親友との恋バナ
「……危ないことはすんなよ」
胸倉を掴み合っていた二人は、ようやく息を吐いた。
怒鳴り合いの余韻がまだ残る空気の中、ランがわずかに肩を落とす。
「おう、俺はもう死なない」
そう言い切った柊が、ふっと吹き出した。
何がおかしいのか、自分でも分からない。
ただ、ランと向き合えたことが少しだけ嬉しかった。
――
自由時間が終わりに近づき、海辺の街に夕暮れが落ちる。
ホテルに戻る途中、二人の足音が並ぶ。
「じゃあ、またあとで」
「じゃ、また」
「おう」
ランが片手を上げて背を向ける。
その背中を、柊はしばらく見つめていた。
「……ごめんな、ラン」
独り言のように呟く。
「危ないことなのは……間違いないんだ」
風が、答えるように吹き抜けた。
一人になった瞬間、
不安が足元から這い上がってくる。
「だけど……お前の考え方じゃ、寧々は助けられない」
「前提が、違うんだよ……ラン」
そう呟いて、柊はスマホを握りしめた。
――
「寧々!次、どこ行く!!」
振り向いた涼香の笑顔は、
沈みゆく太陽よりも眩しかった。
「んー……私、観覧車乗りたい」
「よっしゃ、行こ!」
一日目最後の自由時間。
二人が選んだのは、夕日と海を見下ろせる観覧車だった。
「ドキドキするね!」
待っている間から、涼香は落ち着かない。
乗り込むと、ゆっくりと高度が上がり、景色が広がっていく。
「いや~……ずっと待ってた修学旅行も、始まってみたらあっという間だったね」
その言葉に、寧々は静かに頷いた。
夕日は、寂しさを連れてくる。
風は、知らない街の匂いを運んでくる。
大人になれば思い出すのは、そんな感情だ。
“あっという間”と感じられるのは、
“今“をちゃんと生きている証だから。
「そうだね。まだ明日もあるし、始まったばかりだよ」
「……こうやって寧々と二人でゆっくりできるのかなぁ。これからも」
夕日を見つめながら、涼香がぽつりと呟く。
「できるよ。大学生になっても、社会人になっても」
「寧々は、大学どこに行きたいとか決めてるの?」
「うーん…まだ決めてないけど、“なりたいもの“はあるよ」
「えっ!なになに!」
「内緒。まだ恥ずかしい」
人差し指を唇に当て、片目を閉じる寧々。
その仕草に、涼香は頬を赤らめる。
「……な、なに。ドキッとさせてくんじゃん」
「なにそれ」
二人は顔を見合わせて笑った。
「涼香は、どうなの。夢とかあるの?」
「夢かぁ…難しいよ。まだ高2だし」
「高校二年生もあっという間だよ。涼香には」
「そうかなー。でも、最近わかったこともあるんだよね」
「何が分かったの?」
「スズね――人のために頑張ってる人が、好き」
「……人のために?」
「うん。恋とか、まだよく分かんないけどさ」
涼香は、まっすぐ前を見て言った。
「自分のことより、誰かを優先できる人って、かっこいいなって思う」
「そんな人を支えられたら……すごく幸せなんだろうなって」
驚いた。
ずっと子供だと思ってた涼香が大人に見えた。
「……涼香らしいね。それ」
寧々は微笑む。
「すごく、素敵だと思う」
「でしょ! やっと“好きなタイプ”ってやつが分かった気がする!」
観覧車の中に、二人の笑い声が響く。
そのとき、
寧々のスマホが、小さく震えた。
「………」
「どうしたの?」
「ううん、何でもない」
画面を伏せたまま、寧々は微笑む。
その笑顔の奥に、一瞬だけ影が差したことを――
涼香は気づかなかった。
観覧車が地上に戻り、扉が開く。
夜の匂いが、二人を包み込む。
「……行こっか。もうすぐ自由時間、終わっちゃうし」
「うん!」
二人は笑い合いながら、ホテルへと戻っていく。




