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悪役令嬢の影武者ですが、主人が姿を消してから五年が経ちました  作者: パンドラ


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22/22

第22話

「そうか、それは大変だったね」


 裏庭のガゼボで、いつも通り私とレオ様がお茶をします。

 いえ、いつも通りではありませんでしたね。

 フルリナも、一緒にいます。


「気が付かなかったのは僕とティカ両方の落ち度、でいいかな?」

「ええ、構いません」

「そんな! 盗み聞いた私が悪いんです!」


 ……ため息をつきます。

 レオも少しばかり眉間に皺を寄せて。

 平民なので、こういうのがわからないのが玉に瑕ですね。


「フルリナ。今のやり取りは、あなたを罰しないというやり取りなのですよ」

「……え?」

「王族と侯爵令嬢が人払いをして、秘密の会話をしているんだ。盗み聞いたとなれば、相応の対応をしなければならない」


 例え学院内が平等を謳っていたとしても。

 その制度を利用して政治的な話を聞いてしまえば、放置することができません。

 建前と現実は違うのです。


「僕たちが悪いことにしておけば、君を罰しなくても済むからね」

「き、気づかずごめんなさい」

「いいのよ。今後政治の場に出なければなのですから、少しずつ覚えていきましょう」


 フルリナがへレム様の聖女となった今、今後教会側の人間として政治に関わってくるはずです。

 今後のレッスンはそういうのも教えていかないとですね。


「政治、お政治……」


 あら、目を回してしまいましたね。

 まあ、平民なのですから仕方がないですか。

 平民というのは、基本的に産まれたときからどのように生きるのか定められているものですからね。


「さて、話を戻そう」

「今回のミスティア教との接触、全てが不都合ばかりではりませんでしたわ」


 そう、私が死にかけたのは不都合だとしても。

 結果的にフルリナの覚醒に繋がったので好転ということにできます。


 ……後先考えず行動してしまうのは良くないですね。

 ミリス様ならばきっとあの程度何とかしていたでしょうから。

 己の未熟を恥じるばかりです。


「一番目の議題にするべきは……」

「私がティカ・アークライトと呼ばれたこと。そして、私がミスティア教の巫女と言われていたことですね」


 レオは静かに頷く。

 今回ミスティア教の襲撃で色々と物事に変化はあったものの。

 ミリス様に繋がりうる情報は、間違いなくこれですから。


「目をかけていた人物に甘い傾向がミリスにはあった。今思えば、僕もそうだったんだろう」

「私がミリス様の肉親なら、あの方が私に甘かった理由もわかります」


 スラム街出身の――いえ、なぜスラム街にいたのかはわかりませんが。

 アークライト家出身であることをミリス様がご存じだったのであれば。

 身内として扱ってくださっていた可能性があります。


「問題は、当主すら知らなそうな情報をミリスがどこで知ったのか、だ」

「そうなりますわね」


 ミリス様だから、では済ますことのできない問題です。

 あの方でも知らないことは多く、わからないこともあるでしょう。

 ミリス様は偉大な方ですが、全知全能ではありませんので。


「加えて、私がミスティア教の巫女ということ」

「僕にとっては、そっちの方が重要な要素だね」


 国家的主観で見れば、そうでしょうね。

 この場合の巫女というのは、その神の現身として最も適切な人物という意味です。

 例えば、フルリナは聖女と呼ばれていますが、正確には太陽神へレム様の巫女です。

 聖女というのは宗教的な呼び方ですからね。


 つまり……私は女神ミスティアの権能を身に下せる人物ということ。

 同時に、ミスティア教は洗脳の魔法を使うという情報もあります。


「ミスティア教に接触することは、僕としては今後許可できない」


 リスクが大きすぎる。とレオは言います。

 私もそれ自体は同意しましょう。


 万が一、私が洗脳され、ミスティアの巫女として力を振るえば――どれだけの混沌と破壊がこの世にもたらされるか。

 国家単位、いいえ、大陸単位の脅威となるでしょう。


 致命傷だった私の怪我を癒したフルリナの力を見れば、わかるというものでしょう。

 神の奇跡に抗うことは、常人には不可能なのです。


「ですが、ミリス様を追うためには……」

「駄目だ。死にかけたんだろう? 今後は許可できない」

「……はい」


 ここまで強行してくるレオは初めてですね。

 ここは、大人しく従っておきましょう。


「本来はやりたくなかったけれど。僕の方で魔力波長を国内調査させよう」


 本当に最悪の手段。

 国内に隠れていれば、魔力波長を測定すればあぶりだすことが可能です。

 生まれ持った魔力波長は、さすがのミリス様と言えど変えることはできません。

 貴族の間では身分証明として扱われているほどですからね。


「国外に逃げられる可能性は?」

「その可能性はしょうがない。もはや我々に捕らえられる気がないと半分諦めるしかない」

「本当に嫌な話ですが。あの方が本気で逃げたら我々で捕らえられるわけありませんからね……」


 現実問題として、そうなのです。

 ミリス様が本気で逃げれば、国外だろうと国内だろうと、見つけられるはずがありません。

 今我々がミリス様を探しているのは、ミリス様の失踪に意味があると決めつけているからにすぎません。

 失踪している目的、それらが果たされればきっと戻ってきてくださるという希望的観測のもと行動しているのです。


「彼女が肉親を完全に捨てる、というのも考えづらい」

「そこは私にはわかりませんが。レオが言うならそうなのでしょう」

「信頼してもらって構わないよ。彼女の身内びいきは筋金入りだ」


 ご当主様もミリス様には相当甘いご様子でしたし、きっとアークライト家の特徴なのでしょうね。

 ……私もアークライト家の人間かもしれないと考えると、なんでしょう。

 とても不遜かもしれませんが。

 少しだけ、胸の奥が温かくなるような気がします。


「彼女がどこにいるのか、果たしてわからないが……待て」

「どうかしましたか?」

「僕らはミリスが失踪して、その思考を追いかけていたが。冷静に考えれば、変わった後のミリスの思考を追わなければいけないんじゃないか?」


 ……なるほど。

 確かに、盲点でした。

 ミリス様が意図的に意識を受け渡したとしても、失踪を選んだのは変わった後のミリス様です。


 憑依ミリス様、とでもお呼びしましょうか。

 憑依ミリス様はミリス様ほど深く物事を考えているか。

 ……考えていらっしゃらないと思います。


「――それを考えるなら、国外に逃げる可能性は著しく低いかと」

「理由を聞いても?」


 あの憑依ミリス様は、破滅することを恐れていらした。

 そして、未来の行動をできるわけないと弱気でいらした。


「本物のミリス様なら、ご自身の破滅など恐れない」

「相手は小心者といいたいのかい?」


 黙って頷きます。

 悪役令嬢必携ノートの内容にある通り、憑依ミリス様が未来予知の能力があるとして。

 ここに記されているのは、不完全な未来予知。

 そして、学院内という限られた場所の情報だけです。


 臆病な彼女が、よくわからない土地へ逃げ出すでしょうか?

 いいえ、そんなことするはずがありません。

 必ず、ある程度安全が確保できる土地に移動することを選ぶことでしょう。

 つまり、国内に潜伏しているのは間違いありません。


「まあ、ミリス様が意図的に乗っ取らせた以上、ミリス様の思想の通りに動いている可能性もありますから」

「その場合は国外逃亡も視野に入るわけか。ふむ……」


 全てはミリス様の手のひらの上。

 どうやったらあの方に追いつけるのでしょうか。


 手詰まり感あふれるこの状況で、ひょっこりと一人が手をあげました。


「あの~。ちょっとよろしいですか?」


 フルリナが、回復していた。


「なんですか、フルリナ」

「ええと、ミリス様——ややこしいな――本物ミリス様を探してるですよね?」

「そうだね」


 何を当たり前のことを確認しているのでしょうこの子は。

 と、思いましたが、話し合いに参加するのはこれが初。

 大目に見てあげましょう。


「で、本物ミリス様の魔力波長は分かってるんですよね?」

「そうだね」

「もしかして、ティカ様と近かったりします?」

「――かなり近いはずです」


 影武者として重用されるぐらいなので。

 私とミリス様の魔力波長はかなり酷似しているはずです。

 以前測定したときは、そのような結果が出ていたかと。


「えっと、その、多分なんですけど」


 凄い要領を得ない喋り方。

 なんでしょう。と身構えずにいたところ。

 次に飛び出してきたのは、信じがたい言葉でした。


「私、本物のミリス様がどの辺にいるのか、調べられると思います」

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