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春一つ、やり直せたなら  作者: タナカ


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灰色の真実


夕焼けが、校舎を茜色に染めていた。


太陽は、ゆっくりと地平線の向こうへ沈んでいく。


グラウンドには、まだ体育祭の余韻が色濃く残っていた。


片付けをする生徒たちの笑い声。今日の出来事を振り返る歓声。

そのすべてが、終わりゆく一日を惜しんでいるようだった。



――体育祭が終わった。



高校時代、たった三度だけ訪れる青春の祭典。


走り、叫び、笑い合い、燃え尽きるまでぶつかり合える、年に一度の特別な日。


だが、その裏には――もう一つのドラマがある。


男なら誰しも、どこかで夢見る。



「好きな子」をめぐる、決闘。



欲しいものを奪い合い、勝った者が手に入れる。


そんな、弱肉強食の“青春”という名の幻想。


まだ人生を、学校という狭い檻の中でしか知らない若者たちは、つい思ってしまうだろう。


「ここで負けたら、すべてが終わってしまう」と。


「この人以外、考えられない」と。


――そんな閉ざされた思考に、必死にしがみついて。



ここにも、齢15歳にして“人生”の輪郭を探ろうとしている男がいた。



「…俺は、結局何も守れなかったな」


誰に聞かせるでもない、夏木歩の独白。


「好きな女の邪魔をして…親友を裏切って……」


「“失恋“つれぇなぁ……」


空っぽの笑い声が、夕焼けに溶けていく。


「好きになって…諦めなきゃいけないって……こんなにも………苦しいもんなんだなぁ………」


そして、その痛みを知った。


ほんの少しだけ。


ほんのわずかに――


あの時の、橘寧々の“選択”を理解できた気がした。



――人生をやり直してでも、守ろうとした“想い”を。



その一端に、指先だけ触れられた気がした。


だが、その直後。

胸の奥に、奇妙な違和感が、じわりと芽を出す。



(あれ……?)



あの時聞いた、“未来“とか”殺される“なんて突拍子もない言葉が、そう感じさせなかった。


“恋”を知ったからだろうか。


誰かを想うということが、こんなにも苦しくて、切実で、どうしようもないものだと知ってしまったから。


ランは考えてしまった。



「橘寧々は………飲み込みが早すぎないか?」



野外学習で秘密を共有したあの日。


夏祭りの夜、真実を告げられたあの瞬間。



彼女は、迷わなかった。

苦しみながらも、即座に“答え”を出した。


――柊を救うため、“嫌われる道”を選ぶという答えを。


そのために、“長”を引き受けて、

悪役を演じて、

そして俺を……“応援”した。


あいつを好きな気持ちを押し殺してまで――。



(あれって……人間がすぐに選べることなのか?)



理解し、受け入れ、行動に移す。

まるで、それが最初から分かっていたように。


ハッとする。

まさか、と思っていた“仮説”が、現実の輪郭を持ち始める。



「……え、まさか橘さんって……」



言葉が、でない。


でも、頭の中では――最悪の可能性が、静かに形になりつつあった。


それがもし本当なら。

もう“悲劇”とかいう言葉では済まされない。


一度、いや何度も――

心が壊れていても、おかしくない。


いや、もしかしたら――



”もう、壊れているのかもしれない”



寧々が背負った“選択”の重さを思うと、胸が痛む。


彼女は、ただ柊を救いたかった。

それだけだったのに。


「……ごめん、橘さん……」


声が震える。


「応援したくもない男を、応援させて……」


「そして――今から俺がすることを、許さなくていい」


「でも、それでも俺は……“変化”を起こさなきゃいけない」


「このままじゃ、また……同じ悲劇が繰り返される」



夕焼けのグラウンドで、ランは迷いなく一歩を踏み出す。



「俺は、あの人の“ヒーロー“になるって、約束したんだよ」


そう呟き、赤く染まる空を背に、校舎へと駆け出す。


――たった一人の男に会うために。


“未来”を変えるための、大切な“言葉”を届けるために。


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