話題をさらうクラス
「柊、本当に勝てるの?」
長会議が終わり、その日の夜だった。
“電話がしたい”とメッセージが来たと思えば、繋がった瞬間にこれだ。
「なに不安になってんだよ。前にも言っただろ、俺は勝つよ」
「でも、もし負けたら………」
涼香の声からにじむ不安は、携帯越しにもよく伝わった。
それは、彼女自身の心配ではない。柊でも、夏木でもなく――たぶん、寧々の事を想っての不安。
だからこそ、安心させたかった。
「寧々を笑顔にするのは、俺だよ」
清々しほどに、まっすぐに。
言葉に迷いはない。
でも――内心では、ほんの少し震えていた。
「………分かった、信じる。スズができることはなんでもする」
「今回ばかりは涼香にできることは何もない」
野外学習の時とは違う。男子同士の戦いに女子が混ぜれない。
だからこそ、ハッキリと伝える必要があった。
――
「でも、一つだけ頼みたいことがある」
「……え! なになに!」
「寧々には、何もプレッシャーを与えないでほしい」
「プレッシャー……?」
「たかが高校一年生の体育祭だよ。
寧々に“自分のせいで喧嘩してる”なんて思ってほしくない」
「だから、ただの男と男の戦い。寧々は“関係ない“と思っていてほしい」
少し沈黙が流れたあと、涼香が息を吐いたように笑った。
「………そういうことね! 任せて! いつも通りクラスを応援する感じでいればいいんだね」
「そうだ。よくわかってくれた」
「えっへん!」
電話越しでも、胸を張っている涼香の姿が浮かんできて、自然と笑みがこぼれた。
「涼香も、体育祭楽しめよ」
「うん! 華のJKだもん!楽しまなきゃ損でしょ~!」
最後にいつもの涼香の声を聞いて、ようやく柊は電話を切ることができた。
――
静まり返った部屋に戻ると、再び一人になる。
柊はベッドに腰かけ、ネックレスをいじりながら、作戦を練り直していた。
だがその思考の隙間に、不安が忍び込んでくる。
あいつは、吹っ切れた。だからこそ怖い。
変な駆け引きなんて通じない気がして、胸の奥がざらついた。
でも、不安を抱えていても仕方がない。
天井を見上げ、息を吐き、心を落ち着ける。
「俺には――費やした経験と、前回の記憶がある」
「慢心せず、完膚なきまでに倒す」
その言葉は、自分自身への誓いだった。
ぎゅっと握りしめたネックレスの温もりだけが、胸の奥に宿る決意を確かなものにしてくれる気がした。
―――
――そして、体育祭前日――
「てか、噂ほんとだったな」
「んね、まさかクラスリレーしないとは」
「でも、男としてはこっちのほうが燃えるよな」
放課後、部活へ向かう生徒たちのあいだで、話題は明日の体育祭一色だった
「まさかね―――」
「「“騎馬戦”が競技になるとは」」
偶然か、はたまた興奮の連鎖か。
言葉を重ねた瞬間、空気が一段と熱を帯びる。
「偶数クラスvs奇数クラスっていうのも、うまく分けたよな」
「まあ、初戦が実質、決勝戦って感じだけどな」
「柊率いる野球部&サッカー部の最強連合 vs 夏木率いる強面ギャング軍団」
「おもしれぇよな絶対これ」
「どっちが勝つと思う?」
注目を集めていたのは、間違いなく一組対二組だった。
スポーツ万能な柊・夏木と、それを支える個性豊かなクラスメイト。
どちらが勝つのか、話題は尽きなかった。
――ルール――
1 チームは4人1組。上に乗る「騎手」と、3人の「馬」。
2 1クラス3チームまで出場可能。
3 騎手(長)を倒せば、2ポイント、他は1ポイント。
4 制限時間5分を過ぎて、引き分け時は「長vs長」の一騎打ち
(馬は1人、10歩制限)
5 勝利条件は、ハチマキを取る or 地面に足がつけば負け。




