真昼間の夢
お題企画第十二弾でございます
夜のこない世界。 睡眠という概念がない世界。
「うわ。 明る……」
睡眠欲もない人達の街に訪れたのは黒いチャイナ服に身を包んだ青年。 月華だ。 前と違う事は彼が気にしていた身長。 そしてその幼さが強かった顔は男らしく成長しているという事。
――ペコン
何年も続けている看守。 そこで散々見たルールとクリア条件の記されたパネルが頭上に現れた。 書かれている文字は、【ルール、寝ない事。 クリア条件、心から楽しむ】だった。
「楽しむって……」
困ったように眉間にシワを寄せて日差しを遮るように片手を翳しながら歩き始める。 わいわいと賑やかだが、汚い街らしく腐敗臭が立ち込めているが誰も気にせずにテントの下に置かれているベンチとテーブルに食い物と酒が並べられてベンチの周りを男達が囲いゲラゲラと笑っている。 月華はそこまで環境に頓着しない性格だが、顔をしかめる程の悪臭の中、慣れとは恐ろしい。 普通に食べ物が食えるとは。 だがしかし月華にとってはあり得なかった。
「よー! 兄ちゃん、見かけない顔だなぁ~! どうしたぁ?」
陽気に酔っ払っているのか、中年の男性が顔をしかめている月華に笑いかける。
「観光に立ち寄っただけなんだ。 楽しくやってそうじゃないか。 俺も混ぜてくれないか?」
「いいぞいいぞ! ほらみんな場所開けてやれ! 観光くんが楽しみたいそうだ」
「いいねぇ~! 若いもんはみんな混ざりゃしねぇんだ」
「よう、兄ちゃん! 辛いのは好きかい!?」
「兄ちゃんウイスキーはいける口かい?」
月華も笑いかけて問いかけるとおっさん達は快く場所を開け自分達の食べ物や酒を月華の前に置きながら問いかける。 余程出来上がっているのだろう。 開けてもらった場所に座ると腐敗臭より酒と香辛料の匂いのが強かった。 心の中でこれなら確かに食えるには食えるなと納得しながら笑う。
「ウイスキーよりジンあるか?」
「おっ、あるよあるよ~」
「おーい、こっちに肉もう二つ追加ー」
月華が問いかけると隣で酒を飲んでるおっさんが向かい側のおっさんにボトルを取るようにジェスチャーし、店に近いおっさんが声を張り上げる。 月華には考えがあった。 ウイスキーなどは飲んだ事はあるが、ジンはない為慣れようのない酒を飲めば楽しめそうにない状況でも楽しめるかも知れないという考え。 中年のおっさん達と飲みながらおっさんの話を聞き続け飯を食っている。 そんな少し前の月華なら考えられない状況だが月華は確かに楽しんでいた。
「楽しんでいるかい? 看守の兄ちゃん」
不意におっさん達が月華に問いかけてきた。
「なんだ、分かっていたのか。 まぁ、楽しくはないといえば嘘になるかな」
「そうかそうか。 たまにはこんな陽気な世界も面白いだろう?」
「まぁ、そうだな」
おっさんの一人と月華は笑い合いながら酒を飲み続ける。
――ペコン
突然頭上に現れたパネルにはクリアとだけ書いてあった。 その文字を読むとスーッと酔いが醒める感覚があった。 おっさん達は笑い合いながら時間が止まった様に微動だにしなかった。 少し珍しい《ドリーミー・ケージ》だなと思いながら月華は急速に醒めていく頭の中。 ただただ時間が経過していつも通り《牢獄図書館》に戻っていく。
「戻ったか……」
太陽が輝いている表紙の本が傍らに落ちていて少し埃っぽい巨大な図書館の片隅で月華は本棚にもたれ掛かって座り込んでいた。 本を拾い上げて本棚に戻す。 チャイナ服の懐の内側にある内ポケットから少し大きめなメモ帳を取り出してサラサラと記録を残しいつも通りカウンターに切り取ったメモを置く。
「誰だ?」
なにかの気配を感じて月華が周りを見回しながら声をかけるがシーンと静まり返っている牢獄であり図書館でもある場所。
「気のせいか」
月華は自嘲気味に笑いメモをカウンターに置いて踵を返していく。
「長い間、よくやるな。 月華よ」
カウンターの向こう側に茶色いローブを来て深々とフードをかぶっている者がそう呟くが、月華に届く事はなかった。
=真昼間の夢 完=
お題:真昼間の話
お題配布元:http://99.jpn.org/ag/
ちょっと月華くんが成長しました。 そして最後の奴誰なんでしょうね^p^←
とりあえずはあと18話で終わるのでどうなるかわかりませんが…どうかお付き合いください
ここまで読んでいただき誠にありがとうございます
よろしかったら感想なんかを頂けると嬉しく思います