018 コボルド王国へ
2015/12/27
修正加筆を行っています。
レドは朝目覚めると、精神魔力が充実していることを感じ、荷物から携帯食料を取り出して囓りながら、今日の予定を考えた。荷物整理をしてからテオストラ内部を巡回してコボルド掃除、場合によってはコボルド王国への殴り込み、だろうか。
ちなみに、携帯食料はパンの出来損ないから発明された、小麦粉と塩、牛乳、蜂蜜を練り上げてドライフルーツを混ぜ込み棒状に焼いたものである。本来はイースト菌によって膨らむはずが膨らまなかった為、やたらと比重の重い携帯用食料が誕生し旅人の間で重宝されているのだから、何がどう転ぶかは判らないものだ。
それはさておき、竜達は魔力が尽き、それぞれのインゴットに戻ったらしい。また、夜の間に、コボルドが三度襲ってきてその都度、シャティルやギルビー、オルフェルが危なげなく迎撃していたようだ。
そういった説明を、眠る必要の無かったアリシアとジーナロッテから聞きつつ、レドは荷物整理を始めた。
レドは、銀貨を12枚財布から取り出すと、「整形」の魔法で3枚ずつ一纏めの円盤にし、魔印誓言で空気中からの魔力吸収を促進する仕掛けを施す。銀は魔力吸収しやすく、蓄えやすい素材だ。
次に、竜の宿っているインゴットに封印系Lv2「破邪封印」を唱え、アリシアの時と同様に先に造った銀の円盤に竜の霊体を移していく。四体分の作業を終えると、レドはそれを自分の鞄にしまった。
「これで、自然に魔力を回復したら、昨日よりもはっきりと出てくることが出来るよ」
レドがそういうと、アリシアが嬉しそうに礼を言う。
レドは続いて、竜やアリシアの宿っていたインゴットと、周囲にある鉄鉱石を魔方陣系Lv4「移送」の魔法で魔法学院の自分の倉庫に送り込み、“見えざる鞄”の中にしまっていた形見の剣も続けて送付する。
移送の呪文は、魔方陣を用意するのに時間が掛かるが、こういった野営の際に使えば、手荷物を減らす事が出来て便利な魔法だ。
これで、シャティルの刀を造るための鉄鉱石は充分過ぎるほどに手に入ったはずだ。
改めて見れば、周囲は親方衆のおかげでかなりの規模で採掘が進んでおり、採掘だけで言えば当面はもう掘る必要がないくらいだ。
問題は、見つかっていない三頭の竜である。中央の岩山―今ではもう、隕石が正体だと判ったが、大きさはかなりのものがあり、これ以上探索範囲を広げるのは正直辛いものがある。
探索をどこで打ち切るか、一つの課題であった。
全員が起きて朝食の後、今日の行動指針の説明と共に、見つかっていない竜の問題をレドは皆に説明した。アリシアには悪いが、居るか居ないかも判らない三竜の為にどこまで採掘作業を続けるか、である。
思わぬ助け船はミスティから来た。
神魔法で、さまよえる霊魂が居るならば「召喚」もしくは「交信」が出来るらしい。
レドが使う魔法は所謂、「学問魔法」である。教わる施設の関係から「学院魔法」とも呼ばれるが、これは、物質と魔力の関わり方と反応の仕方、それらに対する理解力と魔力印に対する言語学、これらを理解し適切な操作ができれば本来誰でも可能な魔法なのである。
この学問魔法の中に、先にアリシアに使ったような使者召喚系Lv1「霊魂召喚」があるのだが、これは呼び出す対象の地縛の元となる霊触媒が無いと使えない。
それに対し、神魔法は神の魔力を元にしており、学問魔法に比較すれば、なんでもありの魔法だ。ミスティによれば、「霊魂交流」の魔法はその地域の地縛霊が居れば覚醒していてもしていなくても召喚出来るし、いなくても関連性があって覚醒していれば交信できるらしい。
さっそく試すことにした。ミスティが祈りを捧げ精神を集中し、神言発言をする。
「霊魂交流!」
・・・・・・九体のコボルドの幽霊がやってきた・・・・・・
「彷徨える魂よ!あなた方は呼んでません!神の命の元に立ち去れ!」
ミスティがすかさず死霊浄霊を実行、白い光の奔流がミスティの杖から迸る。
コボルド達は『呼んでおいて払うのか!』といった風にも見えなくもなかったが、辺りに静寂が訪れる。予想外の展開にシャティル達もちょっと呆然とした。
「えっと、ここにはもう、縛られている霊魂はいないようですね」
間を取り繕うようにミスティが振り返って言うと、個別に交信が出来ないかとアリシアが尋ねた。次はそれを試して見ると言うことで、ミスティが再び霊魂交流を唱える。最初は黄銅竜のキャンツを探す。
すると、反応があった。
念話でどこかにいるキャンツと話し終えたミスティは皆に伝える。
「黄銅竜のキャンツさんはどうやら大きな都市の武器屋の片隅にいるようです」
「それってもしかして!トリントン商会?」
「ああ、きっとそうじゃろう」
ミーナとギルビーが昨日話していた、トリントン商会の鉱山夫で唯一無事だった男が持ち帰った鉄鉱石、おそらくそれの事だろう。残り二頭の消息にも期待が持てそうだった。
続いて、ミスティは霊魂交流を唱えた。今度は金竜のゴッデスを探す。
どうやら反応があったようだが、なにかミスティの様子がおかしい。念話が終わっても周囲に報告せず、そのまま黒竜ノクスを探して霊魂交流を始めた。
やがて・・・・・・念話を終えたミスティは深刻な顔で話し出した。
「金竜のゴッデスさん、黒竜のノクスさんとは連絡が取れましたが、今居る場所はコボルドが沢山いる地底世界だそうです。コボルド達が集めた鉱石と一緒にされていて、目の前で他の鉱石が川に落とされて溶けるのを見ています。幸い、彼らの鉱石は川に落とされずに別の場所に運ばれそうらしいです」
おそらくコボルドに採掘されてしまったのであろうことは容易に想像できた。
「行くか!コボルド王国に一暴れしに!」
シャティルが立ち上がった。
「助けないと」
レティシアも立ち上がる。
みんないいか?とレドが尋ねると、ギルビー、オルフェル、ミーナ、ミスティが頷く。ジーナロッテはとっくに諦めていたようだ。もちろん付いていくと了承してくれた。
アリシアは申し訳なさそうな顔で頭を下げた。
「お願いばかりでごめんなさい。でも、どうかあの二人を助けて欲しいの」
「遠慮することはないよ。その代わり、後で身体で返して貰うから」
レドのその言葉にアリシアが思わず身をよじる。
「いつもはシャティルなのに今日はレドがえっちだ!」
ミーナが驚いた表情で言った。
「いつもって何だよ!誤解だ!」
「俺は研究に協力してもらうって意味だよ」
レドは七人の親方衆を呼んでケースにしまい、土捨て棒も片付けて、荷物からコボルドの“略奪のマトック”を取り出した。
「みんな、準備はいいか?」
レドの問いに、一同が頷く。
全員が手を繋ぎ、シャティルがレドの左肩に手を置いたのを確認して、レドは“略奪のマトック”の金槌部分を、岩壁に軽く叩きつけた。
コォオーン!
レド達には、視界が白く霞んでいくように見える。白い霞みがどんどん濃くなり、続いてパッと視界が晴れた時には、沢山のざわめきや喧噪が聞こえる、もうそこは別の場所だった。
眼前に広がるのは大きな地下空間。所々にかがり火が炊いてあり、オレンジ色に岩肌を染めあげている。
眼下に見えるのは沢山並んだ粗末な長方形の木テーブルで、そこにコボルド達が座って食事をしている。ガチャガチャ音を立てて食べたり、何かの液体を飲んで騒いだり、どうやらここは居住区の大食堂なのであろう。
右手側の奥にはカウンターらしき区画があり、その更に奥で沢山の鍋や鉄板から湯気や煙が立ち、得体の知れない臭いが漂ってくる。
正面奥には右から左へ流れる小川があり、何匹かのコボルドは小川の縁にしゃがみ込んで何かをしている。小川の上流、つまり右側奥には、コボルド達が鉱石を抱えて並ぶ行列が出来ていた。
シャティル達が居るのは岩肌に生えた棚のような、幅1マトルほどの通路で、下の階層からは2マトルほど高い位置にあるバルコニーのような場所だった。
『もしかして、ここはマトックによる出発と帰還用の場所?』
レドがそう思った矢先、左奥の方から足音と話し声が聞こえてくる。そちらには下から上がってくる階段があるようだ。そして、自分達の立ち位置が非常に目立つ場所であり、危険だと思った矢先、どこからか甲高い叫び声が発生した。
あれほどうるさかった喧噪がシーンと無音になり、視線が集まっている。もちろん、バルコニーにいる自分達にだ。
静寂が途切れ、階段を上りきったコボルド達が抜刀し駆け寄ってくる。眼下では階段に殺到するコボルド、どこかに走り去っていくコボルド等が見られ、どこかで角笛が鳴らされた。
「派手に見つかったなぁ。レティは階段の端で守れ。ギルビーは殿で、転移してくるコボルドに備える。オルフェルとミーナは遠距離援護。ジーナロッテはギルビーのフォロー。ミスティは竜にコンタクト取ってくれ。俺は下で暴れる!」
シャティルは指示を出し、自らは階下に飛び降りた。
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