019 コボルドとの決戦
2015/12/27
修正加筆を行っています。
岩棚から飛び降りたシャティルは着地と同時にフレイム・タングスを抜き放ち、近づいてきたコボルド達を三体纏めて横斬りにする。続いて近くにあった食卓を蹴り飛ばし、右方向から向かってきた集団に牽制、左側から回り込み一刀一殺の勢いでコボルドの波を切り裂いていく。
シャティルの直進をコボルド達は阻むことが出来ず、かといって後ろに回り込めば、“流転”で周囲全てを切り裂かれる。
『長柄武器が欲しいよなぁ・・・そうすれば一気に殲滅出来るんだが』
旧鉱山で使った“無理槍”や“泣き鉈”を思い出すが、今は手元にないから仕方がない。では苦戦しているのかと言うと、シャティルはまだまだ手を抜いている。騎士魔法を使えば戦いはもっと楽だが、今後どんな強敵が出てくるかも知れないのでまだ温存しているのだ。
レティシアは岩棚の階段上部で、三体のコボルドを相手にしていた。
レイピアの戦いは、切り払いに弧を描き、攻めるに鋭い刺突。1マトル幅の通路ではコボルドは三体並ぶのが限界だが、レティシアはより安全を期す為、同時に相手する数を二体とし、巧みに身体を動かして、二体までしか相手にしないようにしつつ、敵を突いてゆく。
残り一体については、射線が空く度に、ミーナがスフィル・ネイルで氷弾を放ち仕留めていく。そのうえで、レティシアは倒したコボルドを階段下に蹴落とし、殺到する勢いを制御していた。
ギルビーは殿を勤め、周囲の警戒を続けていた。時折、転移して戻ってくるコボルドが現れると、油断しきっているコボルドをツルハシの一撃で仕留める。流石に三匹パーティの集団だと最後の一匹には構えられるが、その時にはジーナロッテが抜き手で仕留めることで対応している。
オルフェルはシャティルの周囲のコボルドで、弓を持つ者や魔法を使いそうな軽装の者を選別して射貫いていた。煮えたぎった油鍋を味方毎シャティルに掛けようとするコボルド料理人を見つけ、その腕を射貫く。コボルド料理人は自ら油を被り、周囲に飛び散らかして被害を増やすこととなった。
レドは背負い袋から触媒用の石炭を3つ取り出し、起動呪文を唱えて右手で魔力印を宙に描く。続けて呪文詠唱を開始し、月門と自らを接続。魔力元素を身体に取り込み、呪文発言で眼下のコボルドの群の中3箇所を指定した
火球爆発の呪文が発動し、3箇所の指定場所で火球が爆発、群れていたコボルド達を吹き飛ばす。吹き飛ばされたうちの一匹が、奥の小川に落下し、壮絶な悲鳴を上げた。
小川に落ちたコボルドは全身から煙を上げてのたうち回っている。持っていた粗末な剣は原型を留めておらず解け落ちていた。
『あれは、コボルドの王水が流れているのか!』
「シャティル!川に落ちるなよ!あれは王水だ!」
「判った!」
シャティル達に倒されていくコボルド達の阿鼻叫喚と武器のぶつかり合う音などの喧噪の中で、ミスティは霊魂交流を行っていた。金竜ゴッデスを求めて神魔法を唱えると、ミスティの正面に巨大な黄金竜の生首が出現し、ミスティが肝を冷やす。
もっとも、驚き方が酷かったのはコボルド達のほうであった。ゴッデスの首がミスティの方から振り返ってコボルド達の方を向いた途端、コボルド達は悲鳴を上げて我先にと広間から逃げだそうとし始めた。
ゴッデスがその騒ぎの一角を見据え、念話でミスティに指示をする。
「シャティル!右奥に鉱石を持って逃げるコボルド達が居ます!あれを追いかけて!」
ミスティが大声でシャティルに指示を出すと同時に、ゴッデスの首幽霊も自分の宿る鉱石を持ったコボルド目掛けて宙を進み始めた。シャティルも手薄になった広間を駆け抜ける。
「今の内に俺達も行こう!」
レドの号令で、一行は階段を降りて広間の右奥へと進む。竜の首幽霊に恐れを成して、コボルド達はあちこちにある横穴―おそらく広間から居住区へ続く出入り口―に飛び込み、そっとこちらを伺う感じで覗いているが、それを無視して首幽霊とシャティルの後を追う。
広間を抜けて通路に出ると、ゴッデスの首幽霊とシャティルが遠くに見えたが、立ち止まったようだ。レド達が走っていくとやがて追いついた。
「ゴッデス!」
アリシアがレティシアのそばから幽体を現し呼びかける。
「姫様!」
ゴッデスが首幽霊そのままの大きさで振り向いて突進してきた。その鼻面を両手で抱えるようにアリシアは抱き止める。
「あなたは今、霊体なのだから、身体を小さくしてね」
アリシアの言葉に、ゴッデスは手乗り竜サイズに身体を変化させ、アリシアの右腕に留まった。
「紹介するわ。金竜ゴッデス。七竜の長老格で一番物知りなの」
アリシアの紹介に、この度は救出を感謝する、とゴッデスが礼を言う。
「姫様、ワシが宿る鉱石は、この先の扉の向こうに持ち去られたのじゃ。ノクスもじゃ」
ゴッデスが小さくなったおかげで、その身体で遮られていた奥の扉が見える。両開きの大きな扉だ。シャティルが手を掛けるが・・・開かないようだ。
「やっぱり開かないか。さて・・・・・・殴り込み、するぞ?」
「とっくにもうしてますって」
ミーナが苦笑して訂正する。
レドが、ローブの収納ポケットから触媒の針金を取り出し、想念系Lv2「解錠」を唱えた。呪文詠唱とともに、目の前の扉が勢いよく開く。
開いた扉からは真っ直ぐに赤絨毯が敷かれている。こんなもの、コボルドが何処から持ち込んだのだろうか。赤絨毯の先には、革張りに金の装飾が華美な三人掛けくらいの長椅子が置いてあり、その真ん中には、金の王冠を被った大鬼のような体格で巨大な両手斧を持つ犬顔の存在が居た。コボルド王であろうか。
近衛と思われる、金属鎧に槍と盾を持った体格の良いコボルドが三体ずつ左右に並んでおり、長椅子の背後にはローブを着込んだ魔法使い系のコボルドが二匹、革鎧を着た軽装のコボルドが二匹いる。この軽装の二匹が鉱石の運搬者だったはずだ。
コボルド・キングは侵入者に怒り、立ち上がって吠え叫んだ。
コボルド・ガードは指示を受け、侵入者の討伐をすべく左右3体づつ前進する。さらにそこに、軽装のコボルド・ウォリア―が一体ずつ、ローブを着たコボルド・プリーストが1体ずつということで、5体のコボルド集団が2セット、それとコボルド・キングがシャティル達を迎え撃つ状態となった。
「右から殲滅!キング最後な!」
シャティルは短く指示を出して、自らは右側のコボルド集団に向かって飛び出す。
扉を抜けたところで広がるオルフェル達。
オルフェルの弓がコボルド・ウォリア―の額を一撃で射貫き、続いてコボルド・プリーストも同様に仕留める。
ミーナの氷竜銃がコボルド・ガードを撃ったがそれは盾に着弾してコボルド・ガードを怯ませただけだった。
レドは冒険の杖に仕込んだ棘巻き貝殻の魔力を触媒に、水系Lv8「大波」を左側のコボルド集団に唱えた。シャティル目掛けて右側集団と合流しようとしていた5体のコボルド達は、突如空間に現れた大波に巻き込まれ、押され流されて玉座付近まで押し戻される。
レティシアとギルビーがシャティルに追いついた時には、シャティルは既に2体のコボルド・ガードを切り伏せており、3対1の構図となった。シャティルがコボルド・ガードの繰り出す槍を切り払い、ギルビーが右側から振り下ろしたツルハシを盾で防がれたところで、左の開いた隙からレティシアのレイピアがコボルド・ガードの心臓を一突きして仕留めた。
これで残るは大波で流された集団5人とコボルド・キングだ。
ミスティは黒竜ノクスを呼び出すべく、霊魂交流の神魔法を唱えていた。やがて、ミスティの正面に巨大な黒竜の生首が出現した。
「ようやく呼び出されたぞ」
姿を現した黒竜ノクスに、入り口付近で待機していたアリシアと手乗り金竜が声を掛ける。
「ノクス!会えて良かったわ!」
「ノクスよ、幽体の我らでも驚かす事位はやるか?」
「姫、久しぶりだな。ゴッデス、汚らわしいコボルド共に抱き運ばれるのにうんざりしていたところだ。その話乗ったぞ!」
言うやいなや、ノクスはそのままの巨大な生首状態でコボルド・キングに突進し、ゴッデスも身体をノクスと同様にして後に続く。驚いたのはコボルド・キングである。なにしろ黒と金のドラゴンの生首が襲ってくるのだ。コボルド・キングはシャティル達そっちのけでドラゴンに両手斧を振り回し始めた。
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