新しい”長”
「お前ら、席につけ」
騒がしい教室に入ってきたのは、担任教師・わかばちゃんだった。
知らない生徒が見れば威圧的な登場に見えるかもしれないが、一年を共に過ごした者にとっては親しみのある“最初の演出”だった。
「あっつ、わかばちゃん担任とか」
「さいこう!」
教室のテンションがさらに上がる。
「私が好きなのは分かったから、席につけ。今すぐ黙らないとトイレ掃除させるぞ」
「怖すぎだろ」
急に”厳しいおばあちゃん”ムーブしてきた為、皆大人しく席に戻る。
「さて、今日は新クラスの顔合わせだ」
「二年一組担任の若林だ。“わかばちゃん”なんてふざけた呼び方した奴は、推薦が消えると思え」
「「ええ………」」
毎年恒例わかばちゃんの“最初のジャブ”。
まだツッコミ役がいないんだから怖ぇよ………
「冗談はさておき――二年生は、修学旅行や部活動、受験も見えてくる」
教師が創る空気が、クラスを決める。
そして、それを特別うまくやるのが、この人だ。
「多くのイベントがある中、自分の進路を決めていかないといけない」
「今までは、親や友達、兄弟が道を示してくれたかもしれない。でも、これから大人になるお前らは、“道を示す側”になる」
「時には、前が見えなくなる。道がないように感じることもある」
「忘れないでほしいのが、“道“は無数にある」
「目の前だけじゃなくて、後ろや斜め前。少し戻って左にだってあるかもしれない」
「その無数にある道を選ぶのが“人生“だ。そしてその選択が正解だったかなんて、数十年経たなきゃわからない」
「だから――わからない“正解”のために、自分を傷つけるな」
「大いに悩め、大いに泣け。その数だけ、道が見えてくる」
「困ったら周りを頼れ。“道を示す人“だって、人を頼ってはいけないなんてことはない」
「大人ってのは、今までに関わった人の数だけ優しくなれるんだ」
「人を助けられる大人になれお前ら」
「正解だったかどうかは――いつか、飲みの席で話してくれ」
静まり返るクラス。
高校二年という時間が、未来にどれほどの影響を与えるかを――今、少しだけ理解した。
俺の社会人時代のロールモデルは、この人だった。
(あの時、あの言葉があったから。俺は……)
つくづくこの人は、“問う”のがうまい。
大人になったことのある俺の心は、今、ひどく揺れている。
――寧々は、どんな気持ちでこの話を聞いているんだろう。
体育祭のあの日、世界の真実を知った。
それからずっと、俺は彼女との距離を取ってきた。
関わらないようにしていたはずなのに。
どんなときも、考えてしまう。
寧々は、何をしていて、何を考えているのか。
――俺に、何ができるのか。
――
「よし、良い話したし、気持ちが良い。帰ろうかな」
「「おいっ!」」
「嘘に決まってるだろ。今日は初日だが、“長”を決めないといけない」
ああ、そうだった。新しいクラスになったからには長が変わらないといけない。
まぁもう俺には関係のない話だ。
「立候補はいるか?」
「………」
「………」
あれ、これ――良くない流れだな。
俺は、この人の性格を知っている。
わかばちゃんは、“ぐだる”のが嫌いだ。
そして、そうなると………
「なんだ、お前ら。決まらないと修学旅行には行けないぞ」
「よし、めんどいし適当に決めるぞ」
おいおい………ふざけんな………
「柊、お前やれ」
「言うと思った………」
「直々の指名だ。がんばれ」
「もう一人は……そうだな………」
――頼む、それだけはやめてくれよ
「橘、不真面目な柊を支えてくれ」
「えっ………」
こいつ………人の気持ちも知らないで………
そんなこんなで、寧々と“二人で長”をすることになってしまった。
前回は願ってもなれなかった同じクラス。そして一緒に長をするという青春イベント。
だが、今回は違う。
きまずい――なんてレベルを超えている。
………マジでどうしよう。




