そのフレームの先には
「くっそ、あっちいな……」
炎天下の部室で、制服の上を乱暴に脱ぎ捨てながら柊がうめく。
「あ~雨降んねーかな~」
先に到着し、すでに練習着に着替えていたランは、ベンチにもたれたまま、だらりと腕を垂らして天井を仰ぐ。
その目は完全にやる気を失っていた。
「来週の練習試合って、この学校?」
「そうだー。しかも、結構強いとこらしーぞー」
口数も少なく、ダラけたテンポでの会話。
それも無理はない。
肌を刺すような日差しと、気温と湿度の暴力。そんな中でこれからサッカーをするというのだ。
「どうなってもしらないぞ」と部活動生全員が自棄気味に登校してきた。
だが――
ひとたび練習が始まれば、熱気に火がついたかのように、皆スイッチが入る。
誰もが負けるのが嫌いだった。
汗を飛ばしながら走る。叫ぶ。蹴る。
「好きなことに本気になれる」って、こういうことだ。
今しかない瞬間を逃さないように、命削って楽しむ。
――
「だぁーーーーー死ぬーーーー!」
休憩中、グラウンドの隅で叫び声が上がる。
蛇口のぬるい水を浴びる者。
日陰で地面に寝転ぶ者。
みんなそれぞれの方法で、必死に体を冷やしていた。
そんな中。
体育館と校舎をつなぐ通路の陰、ほんの一等地の涼しさの中、ランはひとり、息を整えていた。
ふと横目に視線をやると――
物陰からグラウンドを覗き込む、ひとつの影があった。
風に揺れる、黒髪のポニーテール。
陽射しに透ける白い首筋。
その目は、柊たちの練習していた場所を、じっと見つめていた。
「……なに、してんの。橘さん…」
「え……、あ、えっと…。 今日も暑いね!!」
汗ばんだ額。首元。
その様子から察するに、けっこうな時間、ここにいたらしい。
「暑いね…。 ところで、そのカメラは?」
彼女の首からぶら下がっていたのは、黒くて立派な一眼レフだった。
「えっ? えーっと、空でも撮ろうかなって。いい天気だし」
「ふーん、空の写真ね。だったらさ、屋上とかのほうが見晴らし良いんじゃない?」
そう言いつつ、先ほどの視線の先を思い出して、内心くすりと笑う。
彼女の目が向いていたのは――間違いなく、柊だった。
「そ、そうね…。 屋上に行こうかしら!」
「ま、この学校の屋上、入れないけどね」
「……あなたって人は……」
バツの悪そうな顔をしながら、橘はため息をついた。
けれど、その表情にはどこか、恥ずかしさを隠す甘い匂いがした。
まるで、誰かに気持ちを悟られた中学生のようだった。
「ほんとに、未来から来たの?
屋上入れないじゃん、この学校」
根本的な事に気づかない橘に、未来から来たのか不安になるラン。
「うるさいわね……。少し焦っただけだわ」
「ていうか、早く部活戻りなさいよ」
「そうだね。戻らないと。
てか、来週、ここで練習試合だからみな来なよ」
「ええ、予定表に書いてあったわね。
空いていたら行くわ」
「めっちゃ把握してるし、見に行く気満々じゃん……」
「う、うるさい!!」
「ま、柊は16番だから、しっかりと見ておきなよ」
ランは意味ありげな笑みを浮かべて、軽く手を振りながらグラウンドへ戻っていった。
「知ってるわよ!!」
その背中に向かって、橘は精いっぱいの声を投げる。
その声は、グラウンドの熱風にかき消されながらも、どこか嬉しそうに響いていた。
これから待ち受けている夏の季節。
先に夏の匂いが感じられるような話が続きます。
暑い夏は嫌ですが、少しでも良かったと思えるような夏を。




