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春一つ、やり直せたなら  作者: タナカ


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34/80

声に出すことができない響き


花火が打ち上がるまで、あと二時間。


徐々に世界を照らしていた黄色の光が、ゆっくりと赤色の夕焼けに変わっていく。


屋台の灯りがぽつぽつと灯り、風に乗って甘いソースと綿あめの匂いが鼻をくすぐる。


「そろそろ動き回るか?」


「そーだな。暑さにも慣れてきたし」


携帯を触りすぎて暇になっていたところでもあり、

俺たちはマイテリトリーとしていた日陰から腰を上げた。


とはいえ、男二人でできることなんてたかが知れてる。


「ヨーヨーとかやってもなー。……あ、あれやろうぜ」


ランが指さしたのは、ストラックアウトだった。


ビンゴカードのような数字が並ぶボードに、ボールを投げて的を当てるアレだ。


「当たるわけないじゃん」


「当てれるだろ、あんなん」


そう自信満々に言うランは、肩まで袖を捲った完全な部活動スタイル。

気合いだけは十分だった。


――結果は……………


「あんなもんだろ、サッカー部だし俺ら」


「うるせぇ、いけると思ったんだよフルビンゴ…」


欲を出しすぎたランは、真ん中以外を狙い見事、ノービンゴ。

参加賞として撃つと花が飛び出るビックリエアガンだった。


「どうすんのそれ」


「どーしよな。一回撃ったら花戻せないし、人生残弾数一発とかエアガンとして致命的じゃん」


完全に荷物となったエアガンを手に、ブツブツ言うランを見て思わず吹き出す。


「うぜーーーー、お前もやれよ!」


「俺はやんねーよ。………あ、」


俺が足を止めたのは、アクセサリー屋だった。


「お前だけシンプルプレゼント買うのずるくね? 当ててこそ男だろ」


「ばーか。誰がエアガン貰って嬉しいんだよ」


「これください」


俺が選んだのは、桜の花びらを模した小さなトップがついたネックレス。


華やかさとシンプルさが同居する、大人っぽいデザインだった。


「相場はハートだろ」


「……ネタにされるぞ」


本気でそう思ってたのか。

さすがにちょっと引いた。


──このくらいなら、ただの友達にも渡せる。


心のどこかに残っていた桜のイメージに、俺自身も少し驚いていた。


「てか、夏休み明けの体育祭、長なんかすんの?」


気恥ずかしくなったのか全然違うことを聞いてきた。


「長は、学年競技決めるって。わかばちゃん言ってたぞ」


「学年競技って、一年生同士で戦う何かを決めるやつか」


「そう。ま、通年リレーとか安パイなものになるけどな」


「ふ~ん。柊と戦えるならなんでもいいけどな。ボクシングとかするか?」


「しねーよ。それはクラス対抗リレーでいいだろ」


「それでいいか。何番に走るか言えよ」


「おけおけ」



──その時だった。

人混みの向こうから、見覚えのある二人の浴衣姿が現れた。


「おーい、柊ー!」


弾けるような声が、ざわめく人波の向こうから届いた。


にぎやかな屋台の灯りを背にして、

ひらひらと手を振るのは、赤い浴衣の涼香だった。


その隣に――いた。


白と淡い水色が溶け合う、花のような浴衣。

夏の光を柔らかく反射して、そこに立っていた。


橘寧々。


髪はやや巻かれていて、艶のある黒が首筋をそっと撫でている。


ゆっくりと視線を上げ、柊のほうを見ようとして、

けれど見られず、目をそらす。


人混みのなかで、それでも目立つ美しさが、

胸の奥をぎゅっと締めつけた。


「「え?」」


思わず、俺とラン、同時に声が漏れた。


まさかこんな形で会うとは思ってなかった。予想外すぎて、キョトンとする。


「二人とも同じ顔しててウケル。 てか、浴衣似合ってるね!!」


開口一番、二人の浴衣姿を褒めてくるコミュ力モンスターに圧倒される。


「やあ、二人とも浴衣似合ってるね」


先ほどとはうって変わって、急にエリート面でキメるラン。


「そうでしょ!! もちろんスズも似合ってるけど、このお方は絶品です」


涼香が寧々の方を両手でヒラヒラ指し示す。


「絶品て………」

「橘さんも浴衣で来るとは思わなかった」


「まあ…涼香が着よっていうから…」


寧々は一歩引いたように困ったように笑って、視線を泳がせた。


――その笑顔が、どこか苦しそうだった。


(ああ、やっぱり…)


かつて、恋人としてこの祭りを歩いた彼女にとって、

今のこの場は、きっと苦しさと懐かしさが入り混じる場所だ。


「てか、いつまで固まってんの。柊」


え? の時から微動だにしない柊を見て、不思議がる。


「多分………世界がここで終了したんでしょ」


「あ~終了しちゃったか。もったいない、こっから花火大会なのに」


「終了してるこいつ置いて行こっか、三人で」


「おい、勝手に行くな。後、終了してないわ!」


からかわれて、ようやく我に返る。


「ま、まあ…そうだな。二人とも似合ってるな」


「え?何が」


にやにやと追撃してくる涼香。


「浴衣だわ…」


「浴衣を着た、誰が?」


「ね… うるせぇな………」


名前を言うには、まだ距離が近くない。


“友達”でも、“他人”でもない、その狭間。口に出すにはちょっと、勇気が足りなかった。


「まあ、せっかくだし四人で回ろうよ!」


「え、いや………二人に悪いし!」


寧々が戸惑う声を出す。


けれど――


「俺はいいよ」


さっきまでおどおどしてたくせに、良い提案には即乗る柊。



──こうして、四人で夏祭りを回ることになった。

未来で好きな人を失い、その距離をあえて取っている寧々。


それを知っているランは、心の中で少しだけ困っていた。


(……あんま応援しづれぇ)


けれど、それでも。

この夜を、どうにか楽しいものにするために、立ち回る覚悟を決めた。


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