027 暴風亭の一夜
2015/12/27
修正加筆を行っています。
「それでは、依頼達成と、ジーナロッテ、シフォンとの出会いを祝って乾杯!」
ゴードの音頭でシャティル達全員の乾杯が唱和し、宴が始まった。
王城の謁見が終わり工房街経由で帰ってきたゴード、ウォルス、シャティル、レド、レティシア、ミーナ、クアンに、工房街からはギルビーとセキテツ、シンガ、そしてエベラード。
別行動を取っていたミスティと冒険者ギルドに居たオルフェル、ジーナロッテ、そして飛び入り参加したシフォンの14名と1匹という大がかりな宴席となった。
これだけの人数のパーティというのも珍しい。通常の冒険者であれば6人前後で仲間を組んで冒険するし、人数が増えれば分け前は減るのだ。それゆえに、この規模の人数で宴席というのは、どういう組み合わせなのだろうかと結構注目されるものである。
ましてや、良く見れば、剣聖ゴード、魔法学院院長ウォルス、鍛冶師五本指の一人セキテツと言った有名人が居るとなれば注目度は尚更であろう。
冒険者ギルドの職員や暴風亭の常連客等は、密かに、あの集団の取り合わせは何であろうかと興味深く注視しているのであった。
そんな視線と周囲の思惑に気付いている者も居るには居るのだが、別段無視して宴席を楽しむのがゴードとシャティルであり、注意と警戒は解かないが切り離して宴席を楽しむのがウォルスとレドである。いずれも師弟兼祖父孫の組み合わせで似たもの同士なのであろう。
一行は酒飲み話として、王城の国の重鎮達と姫巫女の登場やヴァルフィン神の神託によりカッツ大臣が改心したこと、ギルビーとトリントンの鉱石を巡るやりとり等を話していた。流石に、極秘事項は回りに知られないよう、特定の単語は伏せたりしていたのだが。
一方、ミスティは様子が少し変である。どうやら他人の心を読むイーズという神官戦士と遭遇したらしく、ひたすらに「イケスカナイ、イカガワシイ」と呪詛の様に呟いているのは酒のせいなのかどうか。
シャティルは心を読むと言う大地母神の神官戦士イーズからの挑発に乗り気で、そのためにも早く武器が欲しいとシンガを急かしたり、セキテツ、シンガ、エベラード、ギルビー、オルフェルの鍛冶師組は武具造りの発想や手法を議論しあったり、ミーナ、レティシア、ミスティ、ジーナロッテ、シフォンと言った女性陣は意気投合して試練の迷宮に行く計画を立てたりとまぁ、それぞれ話題に尽きない。
宴が進むうち、白色のマントとターバンに両手大剣を背負った戦士がシャティル達に近づいてきて、ゴードに話掛けた。
右目に眼帯をした威丈夫というに相応しい風格のある壮年の戦士である。
「失礼。剣聖ゴードというのはお主か?」
「いかにもワシじゃ。そなたは、もしや“砂漠の獅子王”殿か?」
「そうも呼ばれている。バルフィード・レイフォーンだ。砂漠も落ち着いたので武闘祭に参加しようと遙々アルハージアから来たところだ。お主は武闘祭に出るのかな?」
「剣聖の称号持ちが二度出ると新たな剣聖の誕生を邪魔してしまうのでな、出ないことが暗黙の了解じゃよ」
「ふむ、ならばお主と手合わせする方法はあるのか?」
「ギルドを通して闘技場で戦うことは可能じゃぞ。ワシとしても砂漠の獅子王相手ならば異論はない」
バルフィードの放つ雰囲気が、一瞬だけ異質に膨れあがった。
「では、後日改めて申し込ませて貰おう!」
そう言い放ち、踵を返すバルフィード。
バルフィードは元々、砂漠の少数部族の護衛の傭兵だったが、戦闘指揮と本人の強さにより一躍有名になった男だ。やがて、アルハージア砂漠の動乱を収め、共に闘った部族に請われて一帯の王となった逸話を持ち、彼の持つ魔剣“ロックマスター”は大地を自在に操ると言われている。
ゴードの説明に、シャティルは興奮していた。
「すげぇんだな、あのおっさん!武器が間に合えば俺が先に闘いたいっ!」
「武闘祭に出られるよう手加減したいところじゃが、なかなかの手練れじゃ。運が良ければ武闘祭で闘えるじゃろうて」
続々と、ラナエストに強者が集まって来ることを予感させる、そんな出会いであった。
一方。
「終わりなんだよ、この街は!テオストラの鉱石無しでどうしろってんだ!」
「おまけに武具品評会のあのふざけた規定改訂な!鍛冶師を只の作業員だと思ってやがる!俺達は職人だっつうの!」
「この分じゃ河岸を変えて他の国に行くしかねぇじゃねぇかよう!」
「行くったってどこにだぁ?」
「シュナイエンじゃ鍛冶師不足だって聞くがナァ」
5人の鍛冶師らしい男達が酒に酔って大声で愚痴を吐いているのが聞こえてきた。
「あいつらも明日には喜ぶんだろうなぁ」
「どうだかのう?あいつら、もしかしたら帝国の仕込みかもしれんぞ?」
オルフェルがそう言うが、ギルビーの反応は違っていた。
ギルビーが給仕の店員に声を掛け、5人の男達が飲みに来る頻度を聞くと、連日のように酒を飲んで同じ愚痴を溢しているらしい。そのくせ、金払いは良いのだそうだ。
「やはり怪しいのう。そもそも、鍛冶師ならば一度は顔を見ていそうなものなのじゃが、ワシはあやつらを見た事がないのじゃ」
そうなってくると、オルフェルの彼らを見る目も自然、違ってくる。そのまま何気ない風を装って見ていると、5人の男達に近づく者が現れた。
ボサボサの長髪と顎髭に毛皮の短衣を着た壮年の男だ。
「私も鍛冶師なのだが、この街には着いたばかりでな。詳しく話を聞かせてくれないか?」
男達は壮年の鍛冶師に席を勧め、先ほどの愚痴の内容を詳細にした話を聞かせ始めた。
その様子を見ていたセキテツが、シンガに語りかける。
「シンガよ、あの男達を見て、何か気付かぬか?」
シンガはそう言われ、じっと観察し・・・・・・
「師匠、おかしいですよ。あいつらの手は綺麗すぎです。職人の手じゃありません」
「そうじゃろう。対して、後から来たあの御仁、かなり良い手をしておるわ」
セキテツの話を聞いたゴードとウォルスは、二人で何か話し合い、連れだって冒険者ギルドの受付に向かった。
「爺さん達どうしたんだ?」
「たぶん、ギルドに話を通して早めに手を打つんだろう」
シャティルの疑問にレドが答えてから暫くすると、冒険者ギルドの職員らしい者が暴風亭の中央にやってきた。
「皆さんに朗報です!明日早朝、王城より告知される事が判明しました!テオストラ鉱山は明日から再開されます!また、武具品評会規定は従前のものに戻るどころか、給金は300万から500万にあがるそうです!」
暴風亭を揺るがす歓声が上がり、テオストラ万歳!ラナエスト万歳!の声があちこちで上がる。
エベラードが立ち上がり、大声で愚痴っていた鍛冶師達のテーブルに向かった。
「よかったなぁ、あんたら!これでラナエストの鍛冶も再び盛り上がるぞ!・・・・・・ところで、あんたらはどこの商会の所属だい?それともフリーか?品評会には出るのかい?」
エベラードの矢継ぎ早の質問に、5人の男達は明らかに狼狽し始め、これから酔いを覚まして今後の準備をするからと、話を聞こうと同席していた鍛冶師を一人残したまま、席を立ち去ってしまった。
「やっぱり怪しいのう」
「なに、ギルドで手配して貰った。冒険者が何人か追跡する手はずじゃ」
ギルビーの呟きに、戻ってきたウォルスが答えた。
「流石は、学院長」
「ちょっと出しゃばったかのう。まぁ、こう言うときは顔の利くワシらがギルドに説明するのが話が早いからの」
ギルビーとウォルスが話していると、エベラードが取り残された鍛冶師の男を連れてきてセキテツに紹介した。
「セキテツさん。こちらはブラフォードさん、旅の鍛冶師だそうです」
「ブラフォードです。五本指のセキテツ殿ですね。お会いできて光栄です」
セキテツはブラフォードと握手したが、手を握ったまま言った。
「良い手をしておる」
「お褒めに預かり光栄です」
二人が手を放すと、ブラフォードが言う。
「光栄ですが、武具品評会では勝負させて頂きますぞ」
「残念ながらワシはもう五本指を引退し、今後は趣味でしか鍛冶をしないつもりじゃ。代わりに弟子のシンガが跡を継いで出る」
シンガが立ち上がり挨拶をすると、エベラードもそれに続き自分が武具品評会に出る事を話した。
「ふむ、セキテツ殿との直接対決は無理か。ならば五本指に入ることで自分の力を示すしかないのであろうな。シンガ殿、エベラード殿。次は品評会でお会いするとしよう」
そう言ってブラフォードは去っていったが、後ろ姿を見送るシンガの表情は悔しげである。
「なんか相手にされてない感じっすね」
「しょうがあるまい。お主にはまだ実績がないのだから。しかし、ワシの弟子であることは間違いない。悔しければ作品で超えるのだ」
「もちろんです!師匠!」
この後にもイアンとスフィが訪れてシャティル達と知り合ったり、ロンクーの剣匠レギンがレティシアに付きまとってゴードに睨まれたり、腕自慢の戦士が何人かゴードに果たし合いの申込に来たりと、様々な出会いが生まれた暴風亭の一夜。
翌朝からはテオストラ露天鉱床が再開し、武具品評会と武闘祭に向けて停滞していた人々の往来と交流は加速し始めるのであるが、この年に限ってはまだまだ武闘祭と品評会まで、すんなりと時が過ぎないことを、誰もまだ知る由はなかった。
王都ラナエストから北へ150ケリー、天険ウルスラント山脈の麓、ブルフォス村。
村からさほど離れていない位置の山の中で、何かが蠢いている。
岩盤に金属を打ちつける音、爆音と崩落する土砂の音、無数の足音・・・・・・
スフィ、いや、白帝竜スフィルの懸念した山の異変がそこにあった。無数の意志によるぎらついた熱情と、その動作による様々な音は、まだ地上には到達していない。しかし、刻一刻と確実に地上に近づいているのであった。
所変わって王都ラナエストから西へ100ケリー、ウォーヒルズ―
トルネスタン公国とラナート平原の中間に位置する丘陵地帯は、東のジャイアントヒルズと並んで、古来より戦いの絶えない場所である。なぜならば、この辺り一帯には、巨人族の亜種であるトロール族や、人間と獣双方の特製を持つ闇の眷属ライカンスロープ種などが棲息しており、周辺のヒューム族と古来から衝突しているのだ。そして、今回も。
多数のトロール達が、戦準備をして東へ、ラナート平原へ侵攻を開始したのである。
また、ラナエストを中心にウォーヒルズの反対側、東のジャイアントヒルズ―
こちらでは、地名の由来となった巨人族達が、奇しくもウォーヒルズのトロール達と同様に、西へ侵攻を開始したのであった。
戦乱を前に、果たしてシャティルの武器は間に合うのか、そしてラナエスト王国の国防はどうするのか?
ラナート平原に、南を除く三方から危機が迫る。
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