞こえる。
得体の知れない恐怖に、足が棒のように固まって動けない。
ずるる・・・・・・ずるる・・・・・・ずるる・・・・・・
最初は、誰か足を怪我して助けでも求めているのかとも思ったのだが、それならば向こうは声を発してもいいはずだ。
向こうがさらに近づいて、ランプの明かりでその姿が見え始めた時、
「ヒィッ!」
鉱山夫達は息を飲んだ。
裸の女だ。両目は潰されており顔面は赤黒く血がこびりついている。膝から下はなく、両手だけで張って進んでいる。引きずっているせいだろう、腿付近は赤く血まみれだ。
女はピタッと動きを止めて、その口を開いた。
「誰か居るの?」
地獄の底から発せられたかのような、おぞましい声だった。
鉱山夫達が恐怖に駆られ声にならない悲鳴を上げ始めた時、女の背後から今度は、鋼鉄の足音が聞こえてきた。
ガシャン・・・・・・ガシャン・・・・・・ガシャン・・・・・・
女が再び口を開く。
「デュラハン様が来るよ・・・・・・デュラハン様が来て、私の足を見繕ってくれるの・・・・・・だから・・・・・・」
女がそこまで言った時、その背後に、重鎧を着た騎士風の男が見えた。いや、男なのだろうか?
体格は男のようだが、何しろ・・・・・・首がない。顔が見えない。
「ニゲナイデネ!」
女が突然、膝下のない上体なのに四つん這いになり、恐ろしい形相でシャカシャカと迫ってきたのだ。
「ギャァアアアアアアアアアア!」
鉱山夫達は今度こそ逃げ出した。
腰が抜けて立てない者と、泡を吹いて気絶した者とが3人いたが、動ける者は必死で逃げた。
どう逃げ回ったか覚えていられず、それでもなんとか地上の騎士団詰め所まで来た時、騎士達が驚いて見たのは鉱山夫達の真っ白な髪と痩けた頬、泣きはらした顔で、事情を聞くにも精神が無事な者は鉱山夫のリーダー只一人だけであった。
数刻後、鉱床内で3人の遺体が発見される。遺体は逃げ遅れた鉱山夫で、彼らの膝から下は叩き切られたように切り取られていた。その中には、赤いツルハシを振るった男も居たが、彼の腰にはツルハシはもう下がっていなかった。
6月下旬、王都ラナエストの中央噴水広場-
ラナエスト中央噴水広場の北西側、北大通りに面した商店前に大型の荷馬車が二台、停車している。
御者の男は先ほどまで裏手に荷馬車を回し、鍛冶ギルドの倉庫にコークスを納品したところだ。ギルドから支払われた買い取り価格はいつもの1.2倍。予想外の高収入に機嫌が良くなっていた。
御者は荷馬車の脇で待っていた二人の男女に声を掛けた。
一人は身長5アルムス半程、若干平均より低めの背丈で細身、短髪黒髪の若い男性だ。茶色い革のズボンに同色の袖無しベスト、右腰には幅広の短剣を挿している。顔は優男だが、身のこなしのせいなのか、身体全体が躍動感を感じさせる雰囲気を醸し出している。
もう一人は身長6アルムス程、スラリと伸びた優美な身体は薄緑色のローブ越しにも美しい曲線を想起させ、銀色の艶やかな長髪と冷めた雰囲気のまなざしが特徴的な美人女性だ。
「お二人さん、これで護衛任務完了だ。ありがとうよ」
そう言って二人組にそれぞれ2万コトスずつ渡す。
護衛報酬をもらった二人は御者と別れ、とりあえず近くにある噴水広場へ行き、ベンチに腰を降ろした。
「さて、これからどうするんだ?イアン」
銀髪女性の口から発した声は、想像どおり冷めた感じの低めの声だ。
「どーすっかな。こっち来てから初の都会だし、物見遊山してあとは武闘祭まで時間つぶしと行きたいけども・・・・・・やっぱアレだ。スフィのつてで魔法学院行って、そっちに山の情報伝えよう。それでついでに、魔法の勉強させてもらえば良いかな」
「王宮や冒険者ギルドではなくて、魔法学院に情報を?私のつては古くてな、おそらく今の学院長くらいだと思うぞ。すぐに会わせてもらえるかどうか・・・」
「それ以外のところだと、確認に時間かかると思うし、むしろ学院長くらいの人の方が良いような気がするんだ。ついでに俺の事情についても情報があるかも知れないし」
「では、“飛金街”に宿を取って、それから行ってみるか。ウルスラントの懸念が晴れないとおちおち寝てられんからな」
「いや、スフィは寝過ぎでしょ」
「何を言うか、睡眠は大事なのだぞ」
「それ以上大きくならなくて良いからさ」
「イアンも寝れば育つのだぞ」
「今更伸びねーよ!」
仲睦まじい二人とその目立つ容貌に、街ゆく人々はおのずと視線で追いかけるのであった。
王都ラナエストの工房街-
その日、クアン伝手に連絡を受け、ミーナ、ミスティ、レティシアは工房街にあるギルビーの店舗兼住宅を訪ねていた。今日は営業していないのか工房街通りに面した窓にはカーテンが掛けられている。1階のリビングにはギルビーと居候のオルフェルが待ち構えていた。
「こんにちは~! あれ? シャティルとレドは?」
ミーナの挨拶はいつも元気が良い、とギルビーは微笑ましく感じていた。
「「こんにちは」」
ミスティとレティシア、綺麗どころ二人の挨拶がハモり、オルフェルも上機嫌で挨拶を返した。
「レドはもうすぐ来るぞい」
ギルビーが上を指さして言う。その意味が判らないミーナ達3人。すると、2階の階段からレドが降りてきた。
「なんだ、もう来てたんだ」
「いや、立った今来たんだよ。面倒だから、俺の部屋とここの2階の空き部屋に転移門を造ったんだ」
「何それ! そんな事出来るの?!」
「ああ。クアンの助言で「移送」の魔法を魔道具化することが出来たんだ。いろいろ条件はあるけども、出来るようになった。これでいつでも風呂に入れるぜ」
「「「!?」」」
意味が判らない女性陣。
「なんだ、知らなかったのか。ここの庭には露天風呂があるんだよ」
びっくりして、庭を見に行く3人。
良く見ると、これまで庭石に見えていたものは、露天風呂の一部であった。
ギルビーの説明によると、工房街の建物は基本的な造りが統一されており、裏庭は用排水路が一本づつ貫いているのだそうだ。用水は鍛冶仕事の冷却用で、ついでに高炉から発する熱を利用した風呂場が造られているらしい。
「露天風呂付きの自宅なんて羨ましいです」
「裸が見られても良いならいつでもどうぞじゃ」
「い、いや・・・・・・それは・・・・・・」
ミスティとギルビーの掛け合いに皆が笑っていると、当の庭から客がやってきた。
シャティルだ。その他にゴード、そして先日魔法学院で会ったシンガと見知らぬ男がやってきた。ミーナ達の見知らぬ男が口を開く。
「お邪魔するぞ、ギルビー。いや、お主の家が隣にあったことは運が良かったわい」
「ようこそセキテツ殿。これまであまり接点は無かったが今後ともよろしくのう」
セキテツと呼ばれた男とギルビーが左手で握手する。セキテツの右手は包帯を巻いていたのだ。
「もしかして、シンガさんのお師匠さんでシャティルの刀をお願いした人?」
レティシアの指摘にセキテツが頷く。
「いかにも。ワシが五本指のセキテツじゃ。皆さん、よろしく」
「そしてワシがシャティルの祖父、剣聖ゴード・ヴァンフォートじゃ。ギルビー、ミーナ、ミスティ、レティシア、クアン。シャティルが世話になったと聞いておる。ありがとうな」
ゴードがニッコリと微笑んだ。
初対面の者同士が互いに挨拶を終えたところで、レドが話を始めた。
「今日、ここに集まって貰ったのは、みんなに内密な話があるからだ」
「それは、わざわざワシらが裏庭から入るよう指示があったことと関係あるのかの?」
とセキテツ。レドがゴードの顔を見ると、ゴードが頷いた。
「まずはワシから話そう。品評会の事についてじゃ。」
ゴードの話の内容は、次のとおりのものだった。
2015/12/27
全体編集の結果、修正加筆があります。
旧幕間話にあった、イアン達の登場シーンはこちらに移しました。