015 本当の幽霊
2015/12/27
修正加筆を行っています。
霊界については皆がよく知らないと言うことで、レドが説明を始める。
この世界は、宇宙と呼ぶ暗い夜の世界に、巨大な丸い大地、「惑星」が浮いている。この惑星が存在するのが「物質界」。
そして隣り合わせに普段見えない世界が「霊界」。
生物は死ぬと、霊界に魂が転移し、そこで、精霊となるか天界に行くか魔界に落ちるか、選択をすると言われている。霊界の有様は、物質界とあまり変わって見えず、大地も海も空もあるらしい。
霊界は物質界の影響を受けて、地形構成がほぼ同一らしい。物質界で火山があれば、霊界にも火山が同じ場所に出来る。そして火山であるがために、そこに火の精霊や大地の精霊が集まれば精霊力が強くなり、物質界も影響を受けて噴火を起こしたりする。そういった相関関係があると言われている。
魂は精霊と化して霊界に留まるか、天界に行って神々の元で暮らすか、輪廻転生して物質界に再び生まれる魂となるか、いずれかを選ぶのだがその基準は不明。また、魔界に行った魂がどうなるのかも不明だそうだ。
なお、霊界は時空界へ繋がっており、そこに入ると過去と未来を行き来することが可能で、全ての記録が記された世界原記録もそこにあると言われている。
これらの謎を解き明かすべく、世界を渡り歩く存在をワールド・ウォーカー、または転移者と言い、魔法使いが求める最終目標のひとつでもあるらしい。
「生物は死んで魂で行けるけど、実際向こうには大地があるって事は、肉体を持って行くことも可能なんだ。ただし、向こうの生きている存在は霊的生物ばかりだから、俺たちが行っても動植物の食べ物はない。うっかり脱出手段もなく食べ物もなく行くと死ぬだけだ。そして、霊的生物しかいないってことは、死体が腐敗することもなく、ただ風化して霧散するだけだと言われている」
問題は、その辺の真偽を確かめようもなく、また、物質界から物を投げ込む事によって霊界の性質に影響を与えてしまう可能性を否定出来ないらしい。
テオストラで散々土砂を投げ捨てているが、その結果、霊界の投げ込まれた地域で地属性が強化され、それが物質界に反映される可能性と、量産品の性能から試作品の技術域まで辿り着かれると、何でも捨てられるため、ドステバーは王国騎士団で厳重管理するようにしているのだそうだ。
今回は仕方がないので、コボルドの装備を吟味しつつ、死体はこのドステバーに放り込むしかないという判断だ。
それからの一行は、手分けしてコボルドのマトックと王水を寄せ、それ以外の装備や死体は全てドステバーに放り込んだ。王水はレドが研究用にいくつかを“見えざる鞄”と普通の鞄に収納し、マトックは“探索のマトック”と“略奪のマトック”を人数分それぞれで持ち、予備の数本をオルフェルが持った。残りは全てドステバーの向こうに落とし込む。
「これ・・・本当にコボルドがこんなマトックや王水入れのガラス瓶を造ったのかしら」
ミーナの質問ももっともであったが、それについてはコボルドに因縁が深いドワーフのギルビーが答える。
「やつらは自ら新しい物を造り出す発想力は無い。しかし、全く忌々しい事ではあるが、模倣するだけの技術は持っているのじゃ」
「じゃあ、誰かが入れ知恵をした可能性もあるの?」
「そもそも、奴らが霊界から物質界にやってきたのは不浄神ナシュタインが唆したからと言われているくらいでな、ナシュタインが入れ知恵した可能性がある」
小さなマトックにどれだけ大きな転移の力を持たせているのか、少なくとも同じ物をレドは造れない。ナシュタイン神の力に寄る物と言われれば納得出来る能力の道具であった。
コボルドの死体を処理した後、このままデュラハン10体の残骸も、一緒にドステバーに放り込む事に一行は話しあった。
腐敗の進行が早く、騎士団が後で回収に来た時のことを考えると、形見の剣を持ち帰ることで充分だろう、との結論に達したのである。
前の部屋にも戻ってドステバーを展開し、片付けが終わったところで、一行は穴の下、テオストラ最深部を目指して出発したのであった。
穴の中は螺旋階段のように掘り抜かれており、下方へ深く深く続いていた。およそ5分ほど歩いた後ようやく階段が終わり、坑道は水平方向へ変化し中央部へ真っ直ぐと続いている。
結構潜った感じがするため、ミーナはギルビーに尋ねた。
「深くて中心部に近いほど良い鉱石が取れるんでしょう?この分だと期待出来そう?」
「ワシも何度か来たことはあるが、これだけ深く潜ったことはないんじゃよ。そういう点では期待したくなるな。トリントンの者も良く掘ったもんじゃ」
「無事だった人って今どうしてるのかな?」
「気は触れてはおらんが毎晩うなされているそうじゃよ。せっかく掘ってきた鉱石も、呪われているとか言われて、店の片隅に投げられているらしい。誰も触りたがらないんだと」
そんな世間話をしながら一行が歩いていくと。
『誰か・・・助けて!誰かいないの?』
「今、何か言ったか?」
シャティルが立ち止まり回りに聞くが、誰も言葉を発した者はいない。気のせいか・・・とシャティルは思い、再び坑道を進んでいく。
『誰か・・・誰か助けて!熱い!変なモノ掛けないで!』
今度は全員に聞こえたかと確認すると、クアンとジーナロッテ以外が聞こえていた。
「自動人形だけに聞こえないというと・・・今度こそ本物かニャ?」
「本物って?」
レティシアの問いに、
「幽霊ニャ」
レティシアはゾクリと寒気が背筋を這うのを感じた。見ると、ミーナやミスティも同じようで視線を交わし合ったが、一番気の毒なのはオルフェルだ。顔が真っ青になっている。
「とりあえず急ごう!」
シャティルは先を急ぎ走り出した。慌てて他の面々も続く。やがて坑道は一つの小部屋に辿り着いた。その場所こそが、トリントン商会の鉱山夫達が最初に到達した、テオストラ露天鉱床最深部の部屋であった。
小部屋の中には今まさに、鉱石に王水を吹き掛けた直後のコボルドが1匹、鉱石をずた袋にしまい込んでいるコボルドが2匹。
シャティルは駆け込みざま、3匹を斬って捨てた。
『お願い!上から焼ける水が垂れてくるのを止めて!』
今度こそ、はっきり全員に聞こえた。女性の声だ。
壁面を見ると、コボルドの王水を掛けられた鉱石が黒ずんで変色し、そこからさらに下方へ液体が垂れている。これのことか?
シャティルは回りを見回すが、液体を止められるような布地の物はない。仲間を見渡して・・・・・・レドのローブは色々触媒が入っているらしいから駄目だ。他はミスティのローブと、ジーナロッテに被せたウェンデの着ていたローブ。
「ジーナロッテ、スマン、借りるぞ!」
シャティルはそう言ってジーナロッテの裾から一気にたくし上げた。ジーナロッテの形の良い白い尻がむき出しになる。
シャティルは、ローブを剥ぎ取って岩壁の液体を拭き取ったのだ。
「あなたって酷い人ねぇ!」
自動人形とは言え、ジーナロッテは感情を持っている。
再び素っ裸にされたジーナロッテはシャティルを罵倒するが、この場合緊急的に仕方がないとシャティルは考えた。流石にミスティを脱がすわけには行かないし、と思ったのだが。
「うわ、女の敵よ」
「シャティル、極悪」
「流石にレディに対する扱いではないな」
ミーナ、レティシア、オルフェルが突っ込んでくる。
ミスティは、自分が犠牲にならなかったからか、今回は叱ってこないようだ。
「だったらお前ら服脱ぐか?」
さっと視線を外す三人。
レドはとりあえず彼らを放っておく事にした。
「それで、さっきから話掛けてくる君は誰だ?どこにいる?」
レドの問いに、先ほどまでの声が答えた。
『あなた達の目の前にいるわ。私はアリシア。私は・・・どうやら幽霊みたい』
ドサッと言う音に振り向くと。
オルフェルが卒倒していた。
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