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春一つ、やり直せたなら  作者: タナカ


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想い蔓延る夏の場所


「クラス毎に、位置についてください!」


生徒会の号令がマイク越しに響き渡る。


ざわついていたグラウンドが、一斉に静まった。


開会式直前、体操着に身を包んだ生徒たちは、整列の列に並ぶ。


太陽が頭上で照りつけ、まるでこの日を歓迎するかのように空は真っ青だった。


応援団の掛け声、拍手、笑い声――。


その全部が、風に溶けて、夏の匂いと一緒に空へ昇っていく。


柊は自分の列の中に立ちながら、そっと空を見上げた。


淡く透き通った青空に、誰かが放ったカラフルな風船が浮かんでいくのが見える。


(さあ、来いよ。ラン)


握った拳に、自然と力がこもる。


(今だけは、ただの“ライバル”でいさせてくれ)


司会の開会の言葉が響いた。


太鼓の音がグラウンドに鳴り響き、鼓膜と心臓を同時に震わせた。

 




                   ――体育祭、開幕――。  



応援旗が翻り、歓声が空へと吸い込まれていく。


熱く、眩しく、そして青春のすべてがぶつかる舞台が、今、幕を開けた。




――眩しすぎる青春の顔を、まるで別の世界のように眺める者がいた。


みんなの瞳に、自分の影が映るようで、目を逸らした。


橘寧々は、列の後方――誰よりも静かな場所に立っていた。



柊守愛と夏木歩が、騎馬戦で戦う。


他の生徒にとっては、青春の象徴のようなイベントだ。


親友同士の熱い勝負として、鮮やかな記憶になるだろう。



――でも、私には違う。

救いたいと願った人。心から愛していた人。


そして、この世界で唯一の「仲間」


その二人が、ぶつかり合う。



―――

柊守愛は、私のことを知らなくていい。


もう一度、好きにならなくていい。


ただ――自分の人生を、自分の足で、歩いてほしい。



その道の途中には、きっと夏木歩が必要なんだ。


 

だから私は、いなくなってもいい。


それが、私が春をやり直した理由。


なのに──




寧々の横顔を、夏木歩がそっと見る。


あの夜から、一言も言葉を交わしていない。


彼女にかける言葉が、どうしても見つからなかった。


自分の気持ちと、彼女への償いの狭間で、ただ、立ち尽くしていた。


整列中、ふと視界に映った橘寧々の表情は、どこまでも沈んでいて、痛いほど胸に刺さる。



今日ここで、負のループを終わらせる。


「”そんな顔は、もうさせない”」




―――

教員から、当日の注意事項と競技内容のおさらいが始まった。


午前中にあるのは、玉入れや綱引きといった、スポーツがあまり得意じゃない生徒でも輝ける種目たち。


レースや騎馬戦は、午後の目玉だ。


昼休憩をはさみ、いよいよ本番。


だからクラスでは、昼ご飯を全員で集まって食べながら、作戦の最終確認をする、と事前に決めていた。


その時間までは、応援に徹して、目いっぱいこの日を楽しむ――それが、柊の方針だった。



――叫び声と笑い声が交差し、汗と砂埃がグラウンドに舞う。


「行けぇぇぇ!!」

「がんばれぇ!!」


全力で声を張り上げて、ただ夢中で応援して。


あっという間に午前が終わり、昼休憩がやってきた。



教室に戻ると、井上と石川――俺以外の騎手二人が、早速話しかけてきた。



「んで、柊。作戦は本当にあれでいくのか?」



下の馬も含め、俺たち三人は運動部で固めた精鋭編成。


これまでの練習は、すべてその“策”に合わせて積んできた。


それでも本番前になると、どうしても不安がよぎるらしい。



「ああ、あれでいく。なに、緊張してんの?」


「してねぇよ。ただ……」



「ただ?」



「「女子に良いところを見せるため、絶対に勝ちたい」」



「お、おう………絶対勝つために、がんばろうな……」



かっこいい顔して何言ってんだよ……とは思うが、緊張は上手くほぐれているみたいで安心した。



「でも本当に、柊が()()()()()()()になるのか?」



「なる。間違いなく俺の読み通りの展開に」


即答だった。


「そこまで言い切れるならいいけど………読み外れたら、一瞬で終わるぞ?」


「まぁな。そうなったら……打ち上げで、涼香の隣、お前に譲ってやるよ」


「「本当か!!!」」



おい、負けるのもアリって顔すんな。



「ただし、読みが当たって普通に負けたら、今の話はなしな」


「「ああ、絶対に勝つ!良いところも見せつつ、隣に座る」」



(馬鹿だなぁこいつら。勝った時の事は、何にも約束してないのに)



二人には悪いが、俺は――勝って、涼香の席は、できるだけ遠くに設定するつもりだ。



そのためにも、絶対に負けられない。


そんなことを思っていたら、昼休憩の終わりを告げるチャイムが鳴った。



「よし、お前ら。勝って美味い肉、食おうぜ」



肩をぽんと叩き、教室のドアを開けて、歩き出す。



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