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異世界冒険戦記 ルイン・ブリンガーズ  作者: 都島 周
第一部 テオストラ探索編
24/73

024 ラナエスト王城

 ラナエスト王城に行く道筋はいくつかある。

 通常は北小城の南側から、西へ折れる補助街路を入り、“貴族街”の中心部から再び北へ折れて城門通りを北上する正門ルート。

 ここは東側に隣接するヴァルフィン神殿への参拝ルートも兼ねており、正門を潜って少し歩くと道の分岐に立つ守衛が、王城への出入りを監視している。


 一方、関係者のみが通行できるのが、“工房街”から北進し、突き当たりの“騎士横丁”を迂回して外壁沿いの裏通路を北上する騎士団ルートだが、王国騎士でなければ当然通る事は出来ない。


 そして、闘技場内を抜けてヴァルフィン神殿から入るのが神殿ルートである。ただしこちらは、普段冒険者ギルドや神殿関係者が封鎖・監視しており、闘技場を利用した行事の際に王国関係者と、四年に一度の武具品評会・武闘祭の入賞者のみが通行出来る。


 その日、シャティル達はテオストラ露天鉱床の調査の結果報告のため、王城に来ていた。


 事前に、魔法学院院長にしてレドの祖父であるウォルス・クレイド、そして国王の依頼を仲介した、国王の知己でありシャティルの祖父である剣聖ゴード・ヴァンフォートの二人には報告は済ませてある。この二人によって既に昨日、国王には報告が届いてあるのだが、今回は直々に話がしたいということで、改めて呼び出されたのだ。


 そのような事情から、シャティル達の前にはウォルスとゴードの二人が並び立って王城への引率をしてくれている。続くのはシャティル、レド、ミーナ、レティシアとクアンだ。ギルビーとミスティは黄銅竜キャンツの宿る鉄鉱石を回収に行っており、オルフェルとジーナロッテは冒険者ギルドに用があって別行動中である。


 また、アリシアと他の竜の霊達は、魔法学院のレドの私室を仮宿としており、今回は留守番である。歴史的にも重要な霊達であるが、いきなり王城関係者に会わせるには存在が特殊過ぎるからだ。


 正門を抜けて、神殿との分岐点を左に曲がり、守衛と小門を抜けて緩やかな上り坂を進むと、やがて石畳の通路へ出る。真っ直ぐと西へ登る通路は、奥で進行方向を反対にして再び登る構造で、三段つづら折れの坂路を超えた先でようやく王城へ至ることが出来るのは侵入者対策の為だ。


 王城の正面には門柱と外壁があり、そこからは石柱に囲まれた石畳の通路が真っ直ぐと延びて、途中で円形の噴水池を迂回し再び真っ直ぐ城門に続いている。周囲は低灌木や岩が配置された庭園となっているが、これらも身を潜めて侵入者を迎え撃つための用意を兼ねているのだ。


「良く考えて作られているニャ」

「クアンの記憶にはこの王城は残っていないの?」

「レティシアの記憶にもないから、ボクが持っているのは昔要塞だった頃の設計図の情報だけニャ」


 一行はそのまま城門をくぐり抜け、城内の広間のような通路に出た。正面は壁になっており、右遠方と左近傍に登り階段がある。また、左遠方では通路が右に折れているようで、ウォルスはそちらに向かって進んで行った。


「階段登るのかと思っちゃった」

 

と、ミーナ。


「これも侵入者対策ニャ。入り口に近い階段は騎士団の迎撃用だったり、遠方にある階段や通路は偽物で時間稼ぎをしたりするのがよくあるニャ」

「そういや、ここ、無駄にだだっ広くていやだった覚え有るわ・・・・・・」


 シャティルが昔を思い出してぼやいた。


「シャティルは来た事有るの?」

「修行に出る前に爺さんに連れられて来たなぁ。それに、ここにはアイツがいるからな。結構な頻度で来てたよ」

「アイツ?」

「いけば判るさ」


 レティシアの質問に全ては答えないシャティル。


「シャティル、判っていると思うが、曲がりなりにも向こうは王子だからな。昔みたいに無礼講では居られないぞ」


 レドが忠告するが、


「付き合い方変えたら逆に怒るだろうな」

「確かにな」


 二人は顔を見合わせて苦笑した。


「レド、お前は最近会っていないのか?」

「向こうもオウカヤーシュに留学してて戻ってきたのはつい最近だし、こっちも王城に特別用事無かったからなぁ。それにやはり魔法使いより剣士戦士のほうが合うだろうよ。たまにお忍びで城下に繰り出しているらしいぞ」


 二人がラナエストの王子を話の種に盛り上がっているうちに、一行は謁見の間の前まで着いてしまった。


「ここからは無駄口は無しじゃぞ」


 ゴードの指摘にシャティルとレドが頷く。レティシアはクアンを抱き上げ、クアンは大人しい猫を演じる事にした。


 広間の門衛はウォルスとゴードの事を充分に知っているためすぐに取り次いでくれた。


「魔法学院ウォルス院長様、剣聖ゴード様がお見えになりました!」


 一行の前で両開きの扉が開き、赤絨毯がまっすぐ伸びているのが見えた。

 正面奥に階段状の段差が三段あり、その向こうに玉座がある。


 玉座に座るのは国王モルヴィス・エスフォート30世だ。豊かな顎髭を蓄え、頭は黒髪で長髪を束ねている。肩幅は広く、深紅の外套の下にも筋骨隆々な体躯が見て取れるが、それもそのはず、その昔は両手大剣を振り回して冒険者をしていたこともあり、武闘祭で準優勝したこともあるらしい。ちなみにその時に優勝したのがゴードだと、酒に酔ったゴードからシャティルは聞いた事があった。


 国王に向かって右隣に立っているのは、この国の皇太子。父譲りの立派な体躯と母譲りの金の長髪、顔つきは整っているのに野性味ある快活さがそれを台無しにしているような表情のその人は、王子ウィルフリード・エスフォートだ。


 国王を挟んで王子の反対側には白いローブに長杖を持った宮廷魔術師、ノキア・エトランゼ。年齢不詳だが外見はまだ20代に見える。魔法学院の卒業生であるが、その実力はLv12。ウォルスに次ぐ実力者でウォルスの弟子、レドにとっては姉弟子に当たる人物だ。絵本代わりに幻術の魔導書を読み聞かせ、仕上げにその幻術できらびやかな世界を見せながら幼い頃のレドを寝かしつけてくれた姉代わりの人であった。

 

 段を下がった右側には、この国の軍務を司る騎士団長、副団長が並び立っている。

 赤地のマントを左側面に寄せて、わざわざ十字に槌と剣をあしらったラナエスト王国の国旗金刺繍を見せるように構えているのは騎士団長のユーノス・ランドガルド。白銀の鎧に身を包む彼は40代の壮健な男で、過去の武闘祭ではシャティルの父、エクスダイ・ヴァンフォートに惜敗して準優勝だったらしい。マントの影で見えないが左腰に提げているのは有名な魔剣デュースであろう。


 その隣に立つのは副騎士団長のコーム・ノフィアス。ユーノス団長と同じく白銀の鎧に身を包み、槍を直立させて立っている。“巨人殺し”で有名なコームは、剣よりも槍を得意としており、その右手に持つのは投てきしても使い手の元に戻ってくるという魔槍ピアシーレか。


 騎士二人の反対側、段を下がった左側には、三人の男が立っている。

 黒色の前開きローブと内側に茶の革鎧を着た軽装の男は魔導団長のガロウド・グリンス。魔法学院をLv10で卒業し、当時、魔導団が新設される際の実力試験でぶっちぎりで一番だったらしい。冒険者もしていたらしく、その戦い方には独特のものがあるとか。


 小柄で細身、天然巻き毛で眼がぐりっとした感じの男性は財務大臣のシヴァース・ケティアスだ。王国の財務状況を一手に把握し運営を任されている。忠実だが頭が固く規則に縛られるタイプで、目の前の現実を直視できない、平時はともかく乱世ではその能力が疑問視だというのがウォルスの評だった。


 そして小柄ででっぷり太った貫頭衣を着た禿げ頭の男が開発大臣のカッツ・バルムだ。父の代に一介の商人から登り詰め、カッツ自身は文官として仕えて特段悪い評価もなく、王城内で順当に昇進した男である。能力はあるが父親とは違い世俗の経験が浅く、それが今回の品評会規定改訂で問題を起こしているのだが、当人は問題が起こっていると理解していないところでたちが悪い。


 シャティル達は王国の重鎮達の前に到達したところで、起立したまま頭を垂れて国王に拝謁した。


「面を上げよ」


 モルヴィス国王の言に顔を上げる一行。


「こうして直に合うのは久しぶりだな、シャティル、レディアネス。大きくなったものだ」

「お久しぶりでございます、陛下」

「モルヴィス叔父さん、お久しぶりです。ウィルフリードも、元気してたか?」


 レドは礼節を保って挨拶したが、続くシャティルの物言いに大臣二人の表情が憤怒に変わった。ミーナとレティシアはあきれ顔で、他の面々は苦笑している状態だ。その一方で。


「ちっ!敬語で他人行儀な挨拶したら即ぶっ飛ばそうかと思っていたのに!変わんねぇな!」


 ニヤニヤと面白がる表情でウィルフリードが言うもので、大臣二人の表情が戸惑いに変化する。


『常識人かもしれないけどこの中にいるとこの人達浮いてるなぁ』


 ミーナはそんな感想で大臣二人を見ていた。シヴァース財務大臣はともかく、カッツ開発大臣は人となりを見極める必要があるからだ。敵か味方か、裁くべき相手なのか否か。それはこれからテオストラ探索の顛末を話した後の反応次第だということを、シャティル達は事前に話し合っていた。


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