陽と陰の会議
翌朝の朝礼、俺はあっさりと告げた。
「すまん、キャンプファイヤーは無理そうだ」
期待させてから落とすのは、一番やっちゃいけないパターンだからな。潔く謝るしかない。
案の定――
「諦め早っ」
「口だけかよ」
「じゃあ、あいつに価値ないじゃん」
おい泣くぞ、毎回俺に聞こえるように言うな、そのストレートヘイト合戦。
……けど、三回目にもなると、ちょっと期待して耳を澄ませてた俺がいたことは、内緒だ。
「みんなの思うことはもっともだ、でも、キャンプファイヤーは違う形で行おうと考えている。わがままだとは思うが、野外学習が終わるまでは長(仮)をやらせてくれ。」
「まあ、柊君以外にやる気ある人いないし、いいんじゃないかな?」
「……古谷、お前ほんといいやつだな」
古谷の鶴の一言によってたいして揉めることなく、俺のわがままは、無事に着地した。
放課後。部活の準備をする涼香に声をかけた。
「涼香、ちょっと頼みがあるんだけどいいか?」
「ん?どうしたの?」
「ぶしつけにはなるが、園田さんとは仲がいいか?」
「あのー5組?だっけ、長の子だよね。まあ、それなりに?」
「できれば、次の長会議までに、ちょっとした世間話ができるくらいにはなっておいてくれ」
「え、なにそれ。なんでまた?」
「いや、会議でもよく話してたし、もっとクラスの垣根を超えて仲良くなれたらいいなって」
「ふ〜ん? まさか柊氏……狙ってるのか〜?? メガネっ子かわいいもんね〜」
「阿保か違うわ、すきなひといるし、」
「え、まさかわたし……? やだな~照れちゃう」
目元だけ見える顔の隠し方をしてふざけてきた。ちょっとかわいいのが腹立つ。
「先に言っておくけど、橘さんね。涼香と仲がいい」
「え!? マジで!? 急にガチな告白ぶっこんでくるじゃん」
「でも寧々はいいね!!良いセンスだよ!めちゃかわいいし、スタイル良いし、性格もいい。
うんすべてがいいので、柊君にはあげません」
「やかましいわ」
頭を軽くペシッと叩いて、
「じゃ、園田さんとのことよろしく」と逃げるように部活へ向かった。
——その頃、1年2組でも密かな作戦会議が始まろうとしていた。
「ねえ 夏木君」
「ん?橘さんから話しかけてくるなんて珍しいね」
「柊君と仲がいいんだよね?」
「そうだね、同中だったし。なんで?」
一瞬、彼女も柊に好意を持っているのでは、と期待がよぎった。
「彼に”長”を辞めてもらいたいの、そしてキャンプファイヤーも止めたい。」
「……は?」
思いもしない言葉に思わず固まってしまった。
なぜなら俺の心を全否定するように、冷たく静かな瞳をした橘寧々がいた。
「…………なんでとか聞いていい?」
「理由は言えない。
でも私は彼の事を昔から知っているの。あの人は、女の子に平気で近づいていくタイプよね?」
「まじか………それを知られていたら俺は柊のことが守れないな」
やれやれと手を振って白旗をあげた。
中学時代のモテっぷりを思い返し、思わず苦笑い。潔癖な子には確かに無理だろう。
どんまい柊と心の中で手を合わせておこう。
「とりあえず、橘さんがあまり柊のことを好きじゃないのが分かったよ」
「でもさ、俺は友達を裏で引きずり下ろすことはできないよ」
「そっか。じゃあ聞き方を変えるね。」
橘寧々の目が、ふっと細くなった。
「夏木君は……柊君の案が、”学年の案”になるの、悔しくない?」
その言葉を聞いた時、身体に電流が走る感覚があった。
この女は俺の扱いをわかっている、短い言葉の中に「確かに」とうなづかせるだけの理由があった。
「……言い方ひとつで、ずいぶん魅力的に聞こえるな」
「よかった。夏木君は、そう言ってくれると思ってた。」
言葉は柔らかいが、その笑みの裏が見えない。
どこまでが本音で、どこまでが計算なのか。
「ちなみに柊を”長”から降ろすのは簡単だよ。あいつは俺の煽りを受けて長を引き受けた。
引き受けるからには絶対成功させたい男だから、何か”制約”を自分もしくは他者にしてるはず、と俺は考えている。」
「それがわかれば……?」
「きっと、そこが突破口になる」
「”鍵”を見つければ、”扉”は開くってわけ」
パチンっと指を鳴らした後、ハッとする。
知らぬ間に彼女のペースに乗せられていた。
気づいた時には、俺は柊を“長”の座から引きずり下ろす計画に加担していた。
(この子は、一体——)
「別に勝負事みたいで面白いし、乗るけど…………本音を聞かせてほしいな」
「嫌いなの? 柊の事」
掌の上で操られたことが悔しくて、意地悪な質問を投げた。
だが橘寧々は、春の終わりを告げる風のように、淡く穏やかな声で答えた。
「 ーーえぇ大嫌いよ。今までも、これからも。 」
その言葉はあまりに静かで、だからこそ嘘に聞こえなかった。
けれど、その目は何かを決意したように、わずかに震えていた。
——まるで、自分自身を傷つけるために吐いた言葉のように。




