第1話 人間界のハロウィンに行こう!
赤い月が常時空に瞬いている、極夜の世界。人の世と決して交わらずに存在しているそこには、吸血鬼や人狼、幽霊など人ならざるものが暮らしている。
そこに仲のいい双子のオオカミ少年が住んでいた。銀狼の兄シルヴィアと黒狼の弟クロウディア。いつも2人だけで遊んでいる。
「ディア! 早く行こう」
「わかってるよ、シル」
2人は今日、10月31日を楽しみにしていた。
年に1度、この日だけは人間界とこの世界のゲートが繋がり、自由に行き来ができるのだ。
そのことを知った双子は1年ほど前からゲートを開くことができる吸血鬼であり、魔女でもあるエリザに頼み込んだ。
そして、根負けしたエリザから自分も同行するという条件付きで人間界へと行けることになった。
前日から、2人は楽しみでなかなか寝られず、今日が待ち遠しかった。
今、2人は街の外れにある森の中にあるエリザの居住区である城へと向かっている。
2人は走りやすいからと姿を子オオカミに変えて、森の中を駆ける。
しばらくじゃれるように走ると突如開けた空間に出た。
築100年は超えそうな立派な石造りの城が中央にそびえ立っている。
2人は、姿をオオカミから、人間へと姿を戻す。
よく似た背格好に、顔。違うのは頭部から生えているオオカミの耳とお尻から生えている尻尾の色ぐらいだ。
2人が城の扉の前に立つと迎え入れるかのように扉が自然と開いた。
にゃぁ。
開いた扉の先にはエリザの使い魔である黒猫が待っていましたとばかりに尻尾を振りながら優雅に座っていた。
黒猫は2人を見るともう一度「にゃぁお」と鳴き、2人に背中を向けて歩き出す。
エリザの元へ案内してくれるようだと2人はすぐに察して、黒猫の後を付いていく。
「もうすぐだね、ディア」
「そうだね、シル」
2人はクスクスと笑いながら軽い足取りで城内を進む。しばらく進むとひときわ大きな両開きの扉が現れる。豪華な装飾が施された扉の前で、黒猫が「にゃぁ」と鳴く。
それを合図にするように、扉が開く。
「よく来たね、坊や達」
広い空間の中、玉座のような椅子に座り、真っ赤な液体の入ったワイングラスを傾けながら、エリザはニヤリと笑う。犬歯がキラリと光る。
「エリザ! 約束は守ってくれるよな!」
「おはようございます、エリザさん。今日はよろしくお願いしますね?」
「ふふふ、楽しみで仕方がないって顔だね、坊や達。まぁ、いいさ。アタシも久しぶりに人間界へ行くから少し楽しみでねぇ」
「そうなの?」
エリザの笑顔に、シルヴィアとクロウディアはコテンと首を横にかしげる。
「そうさ、年に1回しかいけないというのもあるけど、別に人間界に行かなくてもこの世界で事足りるからねぇ。昔は若気の至りでよく、人の血を飲みに行っていたんだけど、最近は全くさね」
「若気の至りってエリザ今なん――」
「こら、シル。女性に対して失礼だよ」
シルヴィアがエリザに年齢を尋ねようとしたのをいち早く気付いたクロウディアがシルヴィアの口を塞ぐ。
「相変わらずさね、坊や達。それじゃぁ、もう一度おさらいとかねてハロウィンについて説明しようかね」
エリザはそう言うと、ワイングラスの中身を飲み干して、横の台に置くと、玉座から立ち上がる。
パチン。
そして、指を鳴らした。すると、何もなかったはずの空間にご馳走の乗った巨大なテーブルが現れた。
「どうせ、楽しみすぎて朝食もとらずに来たんだろう? しっかり食べて行きなさい」
エリザがゆっくりと玉座の前にある階段を降りる。そして椅子の横に立つと、椅子がまるで意思を持つように動き、エスコートするようにエリザが座るのを待った。
「坊や達も早く、座りな」
シルヴィアとクロウディアはお互いに顔を見合わせる。
グゥゥ。
お互いのおなかの音を聞き、笑い合った。確かに、エリザの言うとおり、朝起きるとすぐに身支度をして家を飛び出した。起きてから何も食べていないことを今更ながら2人は思い出す。
2人も椅子に近付くと、エリザの時と同じように椅子がエスコートしてくれた。
エリザは2人が座るのを確認すると、目の前にある食事へ手をつけた。それに倣って、双子が食べ始めるのを見て内心で笑う。
「それで、今日は人間界ではハロウィンというお祭りが開かれているんだけどね」
食べながらで良いから、聞くようにと前置きをしてエリザは簡単に説明をする。
「この日は死者の魂や悪霊が人間界に来ると言われていて、悪霊に人間だと気付かれないように仮装する文化があるのさ。まぁ、これの始まりは昔こちらの世界の馬鹿が人間界で馬鹿をやらかしたことがきっかけなんだけど、今は関係ないか」
「昔から、そのハロウィン? って名前の今日だけはここと人間界の境界が曖昧になってゲートが開くんでしたっけ?」
「よく覚えていたねぇ、クロウディア。その通りさ」
「なんで、今日だけは曖昧になるんだ?」
「その理由はまだ分かってないんだよ」
シルヴィアのもっともな質問にエリザは興味なさそうに返す。
「アタシは元々興味がないしね。興味がないことに時間は費やしたくないわけよ」
「それは、わかります」
「そうさね、とりあえず腹ごしらえが終わったら、アタシが魔法で坊や達に仮装をしてもらうから、そのつもりで」
エリザの言葉に双子は頷いて、そこからは食事に集中した。
◇
食事を終えると、エリザがまた指を鳴らして机を消し去る。
そして、双子に向かい合った。
「それじゃ、仮装と行こうかね。希望はあるかい?」
「そもそも、仮装が何か分からない」
「そうだね、それに人間と違うものだって言うなら、すでに僕たちは仮装していることにならないですか?」
「あはは、そうさね。まぁ、ハロウィンらしい小物の付いたフード付きの仮装にでもしようかねぇ。そのケモ耳が本物だとバレたら大変だからね」
楽しそうに笑いながらエリザは2人をしばらく見つめてから、指を鳴らす。
すると、双子は白いモクモクとした煙に包まれる。
「えっ?」
「うわぁー!」
そして、煙が引くと、そこには色違いのフード付きの服に、十字架やジャック・オ・ランタンの装飾が付いている。
「すごい!」
「かっこいい!」
双子はお互いの服を見て、嬉しそうにはしゃぐ。その様子をエリザと黒猫が微笑ましそうに見つめていた。
「そういえば、エリザは仮装しないのか?」
「そうだねぇ、魔女の帽子でも被っておくか」
シルヴィアの質問に、エリザは右手を振る。すると、なにもなかったはずの手にいつの間にか黒い大ぶりの帽子が握られていた。バラの装飾が付いた帽子をエリザは被る。
元々着ていた、黒と赤を基調としたドレスにその帽子はとても似合っていた。
「さて、そろそろ行くかい? ……そうだった、忘れてはいけない合い言葉があったんだった」
「合い言葉?」
思い出したかのようなエリザの言葉を、双子は復唱する。
「そうさね、子供は仮装して各家をまわってお菓子をもらうのさ」
「なに、その最高な催し!」
「そのために、合い言葉がいるの?」
「そうさね」
エリザは一度言葉を切ると、人差し指を唇に当てる。そして、合い言葉を紡いだ。
「トリック・オア・トリート!」
「トリック・オア・トリート……?」
双子は首をかしげながらまた復唱する。その様子にエリザは笑いながら、続けた。
「そうさ、お菓子をくれなきゃ、いたずらしちゃうって意味だよ」
「それは、お菓子をくれるな」
シルヴィアは納得がいったように笑う。
「なんか、これ考えた人の腹の黒さが窺えるよね」
クロウディアは小さく呟いたが、その声は残念ながらシルヴィアとエリザには聞こえなかった。
「さて、これで準備は出来た。それでは、人間界に行くとしますか」
「おー!」
エリザのかけ声に双子は拳を上に突き上げる。その様子を微笑ましげに見ながら、右手を振り、1本の杖を構えた。
「あれ? 魔女が杖を使うことはほとんどないと聞いたけど……」
「ああ、クロウディアはよく勉強してるね。ほとんど使うことがないのは事実さ。でも、空間転移に近いような大型の魔法の場合は安全面を考慮して使うのさ。さぁ、坊や達。私の近くから離れるんじゃないよ?」
エリザの言葉に双子はエリザに近付いた。
それを見て、微笑むとエリザはまるで指揮棒かのようにリズムを刻むように杖を動かす。それと同時に地面に幾何学模様の魔法陣が幾重にも現れた。
徐々に青く光り輝く。まぶしくて双子は目を開けていられなくなる。
そして、目を閉じた瞬間に、微かな浮遊感を感じた。次に目を開けるとそこは、森の中だった。先程までいたはずの城は見当たらない。
「ここが、人間界……!」
シルヴィアが歓喜の声を上げる。クロウディアも言葉には出さないが瞳が輝いていた。
自分達が住んでいる極夜の世界と違い、星がなく明るい。空も濃紺ではなく、真っ青な様子に物珍しさを覚える。
「この世界には、太陽と月があるのさ。昼は太陽が輝き、明るい。夜は月が優しく照らす。極夜の世界とは違うだろう? とりあえず、ハロウィンの祭りが始まるのは日没からだ。それまでは人間界の散策と行こう。なに、待ちきれずに仮装している子供は大勢いる。紛れ込むのは造作もないことよ。ただ、何があってもオオカミの姿にならないこと。この約束だけは守ってよ。じゃないと、坊や達が危険だ」
「はーい」
双子は元気に返事をする。そして日没までの間、エリザの案内で人間界のお店に入って品物を見たり、買い食いをしたりと双子は楽しい時間を過ごした。
そして、徐々に日は傾き、日没がやってくる。
「こっちの月は白いんだね」
「そうさね、それもこの世界とアタシ達の世界の違いさ」
「それよりも、エリザさん、あそこで子供達が集まっているのは?」
「ああ、これからみんなで各家を回るのさ。坊や達も仲間に入れてもらいにいこうかね。その前に、お菓子入れとしてバスケットが必要かね」
エリザが指を鳴らすと、オレンジのリボンの付いたバスケットがそれぞれの腕にかかっていた。
エリザの声に押されるように、シルヴィアとクロウディアは輪の方へ歩き出す。
「ねぇ、俺達も一緒に回って良い?」
「今日、はじめてこの街に来たんだ」
「いいよー! よろしくね!」
子供達は笑顔で双子を受け入れた。そしてしばらくすると、保護者の大人の合図で、一緒に歩き出す。訪問する家は決まっているようで、保護者の大人の案内で家を訪ねる。
エリザもさらっと保護者の中に紛れ込んでいた。
「トリック・オア・トリート!」
「まぁ、大変。これでいいかしら?」
優しい老婦人が微笑ましそうに笑いながら手作りのクッキーを順番に子供達へ渡す。シルヴィア達も受け取ると他の子と同じようにもらったお菓子をバスケットに入れていく。
「トリック・オア・トリート!」
「これは、いたずらされると困るからな。仕方ない、これをあげよう」
優しそうな青年が笑いながら、ラッピングされたお菓子の詰め合わせを渡した。
同じように何件も回り、子供達のバスケットはお菓子で一杯になった。
保護者が、これで終わりだと伝えると、至る所から「えー」と不満げな声が聞こえる。
シルヴィアとクロウディアも不完全燃焼で、不満だ。誰かが「遊ぼうぜ!」と声を上げる。それに至る所から賛同が得られた。
シルヴィア達も他の子供に倣ってバスケットを道に置き、鬼ごっこが始まった。しばらくすると鬼ごっこはかくれんぼへと進化する。
シルヴィアとクロウディアも一緒にかくれんぼへ参加する。他の子供達より土地勘のない2人は人より優れた嗅覚を惜しみなく使い、鬼から逃げ続ける。
「ねぇ、シル」
近くの公園にある遊具の中に隠れながら、クロウディアはシルヴィアに声をかけた。
「どうした?」
「人間も僕たちと何も変わらないね。お菓子をもらって嬉しい。遊んで、楽しい。住む世界が違うだけで、僕たちに違いなんてあるのかな?」
「確かに。でも、エリザにはオオカミの姿になるな、尻尾や耳が本物だとバレるなって耳が痛くなるほど言われたから、何かはあるんだろうな」
「そうだよね」
2人は「うーん」と人と自分達は何が違うのか考えた。それでも正解は分からない。2人の暮らす極夜の世界は様々な種族が仲良く暮らしている。違っているのが当たり前、同じことの方が少ない。
不意に、双子の獣の耳がピクリと動く。どこからか、か細い悲鳴のようなものが聞こえた。
2人は顔を合わせると、遊具から出て声が聞こえた方へと向かう。
2人が隠れていた公園から少し離れた茂みで、先程まで双子と一緒に家を回っていた少年3人が1人の少年をいじめていた。
いじめられている少年は顔を必死に隠している。
「やめて……」
「おい、化け物、その顔見せろよ」
「そうだそうだ、お前はほんとは悪霊なんだろ!」
「違う……。ボクは……」
「そうだったな! 生まれながらに痣を持ってるのは前世でたいざい? を犯したんだって母ちゃんが言っていた!」
「違う!……ボクは何も……!!」
「言い訳するな!」
激高した少年の1人が殴りかかろうとする。それを見た瞬間に、シルヴィアは自然と体が動いていた。2人の間に入り、少年の拳を受け止める。
「よくわかんないんだけどさ、暴力はよくないと思うよ?」
少し遅れてシルヴィアの隣に並んだクロウディアはにこりと笑って少年達を見る。しかし、瞳は笑っていない。
「ヒッ……!」
少年達はその瞳を見て、後ずさる。
「お前ら、そいつが化け物だって知らないから!」
「確かに、知らないよ? でも暴力は駄目でしょ?」
「そうだそうだ! 暴力は振るった方が負けなんだからな!」
クロウディアに援護射撃をするようにシルヴィアも言い返す。
「その化け物とつるんで、どうなっても知らないからな!」
少年達は捨て台詞を吐くと、走って行ってしまった。
「大丈夫?」
少年達が去ったのを確認して、クロウディアはいじめられていた少年に手を差し伸べる。
「あっ、ありがとう」
クロウディアの手を取った少年の顔の左半分は火傷でもしたかのような痣が広がっていた。
双子は思わず痣を凝視してしまう。それに気付いた少年がバッと顔を伏せて腕で顔を隠す。
「すみません、醜いものを見せて……」
「別に醜くないよ? どうしてそう思うの?」
「えっ……?」
驚いたように少年は顔を上げる。その顔を見てシルヴィアとクロウディアはお互いに目を合わせて頷く。そして代表してクロウディアが口を開いた。
「綺麗な顔だと思うよ? 痣もチャームポイントみたいで、僕は好きだよ?」
「だな。これで化け物とか、ドクロのじーちゃんとかどうなるんだよ! って話だよな」
明るく笑う双子を少年は信じられないという瞳で見つめる。
「俺はシルヴィア。シルって呼んで。で、こっちが弟の――」
「クロウディアです。僕もディアって呼んで。君の名前は?」
「……マオ」
「マオ! いい名前だな」
「……でも、みんなは魔王みたいだって」
マオは目を伏せながら悲しそうな、どこか諦めたような声で言う。
「そんなことない!」
双子の声は揃った。お互いに視線を合わせて、どちらが話すかを確認する。
そして、シルヴィアが口を開いた。
「マオと魔王なんて似てないよ。だって、マオはやられても耐えてたじゃんか。魔王だったらやり返してるよ。それに、マオは優しい子だって思うよ、俺も、ディアも」
シルヴィアの言葉にクロウディアもうんうんと頷く。
「嘘だぁー……」
マオは両目から大粒の涙をこぼした。2人はしばらく、マオの背中をさする。
「ここにいたのか。坊や達」
どれくらい、そうしていたのか、不意に後ろから声が聞こえた。振り向くとシルヴィア達のバスケットを持ったエリザが立っていた。
エリザは2人が慰めるようにしているマオに視線を向ける。
「この子は?」
「マオって言うんだ! さっき友達になった!」
「えっ……、ボクと友達?」
「うん、僕もシルも、君のことを好きになったからね?」
マオはクロウディアの言葉を反芻すると、顔が真っ赤になった。
「どうしたの、マオ? 顔がリンゴみたいだ」
「うっ、うるさい……。友達なんてはじめて言われたんだ。揶揄わないで」
「そうなの? 他の連中は勿体ないことするな?」
「……坊や達は、なんでその子を口説いているのさ」
「反応が面白いから!」
双子は顔を見合わせて笑う。
エリザはしゃがんで、マオに視線を合わせた。
「この子達が、ごめんね? お詫びに一夜の夢でも見るかい?」
「一夜の夢……ですか?」
「なにすんだ、エリザ?」
エリザはニヤリと笑う。チャームポイントだと以前言っていた犬歯がキラリとまた光った。
「ねぇ、マオ。これから起きることは他の誰にも言わない。約束できる?」
「大丈夫……。両親も早くに死んじゃって、施設で腫れ物扱いされているから、ボクの話聞いてくれる人なんて、いないよ」
「そんな、悲しいことを言うんじゃないよ」
エリザは正面からマオを抱きしめた。
「人だけじゃない、生き物は誰かと交わらないと生きていけないものさ。きっと、いつかマオのことを分かってくれる人に出会える」
「それは、お姉さん達?」
「アタシ達との出会いは一夜の夢、現実ではないのさ。……どうしたもんかね」
エリザは少し考える。
珍しく真剣な様子のエリザに双子も成り行きを見守る。
「……ねぇ、もしこの世界と並行して違う世界があるとしたら、君は信じるかい?」
「エリザさん!?」
「大丈夫、わかっているから、少し黙っていて、クロウディア」
思わず、口を挟もうとしたクロウディアをエリザは諫める。
「この子は他の世界があることも知るべきだと思う。この世界しか知らないときっと息苦しい。だから……」
エリザは周りに自分達しかいないことを確認すると、パチンと指を鳴らす。
「えっ……?」
その瞬間、マオの服が白いお化けのようなフードが付いた仮装姿へと変わっていた。
マオは自分の変わった服を目を白黒とさせながら見ている。
「おっ、マオ似合ってるじゃん」
「そうだね。……で、エリザさんどうするの?」
「いやさね。アタシ達の世界へ案内しようと思ってね。あっ、自己紹介がまだだったね。アタシはエリザ」
エリザはマオに向かって帽子を取り、一礼する。
「魔女にして、吸血鬼の開祖の一人、エリザベート。よろしくね? 君は、マオでいいのかね?」
「魔女? 吸血鬼? えっ?」
混乱している様子のマオに何も考えていないシルヴィアはさらに混乱する種を落とした。
「えっ、言ってよかったの? マオ、俺達もオオカミ少年! あれ? こっちだと人狼って言うんだっけ?」
「……シルヴィア、君さ」
「ん? どうしたんだ、ディア?」
「うーん、でもシルはそのままでいて欲しいし、なんでもない」
「なんだよ、それ。気になる」
「あっ、わかった。ボクに友達とか都合の良い夢なんだ、そっか。魔女も、吸血鬼も人狼も全部おとぎ話の世界の話だもんね」
マオは混乱しながら、これは夢だと言い聞かせている。
その様子にエリザが笑う。
「それでもいいさね、幸せな夢なら辛い現実も忘れられる」
エリザはまた杖を取り出すと、振る。行きと同様に幾何学模様の魔法陣が出現した。
「えっ? 何? なに?」
混乱して叫びだしているマオを無視して、エリザは世界の境界であるゲートを開けて、3人の子供と一緒に極夜の世界へと戻った。




