016 いにしえの伝説
いよいよ世界の謎の一端が曝されます。
2015/12/27
修正加筆を行っています。
オルフェルはミスティに介抱され、気を取り戻したが、まだ顔色が青い。霊とは特別なものではない、土捨て棒を潜れば、すぐ霊界で沢山の魂とすぐ会えるくらいなのだというレドの説明に納得いってないようだが、とりあえずは落ち着いたようだ。
レドはクアンに頼まれ、使者召喚系Lv1「霊魂召喚」の魔法を使用した。魔方陣を書いて四方に塩を盛り、ギルビーが掘り出した鉄鉱石を中央に据えて呪文を唱えると、魔方陣の上に、身長6アルムスほどの長身の女性がうっすらと透けた姿で現れた。
髪は黒いショートで、全身を所々服が見える軽鎧で覆い、腰には片手剣を提げている。凛々しい顔立ちの美人だ。男装の麗人と言った感じのする人だった。
「私の名前はアリシア。アリシア・ランシエル。竜王国の姫竜騎士でした」
話しぶりが淑やかでアルトな声質である。
霊魂召喚の魔法効果で、呼び出された霊魂は普通に言葉を発することが出来る。これならばクアンとジーナロッテも話を聞くことが出来る、というのがクアンの提案だった。
“竜王国”という単語にシャティル達はざわつく。なぜなら、それは古代のおとぎ話にしか出てこない名前だからだ。
そのおとぎ話の内容を簡単にミスティが説明すると―
―その昔、“竜の王国”と“騎士の王国”と“魔法の王国”、3つの国が世界を手に入れるために戦争をしていた。戦争は果てることなく続き、遂には神々の怒りを買ってしまう。
神々の怒りを恐れた人々は、国を見限って出て行き神の国に保護されたが、戦争を続ける者達は神によって振り下ろされた鉄槌により、潰されて滅んだ。
地上は平和になり、神々の元、生き残った人々が今の世を造ったのである―
「―というのが我々の知っているおとぎ話です」
「そのおとぎ話は捏造されているようですね」
語り終えたミスティに、アリシアは暗い声で呟いたが、レドが別の話もあるんだ、と言う。
「今のは教会で語られている神学の説だな。魔法学院ではちょっと様相が違うんだ」
続けてレドの語る言葉によると―
―古代の3王国は“竜の王国”、“騎士の王国”、“魔法の王国”であった。“竜の王国”は強靱な竜とそれを操る竜騎士によって治められており、他国やエルフ、ドワーフ、シナギー等の小部族を土着の原始人的な扱いとしていたらしい。何しろ、動物である限り皆等しく竜の餌だったからだ。
一方、“魔法の王国”は今よりも魔法が発達しており、神々に一番近いのは自分達の国だと信じていた。
また、“騎士の王国”は、竜も無く、魔法も無い、普通の人々が自衛のために立ち上げた国で、他の2国に比べればその国力は、明日にも滅びかねない程度であったという。
この“騎士の王国”に、魔法王国からの亡命者が訪れ、この出会いによって生まれたのが騎士魔法だ。当時、戦いは貴族階級の騎士によって行われていたから騎士魔法と呼ばれたらしい。そのうち、この騎士魔法の誕生によって騎士でなくとも戦えることから、広く歩兵、つまり戦士達にもこの技術が広がったそうだ。後期には騎士の王国を改めて“剣の王国”となり、巨人や竜と対等に渡り合うための“剣の鎧”なるものが造られたらしい。
こうして他の2大王国と肩を並べるようになった“剣の王国”は、何しろ勢力が一番多い。これまで虐げられた分、他の2国を駆逐しろという話になった。
そんなとき、増長した“魔法の王国”を討ち滅ぼせと“剣の王国”に神々から啓示が下った。その一方で“竜の王国”は力を付けてきた2国とも滅ぼそうと考えた。
こうして、三つどもえの戦争が始まったということだ。
「―戦争は、怒れる神々の鉄槌によって3王国は滅び終結した。そして生き残った人々が今の世を造ったと言われている。この辺はさっきのミスティの話と一緒だな」
「真実は違うの!竜王国は―」
「アリシア!そこから先はボクが説明するニャ」
「あなたは・・・猫?ゴーレム?」
アリシアは話を突然遮った人外の存在に戸惑ったが、クアンは構わず語り始めた。
「金属豚野郎とは一緒にしないで欲しいニャ。ボクはクアン。自動人形として活動しているけど、元は、“解放騎士”のNo.X、クァーツェ.スノーシルバーの魔導コンピューター、“魔導ブレインNo.X”ニャ。アリシアが死んだあの戦いを生き延びて、とある事情でそこのレティシアと一緒に現代に蘇ったのニャ」
「なんてこと!剣王国の解放騎士乗りが生き延びていたとは!」
アリシアは信じられない思いと同時に、当時のことを知る、言わば戦友が存在することを知り、ボロボロと涙をこぼした。
「何から話したら良いのか・・・ジーナロッテとアリシアは、ボクとレティシアがシャティル達とどのように出会ったか、これは後回しにして欲しいニャ。まずはレドの話を元に、補足修正させてもらうニャ」
そうしてクアンが語り出した内容とは―
―“騎士の王国”改め“剣の王国”が開発した“剣の鎧”とは、“解放騎士”の事である。
騎士魔法を使える戦士が乗って操縦するこの巨人は、当時の自動人形技術や魔法の粋を集めて造られた物で、巨人や竜と戦っていた。
三千年前の、三王国の三つどもえの戦いについて、実はこれを裏で主導した勢力があった。竜王国内部はこの勢力により、善竜と邪竜とに二分された。魔法王国と剣王国は最終戦の頃には協力しあっており、これに竜を加えた三国連合が、戦争を引き起こした勢力と最終対決をしたのであるが、その決戦の地が、ここ、ラナート平原だ。
当時のこの辺りはラナート丘陵地帯と呼ばれており、東のジャイアントヒルズ、西のウォーヒルズはその名残と思われる―
「決戦をするのに丘陵地帯ってのはどういうことだ?それに、今はここは平原だぞ?」
シャティルの疑問ももっともであろう。
―当時の主戦場は空で、最早地形を選ぶ必要は無く、竜も、解放騎士も、魔法使いまでもが、皆、空で戦っていた。そして、ここにはラナート特級要塞という、三国連合の本拠地があった。おそらく、今の「ラナエスト」と言うのは「ラナート・エス・フォート」から生まれた言葉ではなかろうか。
その日、敵勢力に踊らされた魔法王国の一部の者達が、要塞上空に「隕石召喚」の魔法を行った。敵も味方も全て消滅させる巨大な隕石の落下に、全ての戦闘は中止され、流石に敵側の竜や人間達も、騙されていたことを悟ったのだ。
隕石落下の被害を食い止める為、無数の解放騎士や竜と竜騎士達が隕石に向かって散って行った。そして最後に、竜王国の誇る七竜と姫竜騎士が、その身を犠牲にして隕石の軌道変更と速度低下に立ち向かったらしい―
「―ボクらの機体はその前に戦場から吹き飛ばされ、墜落して土砂に埋もれてしまったのニャ。だから、七竜と姫竜騎士が最後にどうなったのかまでは知らニャイ。でも結果から見るに、おそらく彼らは消滅し、代わりに隕石の軌道変更と落下の衝撃を弱めることには成功したんだと思うニャ」
「隕石衝突とは、メテオストライク・・・・・・テオストラと言うのはその名残で、落下軌道が外れた結果と要塞の防御機構のおかげで、ラナート特級要塞、現在の王都ラナエストは辛うじて守られたんだろうニャ。王城の丘が残っていることが証拠ニャ。その代わり、周囲の丘陵地帯は全部吹き飛んで平野になってしまったと思われるニャ。」
「それって守られた内に入るのか?」
そのシャティルの問いに対する答えは。
「守られていなければ、大地が割れて間違いなく生物全て消滅していたはずニャ。だから、決して無駄では無かったんだニャ。アリシア・・・・・・この娘は、当時七竜と共に隕石に立ち向かった、今の世の全ての生きる存在の救世主なのニャ」
アリシアは再び泣き出した。
自分の行いが、未来を作り出せたこと、わずかでも、自分達の行いを認めてくれているものが、知ってくれた者がいたこと、それを実感出来たのである。
また、あの絶望的な戦争の中で生き延びた者が居たことにも改めて思うものがあった。
「レティシアと言ったわね。おそらく解放騎士乗りならば、一度は会っていると思うのだけど・・・ごめんなさい。思い出せないわ。でも、生き延びたからには、あなたはこの時代で幸せになってね・・・」
「アリシアさん・・・私は、当時のことをほとんど覚えていないの。記憶が壊れてしまったらしいの。でも、今はこうして皆と居られて、私、楽しいよ。アリシアさんのおかげなんだね。ありがとう」
レティシアが微笑むと、アリシアも涙を拭いて微笑み返した。
「三千年もの間、輪廻転生も出来ずに居たのは意外だったけど、今日のこの日の為なのかもしれません・・・これでもう心残りは無いわ。私は成仏するとしましょう」
「成仏の仕方知っているのかニャ?」
クアンはアリシアを見上げて言った。
「・・・・・・・・・・・・どうすればいいのかしら?」
クアンの尻尾がぐんにゃり折れた。
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