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春一つ、やり直せたなら  作者: タナカ


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24/87

それぞれの自由時間


「わかばちゃん、助かるよこれ」


俺は広場の中央に置かれた三つの簡易プールを指さした。


「まあな、柊がこれを提案してなかったら、止めるつもりだったよ。“危険だから”ってな」


「一つはリスクヘッジ用。残りの二つは……まあ、ちょっとした遊び心ってとこかな」


「……ビール入れてもいいか?」


「いいわけ、ないだろ……」


ため息まじりに返すと、彼女はケラケラと笑った。


「ほら、みてみな。続々と人が集まってきたぞ」


そういって広場の入り口をあごで指す。

主に一組と、園田さんのクラス五組と、誘ってほしいとお願いしておいた四組の生徒もチラホラ見える。

後はシンプルに広場でくっちゃべろうとしている人たちもいる。


「想像より来てくれたな」


「これ、本当に盛り上げられるのか? 柊」


試すような目線でこっちを見てくる。

背の高いわかばちゃんとは肩を並べて話すことが多いが、この時は上から見られているように感じた。


「わかんね。でも、楽しい思い出にはしてほしいと思ってる。一生に一度だし」


「いいことをいうじゃないか。でもな、あんまり気負いすぎんなよ。お前も、まだ“楽しむ側”の子供なんだからさ」


そう言って、わかばちゃんは俺の頭をガシガシと撫でた。

こんなふうに誰かに触れられたのは、いつ以来だろう。

少しの間、その手の温もりに浸ってしまったけれど、なんだか気恥ずかしくなって、そっと彼女の手を振り払った。


「大丈夫。お前なら、みんなの“楽しかった夏”になれるよ」


と、ヒラヒラ片手を振りながら、その場を後にするわかばちゃん。


「じゃ私は端のほうでしっぽり飲んでるわ」


「飲むなよ……え、飲むなよ!?」


笑って冗談だと思ったが、わかばちゃんの顔が本気だったので、慌てて止めた。




広場に着くまでの間に、涼香にはラインを送っておいた。これで、全ての準備は整った。


俺は小さく深呼吸をして、ぽつぽつと広場に集まってきた生徒たちの方へと歩き出す。


「       よーし盛り上げていきますか!!    」



だんだんと広場の中央に集まりだす生徒たち。

その視線は、真ん中にぽつんと置かれた三つのプールに向けられていた。

「なにあれ?」


「飲み物とか入ってるよ?」


「でも二つは水だけだよ?」


ざわつく声。少しずつ、空気が温まりはじめていた。


「柊!五組と四組、ちゃんと誘っといたよ!」


園田さんが、軽く走り寄ってきて声をかけてくれる。


「ああ助かる。園田さんのおかげで、なんだか人気スポットみたいだ」


「ううん!涼香ちゃんも頑張ってくれてたし!

それで何をするの??みんなもそこすっごく気になってたよ」


「まあ見ていてよ」


俺は荷物の中から、野外学習でやけに多かった“理由”を、一つずつ取り出していった。


「え?これって……?」


驚く声があがる。


「そう――花火だよ。

 キャンプファイヤーはできないけど、みんなで手持ち花火をしたら面白いかなって」


「え!?めっちゃいいじゃん!!」


歓声が広がる。夜の花火、それは高校生にとって、とびきりのご褒美みたいなものだ。


「あ、火を使うから、二つのプールは消火用なのか!」


「……と思うじゃん? 違うよ。一つは火消し用、もう一つは――これ!」


俺が取り出したのは、昼の自由時間に涼香達が作っていた水鉄砲。


「水鉄砲も!?」


湧き上がるどよめき。熱を帯び始めた空気の中、俺は立ち上がり、腕を大きく広げて、声を張り上げた。


「名付けて――

花火水鉄砲祭りだ!!!」


その瞬間、広場に笑い声と歓声が混ざり合い、ほんの一瞬、世界がきらきらと揺らめいたような気がした。


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