表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
春一つ、やり直せたなら  作者: タナカ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

57/80

柊の宣戦布告

ガラガラッ――

教室の扉が、静かに開かれた。


「………!!」


窓際で外を眺めていた橘寧々が、弾かれたように振り向く。


驚いたその瞳が、誰よりも脆く揺れていた。


──もう、誰も戻ってこない時間のはずだった。


部活動の時間。教室には自分ひとり。そう思っていたから。



「ち、違う………!!」



席を立ちながら、寧々は必死に否定する。


彼女が座っていたのは、柊守愛の席だった。


そして──涙をこぼしていた。


その姿を見た瞬間、心が、心臓が、ぎゅっと締めつけられた。


今すぐ抱きしめて、大丈夫だよって、言ってやりたかった。


……だけど、それだけじゃ意味がない。


それじゃ、根本的な解決にならない。


だから柊は、正面から告げた。



「橘さん、俺と――“長“しようよ」



椅子から立ち上がろうとした寧々に向けて、優しく問いかける。


「………!!」


寧々の目が、大きく見開かれる。


まるで、プロポーズのようだった。


時間が止まったような、静寂が教室を包む。


その中で、寧々は絞り出すように答える。


「私は、長なんてしたくない………」


「私は、もう………関わりたくない………」



柊は、なにも言わなかった。



「……そうだよね。したくないって、思うよね」


けれど、それでも聞きたいことがあった。


「ひとつ、聞いてもいい?」


柊は、ゆっくりと教卓の前へ歩き、振り返って尋ねる。



「橘さんは――将来、何になりたい?」



寧々の目から、再び涙が零れる。


彼女にとって、柊と”未来”の話なんて──苦しすぎるに決まってる。


それでも柊は、逃げなかった。


死に、未来に、彼女自身に。


そして“世界”に向かって、真正面から、宣戦布告するように。



「私は………私は、分からない………」


その声は、今にも消え入りそうだった。



「そっか。俺は………俺の夢は――」



柊は黒板に向かい、チョークを握る。

そして、その夢を、でかでかと書きなぐった。


まるで世界に”見ておけよ“、と喧嘩を吹っかけるみたいに。



「――これが、俺の夢」



振り返ると、寧々は床に座り込んで、うずくまって泣いていた。


「な……なんで……それって………」


その嗚咽混じりの声に、柊は静かに答える。。



「………今度こそ、俺はなるよ」



――橘寧々が、何回春をやり直しているのか知らない。


それでも、今回は違う。


今回は、俺もやり直している。


俺と寧々が組んだら――無敵なんだよ。



「……うん。分かった。私も“長“する」



柊は、泣きじゃくる寧々が落ち着くまで待ってから、部活に向かった。



──残された教室で、ひとり。


彼女は黒板へ歩み寄り、柊が書いた夢の文字を優しくなぞる。


そして、その横に、小さな文字で書き足す。



「私の夢はね――」



この想いが届くのか分からない。

でも、一人で抗うより、二人で抗えば何かが変わるかもしれない。


そんな淡い希望を、そっと胸に灯す。



だけど“世界”は、そんな“二人“に試練を与える。




「ここが、あの子のいる学校か………」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ