3/6
第3話 学校と、距離
紫鶴がうちに来てから、十日。
朝、目を覚ますと、台所から包丁の音が聞こえてくる。
「おはようございます、先輩」
「……おはよう」
エプロン姿の紫鶴が、フライパンを振っている。
大きな胸元のおかげで、エプロンの生地が限界まで膨張していた。
「今日は卵焼きです」
「……ありがとう」
誰かが朝ごはんを作ってくれているだけで、部屋は別の場所みたいだった。
※
通学路。
俺と紫鶴は、少し距離を空けて歩く。
紫鶴が前に出ると、風で、紫がかった黒髪が揺れる。
後輩と一緒に登校していると知られたら、面倒なことになる気がした。
※
教室。
「真坂、最近元気じゃね?」
隣の席の男子が言う。
「顔、違うぞ」
「……そうか?」
「彼女できた?」
「ない」
即答した。
頭の中に浮かんだのは、和室で白鷺城を組み立てる紫鶴の姿だった。
違う。
そういうのじゃない。
※
昼休み。
廊下で、紫鶴とすれ違う。
一瞬だけ、目が合った。
小さく会釈。
それだけ。
学校では、ただの先輩と後輩だ。




