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悪役令嬢の影武者ですが、主人が姿を消してから五年が経ちました  作者: パンドラ
第一章 消えた悪役令嬢編

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第2話

「ここが貴族学院ですのね」


 国の威信を見せつけるために作られた、見るものが見れば分かる洗練された作り。

 流石は国中の貴族子息子女を集める場所、と言ったところでしょうか。

 豪華絢爛さを出していないのは、平民も通わせる試みも当初から考えていたためでしょうか? 彼らが盗みを働いてはいけませんからね。


 もちろん、学校の備品を盗まなければならぬほど困窮している生徒を入学させるとは思いませんが。

 そもそもそこまで民を困窮させている自体、由々しきことです。

 スラム街出身の私が言うのもなんですが。


「さて、ヒロインなる人物はどこにいるのでしょうか」


 悪役令嬢必携ノートとご当主様の調べをまとめると、ヒロインたるフルリナ嬢はピンク色の髪が特徴的な活発的で可愛らしい雰囲気をまとっている、平民の生徒だとのこと。

 彼女こそが、ミリス様の破滅に大きく関わっている、と悪役令嬢必携ノートには記されておりました。


 なので、その動向は必ず見張っておきたいのですが……。


「おい! 何をしている、平民!」


 ふと、騒ぎが聞こえてきます。

 何事かと視点を向けてみれば、あれはデオチ子爵令息ですね。その前にいるのは……フルリナ嬢、でしょうか? ピンク髪、印象もふんわり気で可愛らしい方の顔立ち。間違いなさそうです。


「えと、あの、ごめんなさい!」

「ごめんなさいで済むか、平民の癖に貴族であるこの俺様にぶつかってきやがって!」


 ふむ。不注意な子なのかと思えば、周囲のひそひそ声を聴く限り、どうも違うみたいですね。


「自分からあたりに言ってた癖に」

「前々から平民差別が強い人らしいよ」


 平民が恥を知らぬ貴族に難癖付けられている状況。

 ……見過ごせませんわね。


 ミリス様の代役として、私、ミリス様に恥じるような真似はしないと決めております。

 ミリス様でもこうなさったでしょう。何せ、スラムの孤児を拾ってくださったほど慈悲深い方なのですから!


「品位がありませんわね」

「なんだって!」


 ほうら、こうして話しかけてきた相手が誰なのかも把握していないありさまなのですから。

 ミリス様でしたら、相手の声だけで誰が話しかけてきたか即座に把握されてましたよ?

 無名ならともかく、著名な相手であれば。確実に。


「名乗りが必要ですか?」


 言いながら扇をシャっと広げます。

 この扇には親骨に家門が印されております。

 暗に、口ではお前には名乗るにも値しないというのも同然。


 この行為に腹を立てるか、それとも……。


「あ、あぁ……」


 ほう。最低限の教養は持っていましたか。

 アークライト家の家門だと認識する程度の知能があることは褒めて差し上げます。

 権力には弱いと見ていましたが、これほどとは。


「去りなさい。今なら見なかったことにして差し上げます」

「ひ、ひぃ~」


 たかが子爵家。国内、国外を見ても有数の貴族であるアークライト家に睨まればひとたまりもないでしょう。

 その程度の覚悟もないくせに、この場で騒ぎを起こすだなんて……。

 本当に品位と知性が足りない輩ですね。


「ふん、小物ですわね」


 ミリス様の寛大さを欠片も持ち合わせていない。

 ミリス様はすごいのですよ。何せ、スラム街の孤児を拾っただけではなく、自分の洋服を着せてくださるほどでしたもの。


 やっぱり私の顔は映えるわね! 鏡を見るより色々なところが見られて楽しいわ!

 そんなことをおっしゃいながら、私を着飾るのが好きな方でした。

 大変慈悲深い、寛大なお方です。並みの貴族であれば、己の影武者と言えどスラムの孤児に己の服をあてがうなど恥ずべきこととしていたでしょう。


 さて、周囲の視線を集めてしまいましたが。

 私の模倣は完璧です。どれだけの間ミリス様を見てきたと思っているのですか。

 振り向いた際の髪の毛の先の角度すら完璧に再現してみせましょう!


 気高く、優雅に。

 ミリス様ならこうおっしゃることでしょう。

 さあ! 私を見なさい!


 故に、私も堂々とするのです。


「か、かっこいい……っ!」


 ……ん?

 ああ、そうでした。ヒロインを助けたのでしたね。

 はてさて、ここからどうするべきでしょうか。

 一つ、悪役令嬢必携ノートの内容を思い出すとしましょう。


 かの書物には、このヒロインが国の将来を左右する重要人物と記されておりました。

 曰く、彼女こそが将来の聖女だと。

 はて、ではミリス様は一体どのようにしてそのようなことを知ったのでしょうか? 聖女が同じ時代に二人選ばれたという記録はありませんが。不思議ですね。

 ですがミリス様が間違えるなんてことはもっとあり得ないこと。


 ならば考えるべきことは、今後このヒロインとどのように関わるべきか。

 仲良くする、したい、という旨が悪役令嬢必携ノートには記されていた、と記憶しています。

 では友好的に接するとしましょうか。

 例えそれが破滅に繋がるとしても。

 私が代わりに破滅すれば、ミリス様は破滅せずに済むのでしょう?


「大丈夫でしたか?」

「は、はい!」

「ならばよかったです。貴族が皆あのような人物と思われるのは心外ですからね」


 因みに、学院内では貴族と平民の階級差はないものとして扱うそうですが……実態は違います。

 学院内であろうとも、家が侮られるは貴族の沽券に関わりますから。


「あ、あの。お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」


 ふむ、視線から察するに、好感を持たれるのは成功した模様。

 最低限の目的は達成できたとみるべきでしょう。

 この調子で友好関係を築きつつ、近くで動向を見守るとしましょう。


「私の名前ですか?」

「はい!」

「ふふ、ミリス・アークライトと言います。あなたは?」


 周囲が騒めいた。

 それもそのはず。アークライト家の娘が、平民相手の先に名乗ったのだから。

 貴族の間の礼儀では、名乗るのは身分の低い方が先ですから。


「フルリナ、フルリナです!」


 貴族間の礼儀など知らない彼女は、元気に答えてくださいました。

 並の貴族であれば眉を顰(ひそ)めるような状況。ですが、ミリス様は寛容です。

 この程度の無礼では笑顔を崩さないことでしょう。


 何せ、スラム街の孤児が無礼を働いても許してくださるほどなのですから。

 私の顔は何をやっても美しいわ! とおっしゃって。笑顔で無礼を許してくださいました。


「では、フルリナ嬢。平民と言えど、この学院の生徒となるのですから。節度と品位を持つように気をつけなさい」

「かっこいい……っ」


 ふむ、十分に好感は持たれたでしょうか。

 この分ならば今後目にかけたとしても不自然には思われないでしょう。

 アークライト家の娘が、忠告した平民の娘の面倒を見てあげる。この構図に無理がでなさそうで良さそうです。


「……流石だな、ミリス」

「これは……第一王子殿下にご挨拶申し上げます」


 人ごみの中から、ひと際輝かしい人物がこちらへ歩いてきました。

 その姿を拝見し、私は即座に臣下の礼を取ります。

 フルリナ嬢は私の変わり身に眼を丸くしていて。とりあえず見様見真似で私の真似をしてみることにしたようで。


 こういうところは、可愛らしいですね。

 かつての私を見ているかのよう。


「止めてくれ。君がこの学院の制度を示したばかりじゃないか」


 片手を軽くあげて、私に礼を解くように指示されます。

 なので、私も臣下の礼を解いて応じます。

 ここまでが決められたやり取り。


「学院内では身分差を問わず、ですね。ですが、私どもはいつでも王家の臣下ですわ」

「アークライト家の心がけはありがたいが、学院内ではルールを守らなければな。そして、率先して指し示すのは我々の役目だ、そうは思わないか?」

「そうですね。私が間違っておりました」


 謝罪の礼をして、この一通りのやり取りは終わる。

 このデモンストレーションの意味を理解した人物はどれだけいるのでしょうか?

 ミリス様ならともかく、そこらの有象無象では半分理解できていても良いでしょう。


 ようは、先ほどのような無礼な子爵のような真似は我々が見過ごすことはないというポーズを示したわけです。


「しかし、本当にミリスは変わったな」

「そうですか?」

「ああ、お前が率先して学院のルールを示すだなんて、素晴らしいことだと思う」


 ? 私の知っているミリス様ならこのようになさると思うのですが。

 殿下の目は節穴なのですね。誰よりも近くで見てきた私が言うのですから、間違いありません。

 私の尊敬するミリス様が誰よりもミリス様なのです。


 しかし、第一王子殿下とフルリナ嬢。

 攻略対象? だとかでこの二人が恋仲になる可能性があるそうですが。

 ちらりとフルリナ嬢の方を見ると、彼女の視線は私に注がれていて、第一王子殿下にはそこまで関心がない様子。

 見られたことで首をこてりと傾げて、なんですかと言ってくる。

 愛らしい小動物のようですね。これは可愛らしい、と評されるのも納得できます。


 第一王子殿下の方を見ても、フルリナ嬢には大した興味は示されていない様子。

 むしろ、私の様子に注力しているような?


 はて、悪役令嬢必携ノートに記されている内容とはさっそく違いますね?

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