狂った女の夢
あーもう最悪……。 看守になって成長が止まったかと思っていたがそれは違った。 私、ルーイ=マカディアスはいつの間にか看守になっていた。 いや、看守を殺してしまったのかもしれない。 とにかく私は看守になり様々な世界へと行った。 早く年は取りたくないと思っていた私からすれば成長の遅くなる看守は嬉しかった。 だが……。
「この店は若い人向けだよ。 おばさん」
とある《ドリーミー・ケージ》で言われた一言。 ぴしりと固まり、私は鏡を数年ぶりに見た。 そこには確かにシワの増えた女の顔があった。 おばさんと言われるのも客観的に見れば理解してしまう。 よく叔母が私に言っていた言葉を思い出した。
「女は肌の曲がり角があるんだから。 ちゃんとお化粧も覚えなさいね?」
その時の私はまだまだ若いんだから化粧なんて面倒な事はしないと、化粧をすると肌が荒れやすくなるのでこれを長く続かせたいと言っていた。 だがどうだ。 一気に成長し私は化粧の仕方も何が必要なのかも分からないではないか。 こんなのは嫌だ。 私は……私は……っ。
「狂った看守ってあんたか?」
突然私の前に現れた、一人の青年。 黒髪にきめ細やかな肌、そしてその意志の強そうな金色の瞳が私を写す。 やめて、見ないで。
「……あんた何そんなに泣いてるんだ? 何がそんなに悲しいんだ?」
優しい声が私の鼓膜を刺激する。 あぁ、この人は、この人なら。 優しく私を満たしてくれるかもしれない。
「年を取るのが、悲しいの」
「……そうか。 でもな、年取っても綺麗であればいいじゃないか。 こんな檻で引きこもってたってあんたは綺麗じゃないから」
そう言いながらその人は私の頬を優しく撫でた。 あぁ、なんて暖かい手なの? 私はそれだけで満たされた。
「八つ当たりされているここの人達の為にあんたはここからいなくなった方がいい」
「でも、もうパネルが見えないの」
「大丈夫。 それ以外の方法であんたは解放されるよ。 俺を信じてくれないか?」
悪いようにはしないと言うその人はやんわりと笑って手を差し出してくれた。 私は確かに、この《ドリーミー・ケージ》の人達で鬱憤を晴らしていた。 でも優しいこの人なら囚人達を抑えられるかもしれない。 万が一私が看守じゃなくなっていても、核にはなれているのかしら。 それなら私を救い出すのが彼の役目なのかもしれない。 そう思って私は彼の手を取った。 ニッと太陽のような暖かな笑顔を見せた彼にはほんの少し幼さが残っているように見えた。 それでも彼は美しかった。 そして私の視界は暗闇に閉ざされた。
「案外すんなり言ったな。 よう、あんた、許されるとでも思ってんのか? 甘いなぁ」
そう声が聞こえた。 手が動かせない。 後ろ手に縛られたようだ。 そのまま彼に押されて締め切った屋敷から出るとパチパチと何かが爆ぜる音、複数の人の気配。
「流石看守だな」
村人の一人が感嘆の意を示した。 一体どうなっているのか。
「いいからさっさとしな。 これ以上この女を苦しめるな。 この女をどうにかすればあんた達は解放されるんだから」
「わかってるさ。 おらっ、歩け!! 魔女!」
ビンッと手の縄か何かを引っ張られて私は見えないながらも足を動かした。 どういう事なの? 私は何処を歩いているの? 私は一体、どうなってしまうの? あの優しい彼は嘘だったの? 悪いようにはしないからと言っていた彼の言葉が私の頭が駆け巡った。 その言葉だけが支えとなり私は足を動かせた。 土の感触から木の感触、そして階段のように上がっていく。 どこへ行くというの?
「膝をつけ」
男の声がして私は恐る恐る膝を曲げるが、遅かったからか、男は私を乱暴に上から下へと叩きつける。 様々な人の声がする。 重なりすぎて聞き取れないよ。
「今から魔女を処刑する! そしてこの村は解放される! 皆刮目せよ!!」
処刑!? 悪いようにはしないって言ったのに!!
「やめて!!!」
「あんたが好き勝手した所為で子供が床に伏せり、死んだ! 弁解は却下だ!!」
喉が張り裂けるぐらいの大声を出すがすぐさま却下され、私の命は終わった。
「胸糞悪い檻だな」
俺はため息をついた。 クリア条件は村を解放する事。 そしてルールは、魔女を殺さない事。 若さというモノに執着し、狂った元看守の首は一瞬にして落とされた。 そのシワだらけの顔は嘆いている様に見えた。 それを見た後、俺は《牢獄図書館》に戻った。
「看守というのは、悲しいものです」
突然誰かが俺に話しかけてきた。 バッと顔を上げるが誰もいない。 確かに、悲しいものかもしれない。 通常の人間の枠から外れ成長が遅れ、そして一気に成長する。 それを人間と言えるのかと言えば分からないというのが俺の意見だ。 人間でありたいとも思っていない。 俺はただ、あの世界から逃げたかった。 なぜ逃げたかったのかは分からないが俺はとにかく逃げたかったから、見慣れない人間を殺した。 それが看守だった。 ただそれだけだった。
「……ある意味化物かもな」
傍らに落ちている魔女の絵が表紙になっている本を拾い上げていつも通り本棚に戻す。 俺は生にも若さにも執着はない。 だが最近は頭の奥に焼け付いたある女の笑顔が鮮明に思い出される。 一体誰でなんでそれが焼け付いているのかは分からない。 だが、俺が執着してるのは確かだ。 自分が自分じゃない感覚を持ち始めてしばらく経つが慣れない。 そして俺はそんな事を考えながら記録をまとめてカウンターに置きまた図書館を彷徨う。
=狂った女の夢 完=
お題:曲がり角
お題配布元:http://99.jpn.org/ag/
久々に書きましたがまたしてもお題が活かせてないこの事実^p^
ここまで読んでいただき誠にありがとうございます
よろしかったら感想なんかを頂けれると嬉しく思います