013 ジーナロッテ
2015/12/27
修正加筆を行っています。
「全くっ!男共と来たらちょっと目を離すとすぐこれだから!」
ミーナはぷりぷり怒りながら、レティシアと共にジーナロッテにウェンデのローブを被せ、その上からロープで縛っている。なんとなく殺気が籠もった縛り方をしているのは気のせいだろうか。
ミスティはギルビーの治療をした後、杖を持って仁王立ちしている。
そして、その前に正座させられているシャティルとオルフェル。
「オルフェル、あなたシャティルを使って遊びましたね?」
「いや、そんなことはない。至って真面目な措置だったんだぞ。俺たちは危うく全滅する寸前だったんだ」
オルフェルの目が一瞬泳いだことをミスティは見逃さなかった。
「じゃあ、なぜ手脚を縛るだけで済む物を身体まで縛らせたんですの?」
「そ、それはだな・・・自動人形相手に油断出来るわけないだろう?」
「じゃあ、手脚を壊しちゃえば良かったんですよ!」
『『ミスティ、怖ぇぇ!!』』
シャティルとオルフェルはミスティを怖がったが、オルフェルは自分の悪戯を咎められそうなため。一方シャティルは、手脚を壊すと言うミスティの無慈悲さが怖いのだが、ある意味それは、“人の形を成した物”の目論見通り、騙されていると言えなくもない。自動人形なのだから手脚を破壊して行動不能にする、と言うことは本来当然の考えなのである。情に流されるか否か、なのだ。
そしてシャティルはなぜ怒られているのかさっぱり理解できないのだが、次のミスティの言葉は痛かった。
「大体、シャティルも何やってるんですか?そもそも抱きつかれたりしなければピンチにならなかったんですよ!」
それについてはぐうの音も出ない。
「それは反省してるよ・・・」
「大方、裸の女性だから見とれたんでしょう!」
「いや、それはないな。戦闘中の咄嗟の出来事で本当に回避出来なかったんだ。抱きつかれてからは予想外に軟らかいと思ったけど」
「なんですって?!」
「そこまでにしてくれ、ミスティ。正直、あの目まぐるしい戦闘の中に余裕なんかなかったんだ。後からじゃ何とでも言えるさ。今はまず、これからどうするかを決めよう」
レドは、暴走気味のミスティを押さえるべく横槍を入れた。こいつは潔癖症なんだろうか?焼き餅だとしても、ここまで怒られるほどシャティルとの仲は進展していないはずなのだが。正直今はそれどころではない。
ウェンデの荷物の中に、二冊の本が入っていた。一冊は呪文書。所々、シュナイエン帝国語で書き込みがしてあるため帝国出身者と見て良いとは思えるが、軍関係者として判るものがないため、シュナイエン帝国の関与を決定付けるものがない。
二冊目は、自動人形の研究書だ。しかしこれは、とある人物からウェンデに送られた物で、彼が書いた物ではないらしいが、この送り主については少し気になることがある。それに、てっきりウェンデが製作主だと思っていたが・・・
「ジーナロッテ、君の製作主はウェンデではないんだね?」
「ええ、そうよ。私はそいつに貸し与えられていただけ。それなのに勝手に身体を改造されて、こんな蜘蛛の足を真似たものまで・・・・・・しかも裸で行動させられるし、ウェンデはこの作戦が終わり次第、私が殺すつもりだったわ」
ジーナロッテはゾッとする冷笑を浮かべている。
「君らに命令を与えた人物を白状する気はあるか?」
「ないわ。情報が漏れそうになったら自決する。仮に言ったところで、自動人形の証言なんて証拠として取り扱われないと思うけどね」
確かにそうだろう。ラナエスト王国としてこれらの証拠・証言をシュナイエン帝国に突きつけても、知らぬ存ぜぬで終わるのは容易に想像出来る。帝国の発行した命令書でもあればいいのだが、残念ながらそういったものは残っていなかった。また、自動人形の証言なんて、如何様にも操作出来ると思えば、証言能力は認められないだろう。
「レド、これからどうする?」
オルフェルの問いに、レドは思案して・・・・・・結論を出した。
「ジーナロッテを壊して、後はコボルドを掃除しよう。そうすればテオストラは元に戻る」
すると、ジーナロッテが口を開いた。
「オルフェル・・・あなたは私にこう言ったわ。「降参するか?今ならまだ助かるはず」と」
「確かにそうだ。俺は「助かるはず」と言った。しかし情報は漏らさないんだろう?漏らしても自決すると言うし、どちらにしろ助けられないな」
「・・・・・・何を教えれば助けてくれるのかしら?」
「この際、証拠・証言はどうでも言い。事件の裏を知りたい」
ジーナロッテは逡巡したが最終的には、作戦は現時点で頓挫、それでも帝国に改めて迷惑は掛かるまいと判断した。
「判ったわ。話しましょう」
そうしてジーナロッテは語り出した。
シュナイエン帝国では国内産業の構造転換を図っている。広い国土を結ぶ街道に軌道と呼ばれる鉄製の二本の線を引き、その上を“魔列車”と呼ばれる鉄の乗り物が走ることによって移動と輸送の効率化を目的としているのだ。
そのため、鉱山と鍛冶師・彫金師の需要が激増している。テオストラ露天鉱床に問題が発生し、ラナエストの鍛冶師が帝国に流出するよう今回の作戦が組まれたということだ。
作戦は、テオストラで幽霊騒動を起こすこと、ついでに鉱石を入手すること、コボルドを招き入れ、更なる混乱をもたらすこと、この三点で、作戦の立案者は帝国の魔道士ロウゼル。鍛冶師の勧誘については、他の者が担当しているようで何も知らされていない。自分は製作主からこの作戦のためにウェンデに貸し与えられているだけだ、というのがジーナロッテの説明である。
「製作主というのは、ロウゼル?」
オルフェルの質問にジーナロッテは首を振った。
「私の製作主はコルムス様。自動人形に関してはおそらく世界一の御方よ」
「コルムスだって!?馬鹿なことを言うな!彼は死んだはずだ!」
オルフェルは驚愕と共に、恩人の名が汚されていると思い激高した。
「あなたの知っているコルムスと私の製作主は別人ではないかしら?製作主はまだ生きているわ」
「ウェンデが持っていた自動人形に関する本、これを書いた、送り主はコルムスとサインしてある。言ってることは嘘じゃない。おそらくオルフェルの知っているコルムスとは別人だろう」
レドはそう言って本をオルフェルに見せた。
オルフェルはその本を見、何枚かページをめくっているうちに表情がますます険しくなってくる。ウェンデの荷物のところに行き、中を漁ってジーナロッテのスペア部品のうち腕の部分を取り出した。
部品の内側も外側も丹念に見て調べるオルフェル。
レドはオルフェルを一先ずおいて、さっきから気になっていることを尋ねた。
「コボルドを招き入れるとはどういうことだ?」
「あっ、それなら先に聞いて欲しいことあるの!」
ミーナは、自分達が奥で見かけたコボルドの事を他の皆に話し出した。
―その頃、テオストラ内の複数の箇所で動きがあった。
ミーナ達がコボルドを見た、現在地より右側通路の奥の部屋。
ウェンデ達が採掘をしていた、現在地より左側通路の奥の部屋。
とある鉄鉱石に自我が生じた、現在地より真下の最深部。
それら三方に転移してきたコボルド達が、混み合う採掘場を避けて新たな場所を求めるべく、移動を開始したのだ。シャティル達はまだこのことを知らない―
コボルドが転移して侵入し、同じく出て行ったこと、小型のツルハシを使っておりそれに秘密がありそうなこと、コボルドの王水でクアンの足が溶かされ掛けたこと。
ミーナは奥で見た事を話し終えた。それを聞いてジーナロッテが口を開く。
「その猫ちゃんが自動人形と言うのも驚いたわ・・・それはともかく、“略奪のマトック”と言うそうよ。元は赤銅色のマトックなのだけど、ピック側で一叩きすると、深紅に染まり、その場所を覚える。金槌側の一叩きでコボルド王国へ戻り、もう一度、深紅のマトックのピック側で叩くと、覚えた場所に戻って色が抜けるらしいわ。コボルド達はそれと、もう一種類、“探索のマトック”という青銅のマトックを常備していて、これは無作為に坑道を探して転移し、王国に戻る仕組みらしいわ」
「何故、そこまで知っている?」
「作戦の肝心な部分よ。ロウゼルから受けた指示は、「鉱山夫に深紅のマトックを持つ物が居るから、そのものを殺害し、マトックは魔法で移送せよ」と言うことだったの。おそらく事前に手配して、略奪のマトックにテオストラの場所を覚えさせ、それをコボルド側にどうやってか提供したんじゃないのかしら。おかげで私達にも襲ってきて迷惑だったけど」
ミーナは深いため息を吐いた。コボルドと蜘蛛女が繋がっている可能性はないと判断していたのに、真っ黒だったとは。
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