夏祭りの夢
第一弾!
月華という名の少年が渡り歩く《牢獄図書館》に蔵書するは《ドリーミー・ケージ》と呼ばれる本たち。
その本に看守である月華が触れると本の中、《ドリーミー・ケージ》の世界の中に入ってしまいそこのルールを破らずにクリアしなければ元の《牢獄図書館》に戻れない……
そんな世界の一話完結型です!
――がやがや
――わいわい
――ピーヒョロロ~
雑踏溢れかえる神社の通り。 雑踏の中に聞こえる祭囃子。
「……やな所来ちゃったなぁ;」
周りの人々が色とりどりの浴衣を身に包む中チャイナ服を着て顔をしかめる少年がいた。 髪が長く下の方で一つ縛りをしていて前髪は少し長く少しつり目のぱっちりとした金色の目が黒い髪の隙間から見え鈍い光を宿している。
肌は異様に白くまるで白人。
少年の名前は月華。
世界を旅する看守様。
此処は夏祭りの夢の世界。 夢の世界にはそれぞれルールがある。
看守である月華は唯一夢の世界を出たり入ったりできるがそんな月華でもルールによって決められた事をクリアしなければ夢の世界、《ドリーミー・ケージ》から出る事は出来ない。
なぜ看守なのかって? 《ドリーミー・ケージ》にいる住人達はみな囚人だからだ。 これと言って罪を犯した物ばかりではないが生まれながらにして囚人なのが一般なのだ。
そんな囚人である一般人、ただの登場人物からプレイヤーになるのは運である。 実際月華も元々はただの登場人物だった。
とまぁ、話はこれくらいにしておこう。
月華は夏祭りの《ドリーミー・ケージ》に入ってしまったために此処のルールをクリアしなければならない。
――ペコン
月華の頭上に現れたのはまるでゲームの様な表示板。
クリア条件が書いてある。
「クリア条件、夏祭りの中に五人の袴を来たモノがいるためにそのモノたちを捕獲……この中に? うわぁ……。めんどくさ;」
まるで周りには月華のその言葉が聞えてないかのようだ。 月華も普通に上にある表示板を見ながら読み上げ人ごみを見て肩を落とす。
そして表示板はまた変わりルールが表示された。
「えぇっと……。 夏祭りを中断してしまったらルール違反。 あくまで祭りを楽しみながら……。 マジかよ;」
一見簡単なルールだが楽しみながら何処にいるのか分からない服の特徴だけの探し人を探し捕獲するのは中々難しい。
月華はハァとため息をつきながら周りを見渡す。表示板は音もなく跡形もなく消えた。
『楽しめとか言われてもねぇ……。 ま、いっか』
月華はそのまま出店を一瞥しながら歩き出す。
「兄ちゃん迷子かい~?」
「美味いたこ焼きだよォ!」
城下町なのだろうか賑わう通りを歩く月華。 一人だけチャイナ服だが、誰も気にしない。 気にするどころか誰もが看守殿と言って笑いかけてくる。
『……此処は割かし看守からの恩恵を得ていた檻なのか?』
普通、囚人というものは看守を嫌う。 その為に殺されそうなほどの看守嫌いの《ドリーミー・ケージ》もありそれを経験してきた月華は平和すぎるこの夏祭りの檻を不思議も思っていた。
リンゴ飴を購入し齧る月華は足元を注意深く見ていた。
その為かさっさと月華は袴を来た少女二人を確保し神社の境内に捕獲してある。
リンゴ飴を食べ終わると少年二人を確保した。
「かんしゅのおにいちゃん、わたあめちょうだい?」
舌っ足らずの少年がにこやかに笑って小首を傾げた。
「おー」『……あと一人。 こんな平和なのは似合わねぇんだよなぁ;』
月華は聞き流しながらこういうのは最後の一人が一番難しいんだよなぁと考えながら通りへと続く階段に腰掛けて明るい通りを見つめる。
「ねー! わたあめぇ!!」
「あたしやきそばぁ」
ばたばたと駄々をこねる舌っ足らずの三歳ぐらいの少年とそれに便乗して月華にねだるのは四歳ぐらいの少女。 他の少し大きい十歳くらいの少年と少女はただただ黙って月華を見ていた。
『これだから平和な檻の囚人は;』
頭を抱えてため息をこぼしながら立ち上がり階段を下りて行く。
此処のルールは捕獲しておく事。 その為の境内の中に看守が使える籠の中に少女達を入れてある。 籠と言っても竹などで出来たモノではない。 囚人にだけ行使される結界のような透明のモノである。
「何処に居やがる;」
ルールは探す事なので囚人たちに聞く事も出来ずに月華は祭りを満喫しながら周りを見回す。
人々の服は皆浴衣、たまに甚平を着ている者も居るが。 ふいに木の上を見上げるとニッコリと微笑んでいる月華と同い年の様な袴を履いていた少年。 月華よりヤンチャそうに笑っていた。
「へぇ、今までに無いくらい若い看守殿だねぇ? 僕と同じくらい?」
ケタケタと笑う少年に月華はムカつきながら口を開く。
「さっさと降りて来いよ。 テメェだけなんだ。 さっさと俺はこの檻から出たいんだよ」
「僕もさ。 知ってるよ? 看守が死んだりルールを破ればそこの檻の中の囚人が看守になる。 僕は看守になりたいんだ」
「勘弁してくれよ; 俺は囚人に戻るつもりも死ぬつもりもねぇんだ」
少年の線となっている目が少し開き茶色い目が祭りの赤みがかった灯りを反射し赤く光る。 そんな少年にげっそりしながら言うと少年は怒ったようで絶対捕まらないから! と怒鳴ってさっさかと木の上を飛んで闇へと消えようとするが。
「かくれんぼの次は鬼ごっこですかァ?」
逃がすほどまぬけでもない月華がワイヤーを木の枝に巻きつけるように投げてそのまま木の上に着地しワイヤーを回収すると少年を追った。
「うあぁ!? な、なんで!?」
今までそんな芸当ができるのが自分しかいなかったからなのか驚きながら少年はスピードを上げる。
「なんでって; 出来るから出来るんだよ」
「そうじゃなくてぇ! つか近! 看守殿怖いいい!!」
なぁに言ってんだ? と言いたげに首を傾げながら木の上を移動する月華、飛びながら後ろを振り向く少年は真後ろに月華がいた為に驚き更に速めた。
「あ! おい!! 怖いなら大人しく捕まれよ!!」
クソガキィィィと怒鳴りながら月華は切れないワイヤーを少年の足に引っかけるとそのまま引いて少年は木から落ちた。 顔面を太い木の枝で強打しながら。
「いってぇぇぇぇ……。 何すんだよ極悪看守!」
「誰が極悪だ。 誰が」
むんずと鮮やかな碧い着物の襟を掴んでワイヤーを仕舞う月華に文句を言う少年。 月華はそのまま歩き出しながら言い返す。 少年は引き摺られない様にと後ろ向きのまま歩く。
ぎゃいぎゃい言っているが月華は聞く耳無し。 そのまま境内へと向かい少年を籠の中に放り込んだ。
そしたらペコンとまた表示板が何もない所から現れた。 今度は月華の腰のあたりの高さ。
「……クリアおめでとうございます。 あと五時間ほどしたら祭りは終了いたしますのでそれまで祭りを楽しんでくださいぃ?」
いやさっさと帰せよと読み上げた後にツッコミを入れるとパシュンと音がして籠が消え去り子供たちはそれぞれまた祭りを楽しむために階段を駆け下りた。
「……これでまた探せとか言われたらこの本燃やそう」
ため息をつきながら月華は出られたときの事を思いながら祭りへと向かった。
「僕に看守は無理。 無理無理。 なにあの看守」
一人の少年の心に恐怖を植え付け五時間後、看守月華は夏祭りの《ドリーミー・ケージ》から出た。
「疲れた;」
丸い建物の壁には本で埋め尽くされていて真ん中部分には本棚が置いてありその塔の高さは計り知れない。 そんな人気のない図書館に月華は現れた。 床には紅い表紙の本が置いてある。
此処は《ドリーミー・ケージ》を繋ぐ場所、《牢獄図書館》。 《牢獄図書館》に生けるのは看守のみ。 司書はいるらしいが誰も見たことが無く記録もない。
全ての《ドリーミー・ケージ》、つまり、夢の檻を探しても看守は二人しか存在しない。 それぞれの《ドリーミー・ケージ》は一度出たら同じモノを見る事は出来ない。 例え同じ本に入ったとしてもそこは少し違ったルール、人間達がいる場所になってしまう。
そんな《ドリーミー・ケージ》を監視し見て回るのが看守。 実際に夢の世界に入りクリア条件を満たし次の世界へと向かうだけの存在。
「……こんなのに意味なんてあるのかよ」
ボソリと呟いた言葉は反響しながら消えて行った。
=夏祭りの夢 完 =