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負け犬スタートでも、異世界で“俺”を貫く〜気付けば世界を救った英雄に〜

掲載日:2026/02/09

 ここではない何処かの公園、ベンチに座る二人。

 昼の光が芝生を照らし、空気中の魔力が煌めく

 遠くで子どもたちが遊ぶ声が聞こえている

 そんな中、少年が声をひそめて言った。


「なあ、知ってるか?」


 少女は少しからかうようにいう

「知らないよ」


「….その返しやめてくれる?正論だけど、調子狂うから」


「ふふっ」


 少年は肩をすくめる

「まあいいや、ほら、前に歴史の授業でやった英雄の話だよ」


「知ってるよ、800年前、世界を崩壊から救ったっていう英雄たちでしょ」


「そうそう、その中にさ、最強って言われてた“斧貫の英雄”っていたじゃん

 実はその人、最初は俺たちみたいな凡人だったらしいぜ」


「ふーん」


 少年はちょっと身を乗り出して、にやりと笑う

「でさ、俺思ったんだよ!もしかして俺も英雄になれるんじゃないかって!」


 少女は明らか様に笑いをこらえる


「おい笑うなよ!結構真剣なんだけど…」


「ごめんごめん。いきなり変なこと言うからつい

なれるかどうかは知らないけど、目指すのは悪くないんじゃない?応援するよ!」


 少年は少し照れたように笑った。

「よし、なら本当に頑張ってみるか!」


 昼の光の中で、二人の影が芝生に長く伸びていた。

 誰もが知る英雄の話が、今この瞬間、少しだけ現実に近づいているように思えた。

 平和な日常。飽きるくらいに平和だ

 だが、その平和は、非日常より勝ち取った平和だ

 かつて俺、が生きた道も、今となっては物語、今となっては昔の話――


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 20XX年3月の日曜日、まだ世界は滅び行く運命にあった


「ごめん、本当に悪いんだけど抜けてくれないかな…」

 ゲーム仲間の佐藤 違也(さとう まちがや)の声。


 pc画面には、さっき終わったランクマッチの戦績画面

 敗北ーーマイナス28ポイント

 いつも通りスコアボードの一番下に俺、 瓜甥河 颯真(かわおいがわ そうま)の名前が沈んでいる。

 4キル8アシスト14デスーー1番上とは天地の差だ。


「なんでよ」

 別に理由なんてわかっているーー俺が弱いせいだ。


「そ、それはー」

 言いよどむ声、ちょっと意地悪な質問だったかな?

 違也は昔から変に優しい、面と向かって弱いとは言えないだろう


「お前、弱いからだよ」

 いつもスコアボードの一番上にいる男、黒瀬 迅(くるせ じん)の声だった

 直球、そして正論だ余計な装飾も、情けもない

 黒瀬はいつもこうだ、いつも正しいし強い、勝ち組だ。


「うん、わかった抜けるよ」

 反論はないだって事実だし、それに正論に反論できるわけない

 俺は弱い、だから勝てない、みんな勝てない

 ランクも上がらず下がり気味、マウスを動かし退室をクリック。


「本当にごめん!」

 違也の声


「よし、じゃあ別のやつよb」

 通話も退室。自室に、唐突な静寂が落ちた。

 ヘッドホンを外す、耳が圧迫されていたため少し痛い。


 弱いーー

 正しい、やっぱり間違いなんて何処にもない

 追い出されたのも弱い俺が悪い。

 でも仕方がないんだ、誇れる才能、唯一無二の才能、勝てる才能

 何にも持っていないのだから。


 人生は生まれた瞬間から運で勝ち負けが決まっている。

 親が裕福か貧乏か、生活環境が良いか悪いか、才能が有るか無いか。

 

 では、負け組は努力すれば持ってる奴らに勝てるのか?

 そんな事は起こり得ない

 最初からできない奴はできないし、出来る奴はできる

 そして、努力もまた才能だ

 努力がすぐ身につく奴もいれば、何をやっても身につかない奴だっている

『努力は必ず報われる、報われなければそれはまだ努力ではない』という言葉があるように

 才能の無い奴の報われない”努力”は”努力”とすら取られない、無意味だ

 努力は負け組側の顔をしたただのハリボテに過ぎないんだから

 負け組の俺は生まれた瞬間から不幸にも負ける事が決まっていた。


 確かに世界にはもっと不公平で不幸な負け組な奴だっている、

 俺は生活にも困窮していないし、なんならpcという贅沢品も持っている

 でも、そんな事実で勝っていると思えたことはない

 逆に中途半端に良いせいで周りの才能ある奴らと同じ帯に入れてしまう

 だからいつも俺は中途半端に負けていた。


 まあでも別に悲観はしていない、もう諦めた。負けるのが俺、負けてこその俺

 負けてこその存在証明だ、これでいいんだ。


「……」

 暇になった途端、ポテチが食べたくなってきた

 コンビニ行くか?でも面倒だな……でも口は飢えている。


「仕方ないよし、行くか」

 善は急げなんて言葉を思い出しながら椅子を引き、立ち上がり、自室を出る。

 リビングでは父さんがテレビを見ていた。

 いっつも観てるけどそんなに面白いのかな?テレビって

 確かに昔は一緒に見てたけど、最近はご無沙汰、だってPCの方が面白い。


 内容を横目でチラリと確認する。

 観てるのはディべート形式で専門家が話し合うアレだ

 議題は、やっぱり最近起きた妙な地震の事だった

 3日前に日本だけじゃない、世界全体が同じ震度

 同じ時刻に揺れる地震があった


 その後、空に”変な緑のオーロラ”が現れた

 北極とかにありそうなやつがそのまんま空に

 地球を全て覆う常識を無視したオーロラだ、なんとも不思議すぎる話

 多分、世界でも滅ぶんじゃないかな?


 幸いどこも被害はなかったらしい、が面倒な事が一つある。

 それは地震以降にバカみたいに増えた未確認生物の動画だ。

 ドラゴンが飛んでる映像を今日だけで何本見たっけか?

 全く、異世界かよここは……まあAI生成だろうけど。

 そんな事を考えながら玄関で靴を履こうとした、そのとき

 台所の方から、母がひょっこりと顔を出した。


「あんた、どこ行く気?」


「ああ、ちょっとコンビニに」


「もうゲームはいいの?」


「うん」


「そう、じゃあ気をつけていってきてねーーあ、そうだ!」


「除草剤 ついでに買ってきてくれない? 昨日ちょうど切れちゃって」


 除草剤?また突拍子もない


「…まあいいよ わかった、じゃあ行ってくる」

 いっつもここぞとばかりに面倒ごとを押し付けてくるんだから…

 行こうとしたところで、また呼び止められた。


「あ、あとルーザーの餌も」

 ……母親という生き物は、どうしてこうも遠慮がないんだろう?

 ルーザー、飼い犬の名前だ


「ハイハイ」

 適当に返事をする、”いやだ”とは言わない

 ここで抵抗しても押し切られるか、嫌味を言われるだけだ

 それにそこまで苦でもないし。


「いってらっしゃい」


 その声を背中で受け取り、玄関を出る

 自転車にまたがり、ペダルを踏み込む。

 行き先はコンビニから土手近くのホームセンターにやむなし変更だ

 ホームセンターは家からかなり近い距離にある

 土手の上を走れば信号も無視できる、高速道路みたいなものだ

 歩きでもすぐなのに自転車なんて使ったら一瞬で着いてしまう

 ほらもうついた、さっさと買い物を終えて、袋をカゴに入れ再び自転車にまたがる。


 土手の上の道でペダルを漕ぐ力をさらに強くする

 草の匂い、水の音、遠くで野球をする人の声、

 土手の上にある道でペダルを強めに踏む、風が頬を切り髪を無遠慮に逆立てる


 黄昏時

 対岸にある二つのマンションが夕焼けでオレンジ色、

 土手の斜面もそう、水面、空気、雲全部一色。

 ”空に蠢くオーロラ以外は”


「はぁ」

 少し自転車を止める

 都会と自然が混じった風景、土手はなんだか落ち着くから好きだ

 一人になれるし孤独になりきらないから好きだ

 将来の不安だったり、才能の無さだったり、ここではどうでも良くなる


 ブーブー

 振動するスマホ。グループチャットに通知が届く

 スコアボードが貼られている、30キル9デス4アシスト。

 勝利ーープラス30ポイント、黒瀬だった。


「…なんだよ、勝ってるじゃん」

 内心、負けないかな?なんて思ってる自分がいた。

 でも思い返せば最低で、惨めで、情け無い。

 やっぱり俺は”負け犬”だった。


「…」


 すると、また通知。

 今度は個人チャット、違也からだった。

(今日は本当にごめん!また一緒にやろう)


 謝罪


「良いよ別に、」

 別に大丈夫、と返しておく。


 ブオオーー

 なんだか重い風が体を押す。


「うおっ、寒うー」

 遅くなると母さんに怒られてしまう

 寒いし早く帰ろう

 ここで油を売っていたって誰も買ってくれやしない

 明日は学校、またつまらない日常が待っている。

 俺は15歳にして世界に飽きている。

 たしか、お笑い芸人を見ても笑えなくなったあの頃から世界が色褪(いろあ)せ始めた気がする

 思えばその時期からテレビを見ていないような


「よし、」

 背伸びをしながら空をあお…


「は?」


 背伸びの途中で思わず止まってしまう。

 周りの音が無くなった気がする、空に巨大な一つの影に目線は釘付け。

 観た事はあるーーでも現実にあるはずのない影。

 ネットに上がっていたドラゴンだ、羽ばたく音がしっかり聞こえる。

 それなりの風がこちらに押し付けられる。


「”ドラゴン”……な、なんで?」

 そう言うのが精一杯、これは現実じゃないと思うのに現実だった。

 ドラゴンは旋回するでもなく、こっちに見向きもせず

 ただ空を横切るように、ゆっくりと進んでいく。


 ドクン!

 突然、空に浮かぶオーロラが赤色に変わり強く光り脈を打つ。

「今度はなっーー」


 ーーズキ


「っ!」

 突然頭の中に走る脈打つ痛みに頭を押さえる

 時間が経てば治る、なんて甘い物ではなかった

 ズキン!ズキン!ズキン!

 どんどんひどくなる。

 汗が滲むーー次の瞬間足元が揺れる。

 ゴゴゴ!

 地震だ、いや待て揺れてるのは俺自身?

 痛みはさらに倍増する。


「やばい…これは救急呼ばなゐ…ぽぴ…ゑーー」

 あれ?ろれつ、まわらヰゐ…⌘£※¿……ゞ………★△…〇……

 颯真の意識は闇へ沈んでいった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ……冷たい


 最初に感じた感覚は、それだった

 背中にじわりと広がる、岩の硬さと冷気、次に、耳鳴りのような静寂。


「っはあ!」

 跳ね起きるように体を起こす

 視界に入って来たのは、岩の壁一面に蒼く煌めく石が散りばめられた

 見たことのない”洞窟”だった

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