それぞれの自由時間
「わかばちゃん、助かるよこれ」
俺は広場の中央に置かれた三つの簡易プールを指さした。
「まあな、柊がこれを提案してなかったら、止めるつもりだったよ。“危険だから”ってな」
「一つはリスクヘッジ用。残りの二つは……まあ、ちょっとした遊び心ってとこかな」
「……ビール入れてもいいか?」
「いいわけ、ないだろ……」
ため息まじりに返すと、彼女はケラケラと笑った。
「ほら、みてみな。続々と人が集まってきたぞ」
そういって広場の入り口をあごで指す。
主に一組と、園田さんのクラス五組と、誘ってほしいとお願いしておいた四組の生徒もチラホラ見える。
後はシンプルに広場でくっちゃべろうとしている人たちもいる。
「想像より来てくれたな」
「これ、本当に盛り上げられるのか? 柊」
試すような目線でこっちを見てくる。
背の高いわかばちゃんとは肩を並べて話すことが多いが、この時は上から見られているように感じた。
「わかんね。でも、楽しい思い出にはしてほしいと思ってる。一生に一度だし」
「いいことをいうじゃないか。でもな、あんまり気負いすぎんなよ。お前も、まだ“楽しむ側”の子供なんだからさ」
そう言って、わかばちゃんは俺の頭をガシガシと撫でた。
こんなふうに誰かに触れられたのは、いつ以来だろう。
少しの間、その手の温もりに浸ってしまったけれど、なんだか気恥ずかしくなって、そっと彼女の手を振り払った。
「大丈夫。お前なら、みんなの“楽しかった夏”になれるよ」
と、ヒラヒラ片手を振りながら、その場を後にするわかばちゃん。
「じゃ私は端のほうでしっぽり飲んでるわ」
「飲むなよ……え、飲むなよ!?」
笑って冗談だと思ったが、わかばちゃんの顔が本気だったので、慌てて止めた。
広場に着くまでの間に、涼香にはラインを送っておいた。これで、全ての準備は整った。
俺は小さく深呼吸をして、ぽつぽつと広場に集まってきた生徒たちの方へと歩き出す。
「 よーし盛り上げていきますか!! 」
だんだんと広場の中央に集まりだす生徒たち。
その視線は、真ん中にぽつんと置かれた三つのプールに向けられていた。
「なにあれ?」
「飲み物とか入ってるよ?」
「でも二つは水だけだよ?」
ざわつく声。少しずつ、空気が温まりはじめていた。
「柊!五組と四組、ちゃんと誘っといたよ!」
園田さんが、軽く走り寄ってきて声をかけてくれる。
「ああ助かる。園田さんのおかげで、なんだか人気スポットみたいだ」
「ううん!涼香ちゃんも頑張ってくれてたし!
それで何をするの??みんなもそこすっごく気になってたよ」
「まあ見ていてよ」
俺は荷物の中から、野外学習でやけに多かった“理由”を、一つずつ取り出していった。
「え?これって……?」
驚く声があがる。
「そう――花火だよ。
キャンプファイヤーはできないけど、みんなで手持ち花火をしたら面白いかなって」
「え!?めっちゃいいじゃん!!」
歓声が広がる。夜の花火、それは高校生にとって、とびきりのご褒美みたいなものだ。
「あ、火を使うから、二つのプールは消火用なのか!」
「……と思うじゃん? 違うよ。一つは火消し用、もう一つは――これ!」
俺が取り出したのは、昼の自由時間に涼香達が作っていた水鉄砲。
「水鉄砲も!?」
湧き上がるどよめき。熱を帯び始めた空気の中、俺は立ち上がり、腕を大きく広げて、声を張り上げた。
「名付けて――
花火水鉄砲祭りだ!!!」
その瞬間、広場に笑い声と歓声が混ざり合い、ほんの一瞬、世界がきらきらと揺らめいたような気がした。




