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春一つ、やり直せたなら  作者: タナカ


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野外学習が始まる


野外学習の朝。

いつもより早い起床をしていたこの男は全体の確認をし、準備に忘れ物がないか念入りに見ておいた。 


一泊二日と短い期間ではあるが、出会ってわずか二ヶ月のクラスメイトたちと一緒に行く旅は、きっと濃密なものになる。


ある者は楽しみ、ある者は憂鬱で、ある者は無関心な面持ちで、朝を迎えるだろう。



「クソ…………朝早すぎだろ。準備も多いし……」


この男、柊は毒を吐きながら準備をしていた。


前日もしっかりと部活動があり、終わった後に夜まで涼香と古谷と今日のことを打ち合わせしていた。


そのせいか寝不足なまま朝を迎えた。


とはいえ、若すぎるこの身体が元気に動くことに感動する。


「……まじでこの身体元気だな。いくらでも動けそうだ」


自分の身体なのに貰ったもののかのような感想を抱いてしまう。


()()()()()()()()()()()()()()


そう呟き、携帯を手に持った。



事前準備をすべて終わらせ、後は当日の運にかけることにした。

家に出る時間はいつもより遅くなってしまったため、学校に到着した時にはほとんどの生徒がいた。


「おい柊遅いぞ。クラスメイトがいるかチェックしろ」


「それわかばちゃんの仕事じゃん……」


「柊~みんなもういるよ~」


先に来ていた涼香がクラスメイト全員の出席を確認しておいてくれた。


………わかばちゃんより働いてるじゃん。



「おお、助かる。じゃバスに行こうか」


「柊、バスに全員乗ったら報告してくれ。私は他の先生と最終確認してくる」


「りょーかい。 みんなー、バスは昨日決めた席順で後ろから座って行けよー」


「「       はーい     」」


一年一組から順にバスに乗り込むため、一番最初に準備をする必要があった。

その為、昨日のうちに非常に大事な席決めをしていた。



これがまた難しかった………


三人組が多く、どうしても一人余る。その「一人」にはなりたくないと、クラスの空気が少しギスギスしていた。


そこで柊は三人組に提案した。


「俺とじゃんけんして、負けた人が“あぶれ枠”。で、同じくあぶれた人と隣になるってのはどう?」


これで悪者は柊一人になり、クラスの雰囲気も少し和らいだ。


わかばちゃんには心配されたが、これが一番内部崩壊しないやり方だと管理職時代に身に着けておいて助かったと思う。


そんなこんなで無事バスに乗り込むことができたため、定刻通り出発する。


「では、みんな乗ったな?」


「声を合わせていくぞー!」


「「「        しゅっぱーーつ!!!      」」」


高校生らしく元気よく発進して野外学習が始まった。



柊の隣に座った古谷が、話しかけてきた。


「柊君、トランプする? 涼香さんたちがしたがっているよ」


「あーいいや 俺車酔いするタイプだから。あんま集中するのは無理だわ」


「そうなんだ、じゃ僕も辞めとく。 ごめんね、涼香さん」


「ええーふるやっちも柊もしないならいいや!華ちゃんお菓子食べよ!」


そういって俺らの後ろに座っている涼香は、隣の篠田華とポッキーを食べ始めた。


「てかさ、柊マジで荷物でかすぎじゃない?爆弾でも持ってきたの?」


この篠田華は、涼香より派手なギャルである。


涼香も話し方などでギャル認定されるが、篠田華は見た目も話し方もギャルだ。


髪の毛は茶髪でロング。

靴下はルーズソックスを履くなどギャル路線をぶっちぎる一軍女子であるが化粧は思ったより薄いため、そのギャップで男子には結構人気である。 


性格がオープンな分、クラスでも浮きがちな柊にも気軽に話しかけてくれる、貴重な存在だ。


「ほぼ爆弾みたいなもんだ。 篠田も結構バック大きかったけど、おにぎりでも詰めてきたのか?」


「そうそう、塩、梅、昆布のおにぎりをって、うざすぎか!」


「女子は色々と持ち物がおおいんです」


「良いノリツッコミだったぞ。 でもその理論で行くと隣の”女子もどき”の荷物はめちゃ少なかったけど」


「あ~これは女子もどきだからね~、荷物少ないんだよ」


「ちょ! ちょっと!? ”女子もどき”とかありえないんですけど!!」


「柊君、流石に……。ちょっとひどいかも」


心優しい古谷が、ガチで俺に引いている。


引くなら、ノリに乗っている篠田にも引いてくれ。


「すまんすまん、いじりがいのある子で困ってるよ」


「そんなんだから、寧々に嫌われるんだよ。柊君」


急に言葉のナイフで刺してきた。

HP満タンが、赤ゲージに一気になるくらいには大ダメージだぞ。

痛い、心…………


「てか、柊ってマジで二組のあの子好きなんだね」


俺が心にダメージを受けて、言葉が出せないときに篠田が聞いてきた。


「そうだよ、絶賛嫌わてるけどな!!!」


「うける。柊はもっと元気ハッピーみたいな女子が好きだと思ってた」


「うちらみたいなね!」


「馬鹿そうじゃんその女。 俺、クールでかっけー女が好きなもんで」


「「       浅はか       」」


なんでだよ…………。お前らが元気でハッピーな女とかいうから対義語しただけなのに…………



そんな感じで四人で楽しく話しながら、バスに乗っていたためあっという間に、今日の目的地に到着をした。



目的地は岐阜県の「森の公園」。アスレチックや宿泊施設が整った、自然体験にはうってつけの場所だ。


ここで、カレー作り、各自水鉄砲を製作する班や森林伐採に行く班など、学びたい班に事前に分かれており、楽しく学ぶ。


その後、お風呂に入り、施設の夜ご飯を食べ、そして自由時間となる。


これが一日目のおおまかなスケジュールである。


ほんとどこにでもありふれた野外学習である。


一つ普通の学校と異なるのが、夜の自由時間を長が決めることであり、毎年全然違うことである。


大縄跳びをしたり、カラオケ大会をしたりなど、それこそキャンプファイヤーをするなど多種多様な出し物を長が話し合って決める。


これが長初めての仕事になる為、比較的難易度は簡単ではあるがクラスメイトとの思い出に繋がることである為、責任重大である。


今年は、「自由時間を自由時間」をテーマとしている為、仲良くなるために事前に話し合って集合したり、たまたまあった者で夜を過ごすでもいいといったスタイルを行った。


無理して何かを起こし、やりたくない者・参加したくない者に強いる必要がないため、結構生徒の中では評価の高い出し物になった。



「んーーー着いたーーー!!」


結構長旅ではあったため、固まりに固まった身体をほぐすため、大声を出しながら伸びをしている者がほとんどだ。


「じゃみんな、荷物を降ろしたら各ペンションに荷物を預けて、集合だ。十時半までによろしく」


「「    はーーーーーい    」」」


みんなに声をかけ、ペンションに荷物を持っていった。


そして古谷にトイレに行くため、先集合しておいてくれと伝え、ある確認をするため携帯をいじる。



「そうだよな、お前はそういう男だよな」


朝メールを送っていた男から先ほど返信が来ていた。


期待通りの返答に、彼は確信を得たように頷いた。


──野外学習が、本格的に始まる。

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