014 コボルド来襲
2015/12/27
修正加筆を行っています。
「さあ、これで知っていることは全て話したわ。解放してもらえるかしら?」
「そうだな、ここを出るまでは一緒に居てもらおう。その後は解放するか」
「ちょっと待ってくれ」
レドの回答にオルフェルが口を挟んだ。
「ジーナロッテ、お前は帝国に帰るのか?」
「コルムス様がいらっしゃるから」
「居場所を教えてくれないか?いずれ、会いに行きたいんだ」
「コルムス様を危険に会わせるわけには行かないわ」
「危険な事なんてない!頼む!」
「一体どうしたんじゃ、オルフェル?」
オルフェルの只ならぬ様子にギルビーが問い質した。
「その本と、このジーナロッテの部品を見て確信した。これは、俺の義手を造ったコルムスと同一人物だ!」
技術を継承した親族の可能性もあることをレドは指摘したが、オルフェルが言うには、コルムスの晩年に二人で開発した技術が、オルフェルの左義手に使用されているらしい。そしてそれが、本の記載内容にも記されておりジーナロッテの部品にも使われているのだそうだ。
理由は判らないが、目の前で老衰で死んだはずのコルムスが生きているとしか思えない、とのこと。
レドが本の記載部分を教えて貰うと、そこには肘関節の稼働機構が書いてあり、骨のような物の周囲に細かな記載がある。これと同様の機構がオルフェルの義手にも、ジーナロッテの部品にも使われているのだそうだ。
事実であれば、死んだはずの人間が復活したのか、何かしらの技術流出があったのか。レドにも興味深いところではある。
「それならば、ジーナロッテには武闘祭が終わるまでこちらに居て貰って、その後に一緒に会いに行くってのはどうだ?」
「私に何のメリットがあると言うの?」
「こんなのと一緒なんて嫌です!」
レドの提案に対して、ジーナロッテとミスティから異論が出た。
「ラナエスト王国への報告から、ジーナロッテの件は除こう。情報源はウェンデと言うことにしておけばいい。ジーナロッテは俺とオルフェルからメンテナンスを受けられるし、帝国までの道中もより安全になる。ラナエストでは俺の開発した自動人形と言うことにしておけばいい」
レドの提案にしばし考えたジーナロッテは、元々の作戦は武闘祭終了までの予定であったことや、自分のメンテナンスと、今後追われながら活動するよりは、メリットが多いと判断する。
「それなら私も異存はないわ」
レドは続いてミスティの説得を始めた。
「ミスティ、どのみちここを出るまでは一緒に居なければならないし、オルフェルの為にも壊す選択肢はもう無いんだ。自由にして暴れられるよりは余程建設的な提案なんだけどな?それに、君も帝国に一度は戻る必要があるだろう?」
「一度はお世話になった教会に挨拶に行きたいですが、帝国の動向によっては行けませんよ」
「あら、あなた帝国の関係者なの?」
レドはジーナロッテにミスティとダルスティン達の話をかいつまんで聞かせた。ミスティは半ば無理矢理、ダルスティンら帝国の調査隊に同行させられたのだ。離脱しようとすれば、世話になった孤児院や教会にに何かが起こるかもと脅されながら。
「下っ端の僧侶なんて気にも留めていないのじゃないのかしら。まぁ、その時が来たら好きにしたら良いんじゃないの?」
ジーナロッテがそう言うと、ミスティはむぐぅ、と押し黙ってしまった。
「そんな訳でお世話になろうかしら。早速で悪いけど、足を元の部品に交換してもらえない?もうこんな蜘蛛女もどきの格好は嫌なのよ」
レドとオルフェルはその場で足の交換を始めることにした。こうして、ジーナロッテは行動を共にすることになった。
丁度、ジーナロッテの足を付け替えが終わった頃。
オルフェルとミーナは複数の足音を感知した。
「通路奥から足音が聞こえた。コボルドか!?」
「こっちもだよ!」
オルフェルとミーナが左右の通路を示す中、シャティルは小部屋奥の水たまり、渦を巻いている辺りをじっと睨んだ。
「なにか・・・下からも気配がする!」
シャティルの言葉に、一同が水面の渦を見ると、急に渦が大きくなり、続いて床にぽっかりと穴が空いて、そこへ水が滝のように流れ込んだ。奥の方からギャピイと鳴き声が聞こえる。
シャティル達が戦闘準備をして待ち構えると、穴の下には階段が掘ってあったのだろう。そこを登るようにして、コボルド達が現れた。
穴から出てきたコボルドが後続に何か叫びながら武器を取るのと、左右の通路からコボルドの集団がなだれ込んでくるのはほぼ同時で、小部屋には20匹近いコボルドが溢れかえり、まだ全部入りきれないでいるようである。
「掃除しないといけないんだな?」
シャティルの問いにレドが答える。
「略奪のマトックが使えなくなるまで、コボルドを倒し続けるか、コボルド王国に乗り込んで全滅させるかしかない」
「それじゃ、やりますか」
シャティルは、先ほどのまでの無様の汚名返上をすべく、剣を右手に自然体でぶら下げ、「無想の構え」を取るのであった。
ヴァンフォート流剣術「無想の構え」。
実際には何も構えていないように見えるその構えは、身体を“自然体に構える”という一見矛盾した姿勢が極意だ。修練によって身についた自然体は、精神をも自然体にする。“自然体という外環の器”を作り出すことによって、その器に身体が入った以上は、強制的に身体も精神も自然体に整えられる。気の高ぶりや沈降、精神障害も打ち消され、身体の毒などの異常も打ち消されるのだ。
シャティルは、無想の構えから、眼前にひしめくコボルドの群を見渡し冷静に観察する。
コボルド達が襲ってくる。コボルドの波から、自分に届く順番、波の中の空隙や強弱を見極め、最適な行動を選択する。
シャティルはフレイム・タングスを発火させ、最初に剣を振りかぶってきたコボルドを、向こうが剣を振り下ろすより早く、逆袈裟に斬り上げる。次は右の敵に無造作に振り下ろし、左の敵首に一突き、右の敵に横薙ぎで吹っ飛ばし、そのまま一回転して横薙ぎに複数体を真一文字に斬り裂いた。
一瞬の猛攻にコボルド達の間に恐怖が理解され、広がり、動きが止まる。
そこへ、右側の敵にはオルフェルが弓で乱れ撃ち、左側の敵には、レドが水系Lv2水刃で斬り裂く。シャティルは最早正面の敵だけ相手すれば良かったので、“荒波”で一気に吹き飛ばした。
コボルドの屍が累々と広がる中、続いて第二陣の敵が先ほどと同じように三方から殺到する。
しかし、先ほどと違って足下に屍が転がっている為、一気に向かってこられないらしい。そこを今度はミーナの氷弾銃とオルフェルの弓が射貫いていき、止めはレドの火系Lv6「火球爆発」だった。
総勢50体近いコボルドを3分掛からずに倒してしまうシャティル達に、ジーナロッテは戦慄を覚えていた。
これは勝てるわけがない・・・・・むしろレドの保護下に入れたのは僥倖なのだと、気付かされるばかりである。
その後しばらく待っても後続のコボルドが来ないため、シャティル達は一反戦闘態勢を解除し、今後の行動を相談することにした。
「この死体、どうしよう・・・・・・」
「レドの“見えざる鞄”の魔法じゃったか?あれには入らんのか?」
シャティルが途方に暮れ、ギルビーが質問したが、その質問はレドにはお決まりのものであった。魔法学院で学生達に必ず同じような事を聞かれるからだ。
「あれは空間系Lv2の呪文なんだけど、入る容積は大人一人分弱。大体、寝袋一つを広げた分くらいと思ってくれれば良い。今は王国騎士の形見の剣が10本入って精一杯だよ。それに、この中は腐敗防止や時間停止の機能もないから、生モノは入れたくない」
「それって生き物は入れるの?あたしだったら歩かずに済むんだけど」
「入り口閉じると隔離された空間だからなんにもない筈だ。空気はあるっぽいけど、湿度はないし干からびると思うよ。それに、何も無さに気が狂うかも」
興味津々で聞いてきたミーナだが、ぶるるっと身体を震わせて、やっぱり嫌だと言う。
レドは、背負い袋から土捨て棒を取り出して、地面に設置した。3アルムス四方に設置し、危ないから近づくなと回りに言う。
「土捨て棒なんてどうやって調達したんじゃ?それに形が若干ちがうようじゃが・・・」
ギルビーの指摘はもっともであった。それに対しレドの返答は驚くもので、王国騎士団が厳重管理しているドステバーは、実はレドが開発したものなのだそうだ。今回持ってきたものはその試作品で、量産品と違い、土砂のみならず何でも呑み込む機能があるらしい。
「それじゃあ、レドはドステバーの噂の答えを知っているのじゃな?」
「ああ、そうだ」
「噂って何?」
ミーナの質問に、レドが答える。
「ドステバーで捨てた土砂はどこへ行くのかって話さ。正解は、この物質界と隣り合わせの霊界だ」
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