表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
春一つ、やり直せたなら  作者: タナカ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/80

いつか思い出す風


人知れず――

人生で初めて女の子に振られている親友がいるとはつゆ知らず、

ひとりの男は、ただひたすらカレー作りに打ち込んでいた。


「うおおおおおおおおおおお、玉ねぎがあああああああ!!」


「ちょうるさい柊」


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


一心不乱に玉ねぎを刻む柊を、周囲の生徒たちは若干引いた目を向けていた。


「なんか……わかばちゃんのとこから戻ってきた柊、きもいんだけど」


「”きもい”は言いすぎだけど…うん、なんか変だね」


隣でクラスメイトにディスられていることすら気づかず、柊は先ほどの出来事をぐるぐると反芻していた。


——もし、本当にランが寧々のことを好きになってたら?

そう思うと、今この瞬間にも二人が楽しげにカレーを作ってる気がして、頭から離れない。

そのモヤモヤを振り払うように、ただただ玉ねぎを切り続けていた。


「鬼気迫る玉ねぎ職人」

野球部から、わけのわからないあだ名をつけられていることすら、気付いていない。


「ひ、柊君…… もう玉ねぎはいいよ。具材、ほとんど玉ねぎになっちゃうよ」


「そ、そうか。すまん考え事してた」


「柊~ 寧々、自由時間に呼んであげるから元気だしなって」


「ほ、ほんとか!!」


突然キラキラした目で見てきた柊に、返ってきたのは遠慮のない一言だった。


「ガチきもい」


「そうだよな……別にランじゃなくても涼香がいるじゃん!」

「頼む! 連れてきてくれ」


「別にいいけど、寧々が行きたくないって言ったら無理だよ?」


「それは大丈夫だ。あと、連れ出してほしいのは場所は、広場じゃない」


「え?広場じゃないの?」


「たぶん“広場”って言葉を出すと、来てくれない気がする。だから、できるだけ屋上に近い場所にしてほしい」


——図らずも、柊は親友ランが“寧々を広場に連れていかない”という約束を、自然と避ける行動を取っていた。


「屋上って……そんなのあったっけ?」


「ある。展望室だ。星空も見られるってことで、この施設のウリになってる」


「マジで? そこで『星見よう』って誘うつもり? ロマンチストだねぇ、柊ちゃんは」


「ちげーよ。ただ、そこから広場を見てほしいだけだ」


「……えっ?」


「まあ、行けばわかる。頼んだぞ」


その会話は別に隠すでもなく行われたため、とある”人物たち”の耳にも届いてしまった。



「「おい」」


カレー作りも佳境を迎え、煮込みの時間に入ってゆったりしていたそのとき。

柊は、ヤンキー風の二人に絡まれた。


「なんだよ、石田・井上」


「お前、涼香さんを”広場”に連れ出してくれるんじゃないのか」


「あ…………」


「「おい!!」」


——忘れてた、涼香信者たちの存在を。


寧々を呼べるチャンス、そしてランから遠ざけれる可能性に浮かれて、完全に彼らのことを忘れていた。


「連れ出す、絶対に連れ出す。ただ……ちょっとだけ広場から離れてもらう。でも、絶対戻ってくる。

 広場を上から見せれば、すぐ戻るって」


「言ったな? 戻ってこなかったら……わかってるよな?」



——嫌だなあ、野球部の”お仕置き”とか怖いんだけど。



「任せろ。これは男の約束だ」



格好だけでもつけようと、グッと親指を立てて、まだ確定してないことをあたかも確定事項のように言ってみせた。




——そして、みんなでカレーを食べ終え、次の班活動へ。


今度は、それぞれが「やってみたいこと」「学びたいこと」を選ぶ、自由行動の時間だ。


俺が選んだのは、森林伐採。


——ぶっちゃけ、一番地味。クッソ地味だ。



他には、女子と一緒に楽しめる水鉄砲作りとか、森の素材を使ったアクセサリー作りとか、華やかな活動がいっぱいあるのに。


森林伐採だけは、本当に「木を切るだけ」。以上。


男子しかいないし、コミュ力も必要ない。人との関わりを避けたい者たちが自然と集まる場所だ。



その森林伐採をするまでの森に行くまでは、軽トラで行く。

通常はダメだが、荷台に乗せてもらって森の中を走る。その風を感じるのが、唯一の醍醐味である。



俺が森林伐採を選んだ理由は、担当がわかばちゃんだからだ。


最後の計画を実行するには、先生の協力が不可欠になる——そう思ったからだ。



「柊が森林伐採に興味があったとは、驚きだな」


荷台で風を浴びながら、若葉ちゃんが話しかけてきた。


「軽トラの後ろに乗ってみたかった、が理由だね」


「まあ、その理由がほとんどだろう。男子しかいないしな、この班」


「てかさ、わかばちゃん。自由時間の時って先生たち何してるの?」


「見回りだな。危ないところに行っていないか。不純異性交遊してないか、など見回る」


「不純異性交遊って………。俺、広場で他クラス巻き込んで()()()()()しようと思ってるんだけど、いい?」



「ほう。面白いな。でも危険性が高いことは、簡単に”いい”とは言えないぞ?」



「だから、わかばちゃんに言ってるんだよ」



「……よくわかってるじゃないか。私が準備しておこう」


「ありがと。やっぱ、いい人だね」


「私はな、高校時代の思い出って、無理してでも作った方がいいと思ってるんだよ。

 そのために生まれる危なっかしい部分は、大人が引き受ければいい」


「そして柊たちが大人になったら――今度は、次の世代の子どもたちに、”それ”を返してやれ」


わかばちゃんは、普段ふざけてるし、適当なことばっか言ってる。

でも、肝心なときにはいつだって、生徒の味方でいてくれる。



大人になって気づいた。

自分の子どもでもない誰かのために頭を下げたり、背負う覚悟を持てる大人なんて、そうそういない。



「……やっぱ最強だよ、わかばちゃん。大人になったらさ、一緒に飲みに行こう」


「ふふ、大人になったらな」


風が吹き抜けた。

この、どこか照れくさくて、それでいて優しくて、あたたかい約束。

俺はきっと、この瞬間をずっと忘れない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ