第4話 城との対話
放課後。
俺はバイトへ向かう。
「いってきます」
家を出るとき、紫鶴は和室で作業していた。
「いってらっしゃい、先輩」
城の屋根を見つめたまま、言った。
※
夜。
「ただいま」
「おかえりなさい」
和室の明かりがついている。
「今日、城の梁を組みました」
「……梁?」
「骨組みです」
白い城は、以前よりしっかりして見えた。
※
夕飯のあと。
「学校、どうだった?」
「……普通です」
「……そっか」
会話は短い。
でも、沈黙は重くなかった。
※
その夜。
俺は和室の前で足を止めた。
中から、小さな声が聞こえる。
「……ここ……こう……」
白鷺城に話しかけているらしい。
父も、そうだった。
『城はな、急ぐと歪む』
思い出して、息を吐く。
※
翌日。
授業中、窓の外を見る。
白い雲。
白い城。
自然と、あの模型を思い出していた。
※
帰宅。
「先輩、見てください」
紫鶴は、城の一部を指さした。
「ここ、曲がってたので直しました」
「……助かる」
「先輩のお父さん、すごいですね。これ考えた人」
「……ああ」
父の顔が浮かぶ。
※
「完成したら、どうします?」
紫鶴が聞いた。
「和室に置いといていいよ」
「……じゃあ」
少し考えてから言う。
「毎朝、起きるたびに見られますね」
「……そうだな」
※
その夜、布団に入りながら考える。
学校では、俺たちは他人だ。
家では、同じ城を見ている。
不思議な関係だと思った。
※
次の日。
登校前、紫鶴が言った。
「今日は、天守の上、やります」
「失敗したら?」
「……やり直します」
迷いのない声だった。
※
和室の灯り。
今日も、白鷺城は少し高くなる。
紫鶴も、
この家で、
少しずつ、場所を作っている。
学校と、家。
城と、日常。
その間で、
俺と紫鶴の距離は――
まだ、名前のつかないままだった




