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散歩日和の夢

お題企画第七弾

いやぁ、すっかり秋になりましたね

 「すっかり秋晴れだね~。 こういう日はいつも一緒にお散歩してたよね。 お兄ちゃん」


 「そーだな」


 澄み渡る青空の下、草木の緑色の葉がさわさわと涼しい風に揺れる田舎道に二人の若者が歩いていた。 一人はニコニコと笑顔を絶やさない15歳ぐらいの少女。 もう一人は少女に手を引かれててこてこと後ろで歩く黒いチャイナ服を着た少女とそう年も変わらなさそうな少年。 少女は少年のことを兄と呼ぶが二人の外見は似ても似つかなく、少年も表情に見え隠れするうんざりしたような雰囲気は兄妹ではないと言っているようだった。


 「お兄ちゃん、都会に行ってから楽しい?」


 「そーだな」


 「だよね、楽しくなかったら帰ってこないってことにならないもんね」


 「そーだな」


 「私ね、お兄ちゃんが帰ってきてくれればなぁってずっと思ってたんだよ? お正月も帰ってこなかったし」


 「そーだな」


 何処かがおかしい言葉のキャッチボール。 少女はそんな事お構いなしに――いやもしかしたら気づいていないのかもしれない――言葉を投げかけ続ける。


 「秋の空って本当綺麗だよね。 日差しもそこまで強くないし」


 「そーだな」


 「お兄ちゃんと一緒で私もこの時期が一番好きなんだ」


 「そーだな」


 「でもみんなは、普通春じゃない? って言うんだよ? 散歩日和なのは」


 「そーか」


 「春は苦手。 いろんな新しい生活、環境になりやすいでしょ?」


 「そーだな」


 「お兄ちゃんも都会に行ったのは春だったよね」


 「そーだな」


 平和な世界では贅沢な悩みが蔓延している。 そんな世界が嫌いな少年……看守の月華はこの《ドリーミー・ケージ》が苦痛でしかなかった。 普通に皆それぞれ住んでいると思っている世界は大体は本の中の世界。 牢獄として、本の中のモノは囚人である。 唯一本の世界……《ドリーミー・ケージ》から抜け出せる存在。 それが看守。 看守は無条件に《ドリーミー・ケージ》を出入りできるわけではない。 一度入った事のある《ドリーミー・ケージ》には入れず、そして入った《ドリーミー・ケージ》ではそれぞれルールとクリア条件がある。 ルールは犯してはならない法。 そのルールを犯すことすれば看守は看守ではなくなる。 そしてクリア条件というのはその世界から出るただ一つの方法。 その条件をクリアしなければ永遠と(ケージ)から出られない。 そしてこの(ケージ)のクリア条件は目の前の少女に傷つけずに真実を伝える事。 ルールは兄のふりをしなくてはならない。


 「それにしても田舎の方が空気はやっぱり美味しい?」


 「そーだな」


 こんな受け答えしかしない月華。 ルールは一応守ってはいるものの、傷つけずに真実をという条件に思考を取られているようだ。


 「やっぱりねー。 ここに住んでる私でもこの季節は抜群に美味しいもん」


 満足そうに微笑む少女を見ながら月華は早々に言うか、それとも、兄のふりをしなくてはならないは条件クリアする際には矛盾になるのではないかと考えていた。 真実。 それは自分が少女の兄ではないこと。 そして本当の兄は死んだという事実を突きつけることだった。


 「ねぇ、お兄ちゃん。 彼女とか……できちゃった?」


 「は? 出来ねぇよ」


 「そっか。 よかった。 私、お兄ちゃんのこと「その先は言わないでくれないか?」なんで」


 「その先は俺じゃない誰かに言ってやれ。 俺は死んだ。 だから、生きてる奴に言ってやれ」


 少女が頬を赤らめ何やらただ事ではない事を言おうとしているのが目に見えた為に月華がストップをかけて自分を兄の幽霊だという嘘をつくことにした。


 「嘘よ」


 「嘘じゃない。 俺は死んだんだ。 だから帰ってこられなかった」


 優しく笑う月華に少女はホロホロと涙を溢れさせる。


 「本当に、死んじゃったの? お兄ちゃん」


 「ごめんな」


 「散歩日和だねって。 よく言ってたのに」


 この時期になるとと顔を覆い泣く少女。 そこで月華は異変に気づく。


 「そう。 都会の散歩も悪くなかったけどね。 散歩日和の日に車に轢かれてしまったんだ。 信じてくれるかい?」


 自分の言葉がおかしかった。 頭の中で巡る記憶は自分のではないと気付き、内心歯噛みをする。


 「信じる……。 信じるよ。 お兄ちゃん」


 泣きじゃくりながらそう言って笑う少女の顔を見て月華は心が痛んだ。 悲しい時に笑う事は結構辛い事を知っていたから。


 「ありがとう。 由衣」


 月華ではない何かが月華の口を借りて感謝の意を示し笑った。 それに釣られ少女も辛そうではない笑顔を見せる。 頭上に現れたパネルにはクリアとだけ書いてあり月華はそのまま自分が一番嫌いなタイプの(ケージ)から離脱した。






 「散歩して、死んだとか。 馬鹿だろ」


 ただ一人、広い広い図書館で気が付く月華。 膝の上には秋のあぜ道が描かれた表紙の本。 それを見てただ呟いた。












 =散歩日和の夢 完=


 お題:散歩日和

 お題配布元:http://99.jpn.org/ag/

こう、こうなるつもりはなかったんだ!

結構短かったですね。 ほのぼの難しい……。

そして前書きでも書きましたがすっかり秋になりましたね。 太陽が出れば暖かいのに日が見えないと寒くなりました。

皆様風邪を引かないようにお気をつけください

ここまで読んでいただき誠にありがとうございます

よろしかったら感想なんかを頂けれると嬉しく思います

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