028 剣匠の太刀、その名は
2015/12/27
修正加筆を行っています。
第一部エピローグです。
左手のやっとこで、先に構成した茎を掴み、槌を振るう。
シンガは一心不乱に槌を振るい続けた。
セキテツの工房の中、足でふいごを操作しながら、金床の上で刀を打ち続ける。練習刀を完成させたのは一週間前だ。そして続けて、ここ数日は高炉で様々な金属を溶かし、合金を精錬していた。やっと今日から、刀打ちを始めている。
精錬の配合比はレドの協力を得て最適なものを決定していたつもりだったが、練習刀と違い今回の真打刀にはテオストラから採掘されてきた、七竜達の宿っていた良質な鉄鉱石を用いている。その為、練習刀の時とは配合比が微妙に違っていた。最適な配合比を抽出するのに3日掛かっている。
そしてさらに、精錬したものを薄くたたき伸ばして水砕小割し、鋼小板を作成した。クロム、タングステン、モリブデン等と聞いたことのない金属の名前をレドが示しながら配合比を決めていった鋼小板、これにさらに、アダマンタイトを基本とした小板を用意し、これらを交互に重ねて加熱して、やっと打ち始めたのである。
ここから先の工程は、練習刀と同様で先の道程がある程度は読める。打ち、伸ばし、焼き入れ、焼き戻し、焼き鈍しを繰り返していくのだが、通常の技法と違い特殊なのは、焼き戻しに使う冷却水が魔力を飽和させたコボルドの王水であったり、焼き鈍しの際には粉末にしたオリハルコンの砂壺に突き刺したりと言った部分か。
半日ほどで、刀身ができあがった。練習刀の時はここから刃を研いで仕上げたのだが、今回はここから第二弾の行程に入る。刀身を一端ゆっくりと冷却させるため、シンガはそこで昼食を取ることにした。
セキテツの娘である婚約者のソニアが弁当を用意してくれていたため、それを食べながら水筒のお茶を飲んでいると、レド、オルフェル、セキテツがやってきた。
「予定通り進んでおるか?」
セキテツの問いにうなずくと、レドが次の支度を始めた。
「いよいよだね。俺の考えた理論が形になる日が来るとは!」
ここからはレドとシンガの連携作業となるのだ。
レドが魔方陣を描きアメジストの粉末の入った壺と魔印誓言を記した紙を用意して、冷えた刀身を中央に置いた。レドが呪文を唱えると、紫の光る粉末が宙に舞い、魔印誓言をなぞって刀身に焼き付けられていく。この段階は、主に武器破壊を免れるための刀身保護の魔法を組み込んでいるのだ。材質面でも考慮はされているが、魔力と霊力、化学反応の観点からの保護魔法をこの時点で刻み込んでいる。
続いて、シンガが用意したのはレドが事前に用意した特殊な装置だ。作業台は腰の高さ程で、茎を水平に固定する。水平に固定された刀身の下に、四方のみ支えられた長方形の板を置き、刀身の周りには透明な円筒形のケースが被せられ、作業台に固定された。
シンガが高炉で熱せられたタングステン合金の液体をケース内の刀身の型に流し込んだ。
炎の重合剣の時の合金よりも若干柔らかめにしたタングステン合金だ。シンガが合金を投入すると、レドが呪文を唱え始め、ケース内で合金が銀色の雲のように気化し始める。そこに、左手に二叉に分かれた大きな金属棒を持ったシンガが、右手の槌で金属棒を叩き始めた。
キイィィンという澄んだ音が響き渡る度に、銀色の雲状のものが薄れていく。レドが“音叉”と説明した金属棒が叩かれるたびに震えて、ケース内の銀の雲に共鳴して槌の衝撃を内部に伝えるのだそうだ。
シンガが槌を振るうたびに、銀の粉末状のものが刀身に付着し、表面が波紋状に波打っては消えていく。これは、鍛鉄に向かないこの金属を、なんとかして鍛鉄しようと考えた結果、同じ構成・強度の物質が直接触れずとも空気振動を伝達する共鳴現象を利用した鍛冶装置であったのである。
いつの間にか見学に訪れていたレティシアに抱きかかえられていたクアンが、ポツリと話した。
「これは、まさか・・・・・・失われた太古の製法「ダマスカス」技法かも知れないニャ」
クアンの呟きに、レドとセキテツが振り返る。
「クアン、これは俺が考えた製法だが、昔にもあったのか?」
「3千年前にも無かったニャ。その時ですら、古代の製法として失われたままで、遺跡から刀剣が発掘された程度ニャ。特徴はあの波紋模様ニャ。冷却してから研いだときにどうなるか・・・・・・それ次第かニャ」
「何から何まで常識外れな武器作りだよな」
そう言いながら、オルフェルが手に包みを持って二階から降りてきた。
「オルフェル、出来たのかい?」
オルフェルがレドにうなずきながら手に持っていた包みを広げると、そこには煌びやかな銀細工と無数の宝石で飾られた鍔と柄があった。
「レドの魔法技術とギルビーの宝石細工を組み込んでシンガが作った柄に、滑り止めの魔獣の皮、赤竜の鱗を使って仕上げていたんだよ。これで刀身が出来れば組み上げ可能だ」
オルフェル達は、シンガの作業が終わるのをじっと見つめて待つことにした。
やがて、ケース内の銀の雲がすべて消えると、刀身を取り出してオリハルコンの砂壺に突き刺し、冷めるのを待つ。その後、刀身の研磨の工程を経て、柄や鍔と組み合わせる頃には、ミーナ、ジーナロッテ、ミスティ達もやって来てその完成を待ち構えた。
「シャティルとギルビーは何やってるの?」
「屋上で仕上げの準備をしているよ」
ミーナの問いにオルフェルが答えると、ちょっと行ってみる、とミーナが屋上へ向かった。
屋上に上がったミーナが最初に見たのは、満天の星空に浮かぶまぁるい満月。
視線を落とすと、そこではシャティルが座禅を組み瞑想している。その周囲には魔方陣が描かれており、ギルビーが小さな壺を抱えて座り込んでいた。
「ギルビー、何してるの?」
「おう、ミーナか・・・・・・最後の準備がやっと終わったところじゃわい。後は刀が来るのを待つばかりじゃ」
ミーナはギルビーのそばへ行き、隣に腰を下ろした。
「ここでは何をするの?」
「ドワーフ族に伝わる秘術じゃよ。武具に祝福を与え、魔力と霊力を上乗せ出来るのじゃ。そして、何よりも、その武器に見合った名前を授かる儀式なのじゃ」
「それじゃあ、今回はふざけて名前付けられないねぇ」
フフと笑いながらギルビーも同意する。
「名前を授けてくれるのは知識の神タルフィナスと言われておる。果たして、どんな名前となるかのう」
「で、シャティルは何をしているの?」
「待ちきれなくてウズウズしすぎるのでああやって心を静めてるだけじゃ」
てっきり何か必要があってやってるのかと思ったら!
「紛らわしい真似してるくらいなら下で見学してなさいよっ!」
ミーナは思いっきりツッコんでしまったが。
「来る!」
シャティルがその目を見開いた。
すると、シンガが白布に太刀を包んで屋上へ上がってきた。後ろにはレドやオルフェル達が続いている。
「お待たせしました」
シンガが恭しくギルビーに太刀を渡し、ギルビーがそれを魔方陣の中央に安置する。
魔方陣から出てきたシャティルが、シンガとレドに出来映えを訪ねると。
「練習刀とは天と地の差になってしまったな。想定以上の出来映えだ。おそらく最高に堅く、なおかつ粘り強く、酸や熱で溶かされることもない。剣匠の扱いに完全に耐えきるだろう。切れ味も凄まじい。試したら鉄のインゴットを俺でも簡単に切れたよ」
これを品評会に出したら間違いなく五本指になれるだろうなぁ、とシンガが続けるが、元々これはシャティルのためのオーダーメイドであり、出品する予定はない。それでも言わずには居られないほどの出来なのであろう。
「化学変化にも強いが、魔法による変質に対しては完全な耐性が出来るはずだ。付加魔力については、STR+4、炎刃と光刃が発生出来る。炎刃は炎を刀身に纏うので不死者や再生能力を持つトロールに有効だ。光刃はレティシアのレイタックを参考に研究したもので、光の刃を伸ばして大型の敵を斬ることが出来る。月の魔力門と接続して常時魔力を微量に受け続けているが、騎士魔法と併用すると一時的に引き出す魔力を増大して属性の刃を強化することが出来るぞ」
「お前らってホント、自重しないよな・・・・・・でもまぁ、気に入った。凄い名刀じゃないか。後は、名前か!」
「きっと、“世界中の鍛冶師泣かせの太刀”とかって名前になるんじゃないの?」
ミーナの発言に一同の間で笑いが起こる。
「さて、では、始めるとするかの」
ギルビーは皆に宣言し、儀式を開始した。
ドワーフ族に伝わる祝詞を唱えながら、抱えた壺からエメラルドの粉末を魔方陣内に蒔いてゆく。魔方陣が輝きだし、やがて翡翠色の粉末が宙に浮き始め、太刀に纏わり付き始める。
野太い声で朗々と歌い上げるギルビーの声がやがて終わると、そこには何事も無かったのように、太刀が横たわっていた。
ギルビーは太刀を手に取る。刀身の何処かに、ルーン文字で武器の名称が記されているはずだ。
ギルビーはその記しを見つけ、そして・・・・・・青ざめた。
「ギルビー、どうしたんだ?その太刀の名前は?」
シャティルが待ちきれずにギルビーに近づきながら問いかける。
ギルビーは刀身の名前の記された部分をシャティルに見えるように太刀を持ち替えた。
「この太刀の名前はな・・・・・・」
言いながら見せる文字に、シャティルもまた絶句する。
「縁起でも無い名前じゃわい。なんでかのう・・・・・・」
ギルビーが首を振るが、シャティルの目は名前に釘付けになっていた。
そこに記されていたのは・・・・・・
「ルイン・ブリンガー・・・・・・滅びをもたらすもの、じゃ」
使い手の敵に滅びをもたらすのか、使い手にもたらすのか・・・・・・
シャティル達はまだ知らない。この太刀が威力を振るう時、その名を轟き渡らせる時が既に近づいている事を。
銀の剣匠と共に語られる、神々も恐れるルイン・ブリンガー、伝説の武器が誕生した瞬間であった。
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