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春一つ、やり直せたなら  作者: タナカ


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73/80

101回目の正直

「なんだよ。話って」



海風が、潮の匂いを運んでくる。


自由時間も終わりを迎えるころ。


ベイエリアの奥、観覧車が見える海沿いのベンチに、柊は腰を下ろしていた。



昼間の喧騒が嘘のように、辺りは静かだ。


聞こえるのは、波が砕ける音と、

時おり遠くを通り過ぎる観光客の笑い声だけ。



「柊」



ランが、低い声で切り出す。



「この修学旅行で……黒井に“真相”を聞くつもりか?」



柊は、一拍遅れて顔を上げた。



海風が髪を揺らし、

二人の間を、すり抜けていく。



「藪から棒に……“真相”って」



柊は肩をすくめた。


「ランは、黒井が“犯人”だって、もう断定してるのか?」


「いや。まだだ」



ランは首を振る。



「でも、現状の登場人物の中で、一番怪しいのは事実だ」


「……怪しい、か」



柊は小さく呟き、視線を海へ落とした。


夕陽が、水面を黄金色に揺らしている。



「お前はどう思ってる」



ランが、逃げ道を塞ぐように言う。


「黒井のことだ」


回り道はしない。

一直線に、核心を突く。




思えば――

何度もぶつかってきた。



“親友”であり、“ライバル”。



そんな古臭い言葉が、

今でも一番しっくりくる関係。



好きな女が同じで、

関係が歪んだこともあった。


それでもランは、

寧々のことを心配し、

同時に――俺のことも心配している。



(ほんと……いい男だよ。ランは)



柊は、ほんの一瞬だけ笑い、

そして、覚悟を決めた。



「俺は、半年以上、黒井と接してきた」



ランは、黙って聞く。



「その上で言う」



柊の声が、低くなる。



「犯人かどうか――迷った」



違っていたら、

取り返しがつかない。


でも、もう背を向けることはできない。



「……俺は、黒井が“犯人”だと思ってる」



「!!」



空気が、張りつめた。


ランの目が、わずかに揺れる。


まさか、断言するとは思っていなかった。



――柊は、変わった。



昔の柊守愛は、

人にも自分にも容赦がなく、

勝つためなら、どんな手でも使う男だった。


だが、高校に入ってから違う。


他人の評価を気にし、

無茶な勝負を受け、

自分より、誰かを優先するようになった。


その弱さが、嫌で。

反発もした。


友達だと思えないほど、

ぶつかったこともある。



――それでも

柊は、俺を“友達”と言ってくれる。



優しくなった。


ただし、それは甘さじゃない。



好きな女のために、

すべてを背負う覚悟を持った男の、優しさだ。



「……柊がそこまで言うなら」


ランは、ゆっくり息を吐いた。


「もう…そういうことなんだな…」


「買いかぶるな」



柊は、苦笑する。



「俺は、失敗ばっかだ」


風が吹き、

二人の影を揺らした。



「じゃあ聞く」



ランが、真正面から言う。



「どうするんだ、柊守愛」



夏木歩が問う。


この物語の“選択権”を持つ男に。


柊は、迷いのない目で答えた。



「俺は、寧々を守る」



一拍。



「でも――黒井のことも、救いたい」



ランの喉が鳴る。


言葉が、出てこない。


予想していなかったわけじゃない。


でも、その答えは――

あまりにも、危うい。



「お前……」



ランの声が低く震える。



「自分がどれだけ馬鹿なこと言ってるか、分かってんのか」


「ああ。分かってる」



即答だった。



「間違ってる。綺麗事だ。自己満足だ」


「だったら――!」


ランが声を荒げる。


「どうしてだよ!!」


堪えていた感情が、爆ぜる。



「自分を殺した奴を、どうして救おうとする!!!」



柊の胸倉を掴み、叫ぶ。


あまりにも愚かだと。

あまりにも自分勝手だと。



それでも――


「俺が、このループを終わらせる」



柊は静かに言う。

その声が、海の風に溶ける。


「そのために――」


距離ゼロ。

額が触れるほど近くで、睨み合う。


互いの呼吸が、混ざり合う。


柊は、叫んだ。



「――この物語は、俺が変える!!」



夜の海が、

その覚悟を、黙って見つめていた。


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