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泣き虫の夢

友人の「泣き虫」というお題で一人語りを挑戦してみました

月華(ユェファ)が純粋です

近いうちに月華(ユェファ)の過去も書いてみたいと思いますw←


 泣き声が聞こえる。 一体誰が泣いているのかと疑問になった。


 頬を伝う生暖かい水滴、あぁ、僕が泣いているのかと理解するのに数分かかった。


 記憶が欠落している、僕が何だったのか分からない。 でも同じ所に居続ける生活を何年もして来ていない気がした。


 頭上には何処から出たのか分からない表示板。 書いてあるの内容は。


 泣き虫の夢のクリア条件と書いてありその下にこの世界のどこかに泣き続けるモノがいるらしい。 それを見つけ出しなんとか泣きやませる事がクリア条件。 だと書いてあった。 ―――クリアってなんだろうか。


 そのクリア条件を読み上げるとパッと変わる表示板に少し驚きながらその文字を読む。


 次に書いてあったのは泣き虫の夢のルールと書いてあった。 ここでは記憶が一時的に消失するが戻るので無理に詮索しない事、誰も殺めない事と書いてあった。 文字を目で追って読み終わると同時に消えた表示板。 まるで僕が読むためだけに出てきたモノみたいだ。 ―――つまり、クリア条件を僕は満たさなければいけないのか。


 何と面倒なと一人ため息をつきながら頬を伝い足下に落ちる水滴、どれだけ泣いていたらこんなのになるのだろうか、真っ白なその空間には薄く水が敷かれていた。 僕から流れ出る水もその水に同化する。


 歩くとパシャンと音がした。 周りを見渡すもなにもない。 ただ白い床と白い空、そしてカーペットの様に敷いてあるように見える水が微風に撫ぜられて波立たせていた。


 ―――こんな所で泣き続けてるモノって一体……?


 疑問を飲み込みながら適当に歩く。 反響してすすり泣く声が聞えるが響き音の発生源が分からない。


 ―――きっと歩いていれば変わってくる。


 根拠も何もないのに何処か絶対的な自信。 それは経験というモノから来る自信だと思った。 一時的に消失した記憶。 身に沁み渡った経験まではこの世界は奪えないようだと僕は少し不敵笑う。 そんな笑いながらも涙は流し続けた。


 ――パシャン


 何時間歩いただろう。 終わりのない白い世界。 だが変化が一つあった。


 ―――ここに小屋なんてあったか?


 水の上に浮かぶ小さな小人の住むような小屋があり首を傾げながら僕はしゃがむ。


 すると反響しているすすり泣く声は小屋の中から聞こえていた。


 ――トントン


 壊さない様に指で小屋の屋根を叩くとぐすんぐすんと音を立てて動く気配。


 ――ガチャリ


 小屋の扉が開かれてそこに居たのは小さな僕の掌に乗れるサイズの少女だった。


 ボロボロと涙を流しその潤んだ紅い瞳はしっかりと僕の姿を映していた。 ―――あぁ、僕ってこんな顔してたんだね。


 声をかける君はなんでそんなに泣いているの? と。 そしたら分からないとでも涙が止まらないのだと泣きながら僕の暗い色の服を小さな白い手で掴んで言う。


 ―――困ったな。 確かクリア条件は見つけ出し泣きやませる事。


 彼女を泣き止ませなければいけない使命感もきっと消失している記憶から来るモノなのだろう。


 泣いたらいけないのかなと鼻をすする少女は眉を八の字にして悲しそうに僕を見上げていた。 その目を見てきっと気味が悪いだとか言われていたのだろう、その黒い綺麗な髪は目を隠せるぐらい長かった。


 そんな彼女の頭を出来るだけ優しく撫でて僕は涙を流し続けながら笑って言った。 ―――泣く事は悪い事じゃない。 笑うために泣けばいい。


 そう言ったら彼女は余計泣いてしまった。 何でなのかと慌てていると彼女は嬉しいのだと泣きながら嗚咽交じりに言った。


 彼女の記憶もなかったが徐々に蘇って来たらしくやはりその紅い瞳で迫害されていたのだと言う。 悲しくて、辛くて吐き出したくて。


 それでも泣いたら許されなかったらしい。 だから彼女はここでずっと泣いていたのだという。 僕が、泣く事は悪い事じゃないと言ってくれたから思い出せたと、受け入れられたと笑う彼女の瞳から涙はもう止まっていた。


 ――ペコン


 今度は足元に出てくる表示板。 書いてあるのは。


 泣き虫の《ドリーミー・ケージ》クリアと書いてあった。


 《ドリーミー・ケージ》……。 その言葉はよく知っているような気がした。


 徐々に蘇る記憶。 あぁ、俺は、彼女にありがとうと言われるにふさわしい人間じゃなかった。


 俺は世界の看守だから、見廻りのために彼女のこの泣き虫の(ケージ)に入り彼女を泣き止ませた。


 いつもの事なのに体が浮き上がり世界から吐き出されるような圧力に体を預けながら心は罪悪感が渦巻いていた。 あんな綺麗な少女が囚人だなんて信じたくもなかったがそれが現実だった。


 何年も押し殺していた涙を彼女の世界に入ったことで吐き出せたらしくいつものように《牢獄図書館(プリズン・ライブラリー)》に戻ってその泣き虫の《ドリーミー・ケージ》である水色の表紙の本を本棚に戻した。














  =泣き虫の夢 完 =

よろしかったらご感想などをお聞かせ願いたく思います

ここまで読んでいただきありがとうございました

気に入っていただけたらよかったらこれからもよろしくお願いいたします

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