8:旧ヒロイン、抗う
数日後。
私は渡り廊下でカイルが通りかかるのを待っていた。まさか私の人生で告白の約束を取り付けるために待ち伏せをする日が来ようとは!
シュゼットは研修中でこの時間カイルが周辺を巡回しているのは知っているし、その巡回ルートでここが一番宮殿から遠い場所だということもリサーチ済み。
やばい、私一歩間違ったらストーカーかも……
そういえば、ずっと気になっていたことがある。前回話したあの時カイルは何を言いかけたんだろう。
『ユウナ、俺――』
正直……聞くのは怖い。その後に「セシリアより気になるやつが出来たんだ」とか、シュゼットの名前を出されたらその時点で私の恋は終わる。
でも、言わなきゃ何も始まらない。まずは当たって、あとは砕けないように……ってこの前から呪文の様に繰り返しているこの言葉。
この期に及んで尻込みしてどうする? 女を見せろユウナ!!
と、エア気合いを入れていたら―――キタ!!!
反射的に柱の裏に隠れてしまう。ちょっと、さっきの気合いどこ行った??
「あれ、ユウナ?」
しかも相手に見つかってしまうという、一番やってはいけない発見のされ方を……
「はい……私です」
出鼻をくじかれた私はすごすごと出て行った。
「そんなとこに隠れて何やってんだよ。あ、最近俺と会えなくてさみしかったとか?」
「…………うん」
「なんて――え?」
冗談を言ったつもりだったのかカイルが目を丸くしている。でも今の私にはツンを発動している余裕なんかない。
「カイル。あんた、最近私の監視さぼってるよね」
「監視? 監視って何の……」
「なので、一度話し合いの機会を設けたいと思います」
「は?」
下を向いたまま切り出してしまったのでそのまま畳みかける。
「あんたが私に構ってくれないから推しの成分が圧倒的に足りないの! 殆ど会えないし話す時間も減っちゃうし、カイルがシュゼットと一緒にいるだけでモヤモヤするし。護衛だけならまだしも腕組とか何なの、最悪なんだけど! 私だって組んだことないのに……」
「……えーと、ユウナ、今」
「もう言いたいことが沢山溜まってるの!! あと、私の気持ちも聞いて貰いたくて……だから! 3日後の夕方18時に図書館裏の中庭で待ってるから!!!」
「あ、あの、ユウナさん……」
「絶対、絶対に来てよね! じゃあ!!」
「お、おい」
何だか戸惑っているカイルに気づかず、マシンガンのように喋った私はその場から離脱を図る。
正直何を言ったのか覚えてないけど、とりあえず待ち合わせの時間と場所は伝えられたのでよしとする!
あ、最後にもう一押しした方がいいかな、と思った私は振り返り、
「もし来なかったら……お、覚えてなさいよ!」
悪役の捨て台詞みたいになってしまった。私のバカあああっ!!
全力疾走で走り去る私とその場に放置されるカイル。
「何だよ……言い逃げか?」
ふっと笑うカイルの後ろから声がする。
「カイル様」
振り向いたカイルの視線の先にシュゼットがいたことを、私は知る由もなかった。
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