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音に縛られた夢

 「リズムは大切だ。 生活のリズム、音律。 私達の周りにはリズムが沢山ある。 だからリズムは大切にしなくてはいけない。 乱す事は許されない」




 この街には音楽が溢れている。


 色々な音楽。 それぞれの家で一曲が常に流れ続け、それが街に流れ込み、不協和音を響かせている。


 リズムを大切にする事はこの街での決まりごと。


 乱す事はこの街にとって重罪だ。



 私はそう言われて育ってきた。



 毎日毎日、決まった時間に起きて、ご飯を食べる。 そして決まった時間に帰ってきて、決まった様に生活する。


 それが普通だと思っていた。 他の街もそんな風だと。 私にとってはそれが普通だったから。





 そんな毎日。 揺らぐ事のない日常。 それが壊れたのは一人の青年と出会ったから。








 「うわ、うるせぇ」


 黒いチャイナ服の様な格好、そして黒髪を持った青年が突如現れて街の不協和音に顔をしかめた。


 青年、月華(ユェファ)は辺りを見回す。


 まるでおとぎ話に出てくる城下町のような賑やかな街並み。


 だが、賑わっているのは人の声じゃない。 それぞれの家から流れている音楽。


 道行く人の耳には音楽を聞くイヤホン。




 ーーーペコン


 月華にしか見えないパネル。 《牢獄図書館(プリズン・ライブラリー)》の看守にしか見えない、この《ドリーミー・ケージ》と呼ばれる本の中の世界のルールと出る方法が書いてある。


 「リズムを乱すことなかれ。 乱した者を探す事。 ねぇ。 くっだらねぇ」


 ルールとクリア条件を読み上げ月華は鼻で笑う。


 だが、月華はまだ知らなかった。 この街の異常さを。






 「いらっしゃいませー」


 近くの飲食店に入ると機械音が聞こえた。 


 どうやら、その店には従業員が居なく、全て機械仕掛けの様だった。


 「オーダーが決まりましたラお知らせ下さイ」



 席につくとテーブルの下に取り付けられているスピーカーから音がして消える。


 飲食店の中は少しの機械が動く音だけ。 月華の他に客は無く、無人の店には音楽すらかかっていない。


 「一体どうなってんだよ」


 料理を頼んだ月華は運ばれてきたハンバーグを食べながら溜息を零す。



 異常な程静まり返っている店の中。 この街の人間は会話もしそうになくただ音楽を聞くだけ。


 不気味なくらい、音楽やリズムを重視しているのは月華にも理解出来た。





 「貴方誰?」


 飲食店から出て街を歩いていると突然声をかけられた。



 「俺は月華。 キミは?」


 「私は、ソディー。 貴方一体何者?」


 

 「リズムを乱す者を探しているんだけど。 キミ、知らない?」


 「リズムを、乱す人? そんなのこの街にいるはずないわ。 貴方も知ってるでしょう? リズムを乱したら大変な事になってしまう」


 月華に声をかけたのは一人の好奇心が旺盛そうな少女。 片耳にはイヤホンをしている。 月華の言葉に少女は眉をひそめる。



 「大変?」


 「そう。 大変。 死んじゃうのよ? 大変でしょう?」


 「はっ……。 そうか。 ウケるな」


 「はぁ? 貴方、一体何なの」


 「良いか? 人間はリズムを狂わせても死んだりしない」


 「!? ちょっと待って。 貴方と居ると私のリズムが狂ってしまう! 私はまだ死にたくないし、死ななくても重罪なのよ!?」


 月華の言葉に動揺するソディー。 首を振り慌てた様に月華から離れようとする。


 「大丈夫。 落ち着いてくれ」


 「コレが落ち着いていられる!? 貴方はイカれてる! 正気じゃないわ! リズムを何とも思っていないなんて!」


 月華が落ち着かせようとするがソディーは聞く耳を持たない。


 「なんだ?」


 「どうしたんだ??」


 周りの人達もソディーの荒げた声を聞いて片耳からイヤホンを外して集まってくる。


 「くそっ。 来い!」


 月華はあまり目立たない方が良いと思いソディーの手を掴んで路地へと入った。


 ソディーは驚きのあまり声も出ない様子だったが月華にとっては都合が良かった。


 そのまま街外れまで来てようやく月華の足が止まった。



 「一体、何なの! こんな所に。 あぁ。 このままじゃ私は捕まるか死んでしまう」


 「そのリズムってのは脈拍とかにも関係があるのか?」


 「勿論よ! 日常の生活リズムも! あぁ、こんな時間じゃない。 こんな時間にこんな所に居るのは私のリズムじゃない!」


 「まず、落ち着いてくれ。 落ち着けば脈拍は戻るし、すぐに本来いる場所に行けば大丈夫だろう。 さぁ、落ち着いて」


 ソディーがパニクりながら騒ぐが、月華の透き通るような金色の瞳に徐々に落ち着いていく。


 「落ち着いたか?」


 「え、えぇ。 貴方は何で乱す者を探してるの? どうして?」


 「まぁ、俺は看守だからな。 とりあえず、この(ケージ)から出る為さ」


 「看守……。 都市伝説じゃ、なかったのね……」


 「此処では都市伝説か。 まぁいい。 その伝説がキミの目の前にいる。 キミの周りに何処かおかしな人は居なかったかい?」


 「……そんな人。 居ればすぐに、見つかってしまうわ」


 「思い出してくれ。 誰か居ないか?」


 「…………そう言えば、リズムを変えた人なら知ってる。 私の友人でアニマって言う子よ」


 「そうか。 何処に居る?」





 月華は去り際に私にありがとうと行って立ち去った。 きっと、アニマが乱す者と思ったんだろう。


 アニマが。 そんな筈ない。


 私は不安を抱えながら家へと帰った。


 リズムを乱したら死ぬか、捕まってしまう。 だから皆、その家の、自分のリズムを大切にする。


 たまにリズムを変える人が居る。 それは仕事の都合だったり。 新しい家族が増えたり。


 そういうリズムを変える人は皆少なからずリズムを乱す者に近いから警戒する。


 その人のせいでも自分のリズムが狂う事があるから。


 死の恐怖でさえも恐れずにリズムを変える人もいる。


 私は死にたくない。 捕まるなんて、考えた事もない。 でも、今日。 月華という看守に出会って私は、リズムを思い出せずに居た。


 音感はある。 けど、耳から入ってくる曲は私の中で音符となりごちゃごちゃになっていく。


 コレがリズムが乱れている。 という事なのだろうか。


 もしそうなら、私は一体どうなってしまうの?


 重罪人になってしまったの?


 こんなの、お母さんにも相談できる筈がない。 あぁ、私は一体どうなるの?



 部屋に居たらもんもんと考え込んでしまい余計私のリズムが崩れていく。


 そう思った途端、怖くなって無我夢中で外に出る時間じゃないのに、私は家を飛び出した。


 何でもいい。 誰か私を、私のリズムを。


 「アンタだったんだな。 ソディー」


 肩を叩かれ呟かれる。 怖い。 この声は……。


 「多分俺の、せい。 かな? まぁ、でも、悪かったよ」


 「悪かった……? 悪かったで済むわけ無いでしょう!!」


 月華の少し申し訳無さそうな声が聞こえて、私は感情をそのままに怒鳴りながら後ろを振り向く。


 一瞬だった。 月華の黒い髪と金色の目が。 死神にしか見えなかったし、それでも、次の瞬間には月華という看守は消えていた。










 目が覚めるといつも通りの本棚に囲まれたドーム状の建物。 《牢獄図書館(プリズン・ライブラリー)》。


 本棚を背に寝ていた俺の膝の上には音符がバラバラになっていく楽譜の絵がある一冊の本。


 本の中の夢の世界。 いや、《牢獄図書館(プリズン・ライブラリー)》が夢の世界なのかもしれない。 それでも、此処にある本達は《ドリーミー・ケージ》と呼ばれている。



 夢の檻。 囚人である人間がそこから出られるのは、看守になる事だけだ。


 そして俺、月華は看守。 《ドリーミー・ケージ》に入ってクリアをすると《牢獄図書館》に帰ってくる。


 そこで見てきたモノ、聞いてきたモノを書いてカウンターに置いて、また違う《ドリーミー・ケージ》に入る。



 今日もまた、俺はメモというなの報告を紙に綴りカウンターに放り新しい檻を探す。


 筈だった。



 見慣れないフードがカウンターの内側に居たから。



 「お前、一体……?」


 問いかけるとフードは少し身じろぎ、消えた。





 誰も見ないこの《牢獄図書館》で初めて自分の他の人影を見た気がした。


 「……いやそんな訳無いか。 不協和音で頭がまだ混乱してんのかな」





 この時は何も思わずに俺は笑ってまた本棚へと向かっていく。












  = 音に縛られた夢  完 = 


 お題:曲がり角

 お題配布元:http://99.jpn.org/ag/

ひっさびさに書いた結果が大やけどですねはい

いや、言い訳させて下さい。

スランプなんです←


はい、ごめんなさい


此処まで読んでくださった方

真にありがとうございました!

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