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春一つ、やり直せたなら  作者: タナカ


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80/80

俺があなたを幸せにする


――もう一度、俺と付き合ってくれ――



修学旅行の夜。


黒井との衝突を越え、世界の歪みをひとつ終わらせたあと。


俺は、夜のホテルの前で寧々に向き合っていた。




俺が死ぬ未来も。

彼女が泣き続ける世界も。


もう――終わらせた。



だから、今しかないと思った。


今言わなきゃ、また言えなくなる。


人生の最後に味わう“後悔”は、

一度で十分だ。



「……寧々」



彼女の名を呼ぶだけで、胸が痛い。


だけど柊は、まっすぐ言う。



「もう一度――俺と付き合ってくれ」



寧々は、息を止めた。


そして、ぽつり。



「…………なんで」



震える声。


嬉しさと戸惑い、その奥に、もっと深い“恐怖”が混じっている声。




柊は言葉を選ばなかった。


選んだ瞬間、また逃げる気がしたから。



「好きだからだ。

 俺が死ぬ可能性は……もうない。

 ループも、もう終わった」



「………違うよ」



寧々は小さく首を振った。

否定なのに、その目は泣きそうだった。



「すごく……すごく嬉しい。

 でも……私は、あなたと幸せになれない」



「…………どうして?」



今度は、柊の声が揺れた。



寧々は胸の前で指を握りしめる。

握りしめた指が白くなるほど、力が入っている。



「あなたを失うのが怖い……」



それだけで、柊の心臓が痛んだ。


寧々は続ける。

言葉にするたび、傷を開くみたいに。



「この先、私以外を好きになる可能性だってある。

 また、どこかへ行ってしまう可能性もある」

 


夜風が吹く。


彼女の髪が揺れて、頬の涙を隠すみたいに流れた。


 

「私は……あなたを、失いすぎた」


 




橘寧々は、絶望を“肯定“して生きてきた。



何度も。

本当に、何度も。


目の前で最愛の人が死ぬ。


抱きしめて、泣いて、叫んで。



そして時間が巻き戻って、

何もなかった顔をして、また“同じ人”に出会ってしまう。



「付き合ってください」



言われるたび、嬉しいはずなのに。


嬉しいからこそ――怖い。


また失う。

また、ひとりになる。


だったら最初から、手にしなければいい。

その結論に縋るしか、生き残れなかった。



だから彼女は、

絶望を“正解”にしてしまった。



「…………」



柊は、その顔を見て思い出す。


忘れたくても忘れられない――あの日。



振られた日。

寧々が最後に見せた、泣く寸前の笑顔。



ずっと疑問だった。


あれは、本当に「さよなら」の顔だったのか。


なにかを言いかけて、最後の最後で飲み込んだような。


痛みと、覚悟が滲んだ顔。



「………あの日と、同じ顔をしてる」



思わず、こぼれた。



今ならわかる。


あれは拒絶じゃない。


祈りだった。


俺の未来が、壊れないように。


俺が苦しまないように。


一緒にいることで、必ず訪れる“別れ”を、

彼女は一人で背負おうとしていた。


 


でも――


それでも――


今回は、違う。



柊は、一歩だけ近づく。



胸の奥の怖さを、一緒に飲み込むように息を吸い。



そして言った。




「          俺が幸せにする。

          あなたの事は俺が守る。     」




一拍、置いて。


視線を逸らさず、続ける。


「――寧々。

 失うのが怖いままでいい。


 怖くなくなる日なんて、来なくていい。

 それでも一緒にいるって選ぶことを、

 俺は“弱さ”だなんて思わない」




柊守愛は、最愛を追い求めていた。


人生で二度、

同じ人に一目惚れした。


もう、失いたくなかった。



一度目は、振られた。


二度目は、避けられた。


自分の気持ちばかり押し付けて、

彼女がどれだけ苦しんでいたかも知らずに。



それでも――

 

それでも、俺は言う。



柊守愛は、

”絶望”を超えられない壁ではないと“否定”する。




「寧々。俺さ、寧々の正義のヒーローになりたいって

 ずっと思ってた」



柊は、橘寧々の為に何でもする。


それは誰が見ても分かる。


それを信じきるには、あと少しだった。



「正義とか、もう俺はどうでもいい」


「悪になっても、俺は君の味方ならそれでいい」


「寧々が笑えるなら、他になにもいらない」



そして、最後に――



「寧々がいれば、俺は負けないから」






「…………」


涙が止まらない寧々。


目の前の光景に、強烈な既視感が重なる。




燃え盛るキャンプファイヤー。


夜の闇を照らす炎。



そして――

右手を差し出している柊の姿が。



「…………それは……」


 

寧々は、泣きながら笑った。


笑いながら、苦しそうに首を振る。



「それは、私のセリフだよ……」



彼女は、しばらく動けなかった。



指先だけが、小さく揺れている。



失うのが怖い。


また壊れるのが怖い。


その恐怖は消えない。


消えないまま、抱えたまま生きるしかない。


寧々は、泣きながら息を吸って――


震える右手を伸ばした。



柊の手を、掴む。


 

指先が触れた瞬間。

体温が伝わった瞬間。


世界の輪郭が、少しだけ変わった。

 

逃げない選択。


失うことを恐れながら、それでも進む覚悟。



寧々が、唇を震わせて言う。



「一生の、お願い」



「私と――年を重ねてください」



柊の胸の奥が、熱くなる。

熱くなって、痛いくらいに満ちる。


柊は握った手を離さなかった。

離したら、また夢みたいに消えそうだったから。

 



――二年生の夜。

ここで、物語は一つの答えに辿り着いた。


――二年生編終――


大きい話はあと一つのみですが、最終章に入ります。


是非、いいねなどで応援していただけると幸いです。

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