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変わり始めた高校生活


先輩とひと悶着あった後、ランとハンバーガー屋で軽く時間をつぶし、用事があり別々に帰った。



「珍しいね柊から誘うなんてて、それで話ってなに?」



俺は、付き合っているらしい女の子に会うため、公園に呼びだした。


ぶっちゃけ、付き合ってた記憶もなければ、相手のこともほとんど覚えていない。


本当クソ野郎だ。



「急に呼び出してごめん。……大事な話があるんだ。

 高校で、好きな人ができた。だから、別れてほしい」



言葉は、間髪入れずに出た。


できるだけ早く、できるだけ浅く。彼女が俺を忘れやすくなるように。



「あ……そっか。でも、好きな人ができたら別れるって、約束だったもんね……」


「柊と付き合えて、楽しかったよ。もっと……いたかった。……ごめんね、泣いたりして。うざいよね」


「ううん、そんなことないよ。全部俺の勝手だから」


「柊が誰かを好きになるなんて、珍しいね。本気……なんだ?」



彼女——斎藤は、涙を拭いながら、それでも笑おうとしていた。


気まずくしたくないから。笑顔を作れる、優しい子だ。


その強さに、感心した。同時に、胸が痛んだ。




「そうだね。……俺の人生で一番、好きな子になると思う。誰にも奪われたくないんだ」


「……人生で一番、か。すごいね、それ言えるの」


「これからの人生は長いけど、それでも全部かけて、あの子を大事にしたいって思える。

 俺、負けず嫌いなんだ。過去の自分にも」


少しだけ高校の話をして、それから彼女と別れた。



もう、俺のせいで泣かせる女の子は出さないと、心の中で誓った。





次の日の学校。


「いや、ドンパチはしてない。ちょっとだけ……脚色がすごいな。間違えて、自転車で轢いちゃっただけ」


「それ、間違えたって言えるレベル……?」


学校に着くと、俺の愛車・マウンテンバイク“マット君”が先輩を轢いた件がちょっとした話題になっていた。



「入学早々、ヤンキースタイルで登場した奴がいる」



そんな風に言われてるらしい。俺はもう、ただの危険人物扱い。



先生たちには、助けた女子が事情を説明してくれて、注意だけで済んだけど……


周囲の目は冷たい。



「ほら、あれが例の――」

「最悪……ヤンキーと同じクラスとか……」


印象は絶賛、地の底へまっしぐら。


そんな中でも普通に話してくれる古谷、マジで神。


「おらお前らー、朝の時間を始めるぞー今日は”長”決めだ」


荒々しく教室に入ってきたのは、担任の若林先生。





この学校、青城学校はちょっと変わっている。


県内でも有数の進学校だからこそ、生徒の自主性を尊重しすぎているくらいだ。



“学級長”――通称“おさ”は、二人一組で選ばれるリーダーだ。



この“長”には、クラス運営のほか、体育祭や文化祭での特別な権限がある。


有能な“長”がいるクラスは、イベントの勝率が高く、クラスの団結力も強まる。



さらに、三年生のときの特別行事「祭」では、各クラスの“長”が競い合い、優勝すれば学校の金で超高級立食パーティーとダンスパーティーに招待される。


このダンスには、“恋が実る”というジンクスがあるから、逆転を狙う男女の本気度はすさまじい。


だから、一年次の“長”選びも、実はすごく重要なイベントなのだ。




でも――


俺は参加しないつもりだった。



前の人生では、1・2年で“長”をやり、3年はランに譲った。


同じクラスになったとたん、ランが今まで見たことない真剣な顔で「頼む」と言ってきたからだ。



今回の人生では、三年生の時に長を行おうと考えている。


前と同じ流れでは、結末も同じになるかもしれない。


少しでも未来を変えるため、違う道を選ぶ。それは、ある意味“実験”だった。


実際、昨日の古谷との会話がきっかけだったのか、前回の人生では、先輩の絡みには遭遇しなかった。



違う行動が、違う未来を引き寄せるかもしれない。




そう信じたかった。




“長”決めは思ったより難航し、翌日に持ち越されることになった。




帰り支度をしていた時。


「柊君、昨日はありがとう。あと変な噂がたってて………ごめんね。みんなには私から話しておくから」


声をかけてきたのは、昨日助けた女の子だった。


「ああ、昨日の子だよな。……変な助け方してごめん。大丈夫だった?」


「うん、大丈夫。それより、よかったら“涼香”って呼んで。知り合いが誰もいなくて不安だったから……同じクラスで嬉しい!」



――涼香?



まさか、あの“スズカ”か?



黒髪で、化粧してないとこんな幼く見えるんだな……


驚きすぎて、しばらく固まってしまった。



「……大丈夫?」



「ご、ごめん。知り合いに似ててびっくりしてた。

 ……俺、柊 守愛で“モア”って言うんだけど、その名前あんまり好きじゃない。柊って呼んでくれ」



「わかった!柊。ねぇ、長はやらないの?得意そうなのに」



「いや、三年生になったらやるつもりだけど、今はいいかな」


「そっかー……このクラス、他の人もしなさそうだよね」


「ぐだってたな。涼香はやらないのか?」


「スズはいいや。……でも寧々は、“やろうかな”って言ってたよ?」



――ガタンッ。



椅子に座ってるのを忘れて、思わず勢いよく立ち上がった。机に足がぶつかって、鈍い音が鳴る。


「痛っ……じゃなくて、寧々が“長”をやるのか!?」


「う、うん。柊の友達の“ラン”って子と一緒にやるつもりみたい……」



嘘だろ。


あの寧々が人前に立つタイプとは思えない。


しかも、俺が寧々を好きだって知ってるくせに、ランの奴は……意味がわからん。



これは話を聞かないとな…………




――

「おい。長をあの子と組むって、どういうつもりだ」


 

放課後の廊下。

歩いていたランの背中に、思わず声をぶつけた。


 

「お、開口一番それか。……情報回るの早えな、お前」 


振り返ったランは、どこか楽しげに肩をすくめた。


「柊が“長”はやらないって言ってたろ? じゃあ、やりたくなるように仕掛けてみただけ。橘さんに“やってみない?”って声かけたら、意外とノリ気でさ。面白くなってきたと思わない?」 


「――俺はな。柊と、戦いたいんだよ」



すれ違いざま、睨むように言った。


でも――ランは一歩も引かなかった。目を細めて、ただ俺を見ていた。


その目が、悔しかった。悔しくて、どうしようもなかった。


 


「くそっ……! 仲良くすんなよ、カス!」




――言い捨てたセリフが、人生史上最高にダサかった。



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