012 シャティルの危機
2015/12/27
修正加筆を行っています。
ギルビーが気絶しミスティとレドが敵の魔法によって眠らされているこの状況で、シャティルは眠っていなかった。
麻痺毒で身体が動かず、抵抗力の無い状態ではシャティルも眠ってしまっていたかもしれない。それでも眠らずにいたのは、運が良くか悪くか、敵の操った片手剣がレドの魔法解除によって落下し、右肩を切り裂いた時の傷の痛みのおかげだ。
しかし、敵の魔法使いが接近してきたため、様子を見るために眠ったふりをすることにしたのであった。
『情けねぇ・・・何が剣匠だ。騎士魔法はあらゆる理不尽をはね除けるんじゃなかったのかよ・・・違うな。騎士魔法のせいじゃない。俺が駄目なだけだ』
シャティルは今の状況を激しく悔いていたが、ある意味仕方がないところがあった。なにしろ、これまで状態異常系の影響は全てはね除けており、麻痺する身体の経験が初めてなのだ。それに、闇の世界が解けてから敵の魔法使いが現れるまで、そもそも一分しか立っていない。あまりにも展開が早すぎる。
シャティルは自分の身体の状況を感覚で掴もうとし、生命魔力が極わずかだが操作できることに気が付いた。それならばまだ方法はある。麻痺毒の効いた身体で自由になる極少量の生命魔力に同じく極少量の精神魔力を融合させる試み。出力は低くとも、身体に騎士魔力を発生させ、身体を治すことが出来るはずだ。
今はまだ、ミスティ達が倒れているため様子を伺うことにする。いずれチャンスは来るはずだ。なにしろまだ見つかっていないオルフェルの気配が動いているのをシャティルは把握している。シャティルは己の内にある生命魔力と精神魔力を、いつでも融合出来るよう操作することに精神を集中し始めた。
オルフェルは姿を消したまま最初は部屋の隅にいたが、闇の世界の魔法効果のある内に、部屋を横切って敵の方へ向かっていった。小部屋では足下の水によって透明化による隠蔽の意味が無くなるからだ。デュラハン達にぶつからないようにし、敵魔法使いに近づいたオルフェルは、この魔法使いを生け捕るか倒すか、そしてそのタイミングをどうすべきか慎重に計ることにする。
結果、眠りの魔法の詠唱も妨害せず、敵を前に出してから背後を取ることにした。そして今。
「さて、アルバン、そこの魔法使いは殺してくれ。ジーナロッテ、そこの女は縛り上げるんだ」
魔法使いの言葉を聞いて、オルフェルは倒すことを最優先に方針を決めた。手加減していてはこちらが殺される。
オルフェルは最大限の攻撃をすべく、騎士魔法を発動した。青白い燐光を竜の左籠手に浸食させて赤い燐光とし、矢に力が行き渡る。
『秘弓術竜穿矢』
その昔、オルフェルの故郷エルダーテウルを襲った、赤銅竜キャブロンを討伐の際に使った秘弓術。その折にドラグ・ダイブと賞賛されたその技は、騎士魔力の一点集中により次元に穴を開け、竜の鱗や魔法障壁の裏側に矢を転移させる攻撃だ。
騎士魔法の発動と同時に透明化の効果は消えたが、むしろ不意に出現した魔力の高まりが敵の感知するところとなる。
ウェンデは、すかさず振り返ったが、オルフェルの騎士魔法発動は一瞬の事。
トスッ!
「フヒッ!?」
軽い音だが確かに矢はウェンデの左胸に刺さった。
ウェンデは信じられない物を見ている。何故、自分の魔法防御障壁を越えて、これが刺さっているのか。続いて魔力の高まりを感知すると二本目がウェンデの額に直撃し、膝から崩れ落ちて絶命した。
シャティルは、オルフェルの騎士魔法の高まりを感じ、その時が来たことを知った。
すかさず自分も騎士魔法を発動。いつもよりは若干遅い発動だが、身体の麻痺が引いたのが判る。シャティルは剣を拾いそのまま身を捻って俯せから駆けだし、レドの首を締めようとしていたアルバンにタックルを仕掛け、近くの壁に激突させた。
続いて、アルバンを行動停止にすべく、中段青眼から右親指を下に手首の力を抜き、ヴァンフォート流剣技“荒波”の構えを取る。真下に下げた剣身を手首で跳ね上げ上段から振り下ろすこの剣技は、騎士魔法の状況下で使用すると別の技となる。
『水断走波!』
真下から切り上げた初太刀の衝撃波が、真上から振り下ろされた弐ノ太刀の衝撃波に追い越され、先端部でぶつかる上下方向の衝撃波は前方への衝撃波と化す。
海をも断ち割る斬撃が走り、デュラハンを呑み込む。
轟音と共にアルバンだった鎧は砕け散り吹き飛んだ。
呆然としているジーナロッテを見やり、オルフェルが声を掛ける。
「さて、ジーナロッテと言ったか?これで残るは君だけだが、降参するか?今ならまだ助かるはずだ」
「わかったわ。私の負けよ」
ジーナロッテは大人しく直立して身体の力を抜く。
オルフェルはシャティルに、ジーナロッテをロープで縛るように頼んだ。ギルビーの荷物にロープが入っているらしい。シャティルはギルビーのそばにより、まずはギルビーを起こす。
「ギルビー、ロープを貸して欲しいんだ」
「むう・・・頭が痛いわい・・・ロープならワシの背負い袋の右側、それ、そこよ。そこに入っておる」
「敵の自動人形を縛るから、ギルビーはミスティを起こして、治して貰ってくれ。ミスティとレドは眠りの呪文で眠らされてしまってるんだ」
「そうか、判ったわい」
ギルビーはレドとミスティを起こしに歩いていった。
シャティルがジーナロッテの背後に立ちロープを掛け始めると、少し困ったことになった。
なにしろ、人外の存在とはいえ、膝から上の外見は生身の成人女性とまったく変わらないように見えるし裸なのだ。
目の前には白くて優美な曲線を描きつつ重量感のある尻。どこから蜘蛛の糸を出していたのか気になったが頭を振り払う。
そして、腕を身体と一緒に縛ろうとすると予想外に邪魔だ。
その、胸の双丘が・・・
「あん、痛いわ。もっと優しくできないかしら」
「お前は自動人形だろうが!」
「ちゃんと痛みも感じられるように造られているのよ」
ジーナロッテのわざとらしい声に、シャティルは苛立つ。
そんなものなのか?と思いつつ先ほどまでより若干加減をしてみるが、なにしろ、ぐにぐにと動くのですぐに縛りが緩んでしまう。
シャティルが困ってオルフェルを見ると、オルフェルは真顔で言った。
「上と下で縛るんだよ」
『上と下って・・・』
上はジーナロッテの後ろから見えるが、下は見えない。手探りで探すしか・・・・・・左手で弾力のある物を持ち上げ、右手でロープを回すとなると後ろから抱くように密着するしかなく。
その時、ジーナロッテが。
「ちょっと、何か堅い物が当たるんですけど・・・」
『フレイム・タングスの柄の事だな。うん、きっとそう』
「俺の剣だ」
「抜いて突きつけてるの?怖いわ」
「お前が怖いなんて言うなよ。抜いてなんか居ない、柄頭だから気にすんな」
オルフェルは必死で口元が緩むのを自制しながら、用心のためにジーナロッテに弓を向け続けている。
『シャティル!お前美味しすぎるし面白すぎる!』
ミスティが目覚め、探索に別行動していたミーナとレティシアとクアンが帰ってきたのは、そんなシャティルがロープ縛りに悪戦苦闘している時であった。
部屋の入り口で固まるミーナとレティシア。
二人には、シャティルが自動人形の巨乳を揉んでいるようにしか見えなかったし、自動人形もちらとミーナ達を確認するのが見えた。その対象物があまりにも自分達と差がありすぎて、見下された感がする。
ミスティは目覚めてからの異常な光景に、頭のコブを治して欲しいと頼んでくるギルビーの顔を右手でずいっと突き飛ばした。
顔が真っ赤になり、口元を押さえる。
そして・・・・・・
「「「シャティルのえっちぃ!」」」
「なんでだよっ!」
坑道内に響き渡る女性陣の声と向けられる殺気に、理不尽だ!と思うシャティルであった。
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