7:あり得ないでしょ、私みたいな女
「セシリア。あの時は本当に……すみませんでした!!」
「え、ユウナ?」
「いきなり何? どうしたの!?」
セシリアとレイチェルが目を丸くしている。そりゃあ夜着姿でいきなり土下座されたら誰だって驚く。
今日はレイチェルと一緒にフォンクライン家にお泊まり。3人で心ゆくまで語り明かす会――つまり女子会だ。レイチェルとはセシリアを通じて知り合い、すっかり仲良くなった。
「いや、今更になって自分の行動を省みているというか。反面教師というか……」
「ああ、シュゼット・メインズのこと?」
シュゼットと同じ聖女研修を受けているレイチェルにはすぐ予測がついたらしい。
「あの子魔力の色が違ってて面白いよね、講師や周りからの受けもいいし。でも私はあんまり好きじゃないなぁ。何か嘘くさいっていうか……あ、以前のユウナみたいな」
「う、その節はかさねがさね申し訳なく……」
「今はそんなこと思ってないし! 土下座しなくていいから!!」
二度目の土下座は全力で止められた。
「ふふっ。ユウナは今、カイルのことが気になるのよね」
「え、そうなの!? あいつ今シュゼットとニコイチ状態だけど……いいの?」
「いいも悪いも私がどうこう言える関係じゃないし」
「でも好きでしょ、カーライルのこと」
「すッ……!? うん……好きだと思う」
もう冗談でも「そんなことない!」とは言えないほど、私の気持ちははっきりしていた。
「幼なじみの私から言わせていただくと、カイルは絶対ユウナを気に入っていると思うわ」
「私も。シュゼットの護衛しながらユウナのことチラチラユ見てるし」
「それは私が監視対象なだけで」
カイルも含め、周囲は私がアイスランを追い回していたことを知っている。
「あり得ないでしょ、私みたいな女」
大好きな幼なじみを危険に晒すような相手を好きになる筈がない。あー、自分で言って自分で傷つくなんて終わってる……
「そうかな? 私は10年間意図的に自分を操っていた兄をまんまと好きになったけど」
あ、それはジュラルドのことですね。
「不本意ながらね」
と苦笑いのレイチェル。
「でも人の気持ちは理屈じゃないから。好きだと思ったらもう好きだから。ユウナはその気持ち、自分で否定しないで大事にしてあげなよ」
「レイチェル……」
「そうね。まずは当たって、あとは砕けないように頑張ればいいのよ」
「ありがとう……2人共」」
セシリアとレイチェル、2人のお陰で少しだけ気持ちが軽くなった。
※※※※※
深夜。
ぐっすり眠るレイチェルの隣で前世組のセシリアと私は作戦会議をしていた。
「シュゼットの魅力はMAXに達しているわね。そうじゃないと今みたいな無双状態にはならないもの」
「やっぱりそうだよね」
ヒロインあるある。とりあえず魅力を上げとけ! という短絡思考。
「ええ、このまま限界値を超えて裏スキルを使われると面倒だからその前に先手を打ちましょう」
やはりあるのか……裏スキル。
「先手って?」
「ユウナがカイルに告白するのよ」
「え!? こ、こくは……」
「いい? シュゼットがカイルルートを選んだ場合、告白イベントが起こるのは神無月の2週目だから今から3ヶ月後。その前にユウナがそのイベントを起こしてしまえばルートを乗っ取れるはずよ」
乗っ取るって……嬉々として物騒な発言をするセシリア。
「もしシュゼットがカイルルートに入ったら3ヶ月間恋愛イベント三昧だから、行動するなら今よ! 今なら好感度はユウナの方が絶対高いもの」
「それはそうかもしれないけど……」
つい最近まで殿下とセシリアの仲を引っ掻き回し、カイルにもデレ度ゼロのツンな態度を取り続けていた私。果たして好感度が高いのかも謎だけど、いきなり告白なんて……明るい未来が欠片も見えない。
「もう他力本願で後悔したくないんでしょう?」
「え?」
それは、セシリアに最初に謝罪した時に言った言葉。
『ごめんなさい! 私、ヒロインだからっていい気になってた。ゲームのシナリオに従っていれば何でも思い通りになるなんて……もう他力本願で後悔するのはやめる! ちゃんと努力して自分の居場所は自分で作るから』
それからはその言葉に従い、真面目に勉強してお勤めして、聖なる乙女の研鑽だって積んで来た。
この世界で生きて行くために、もう後悔しないために。
―まずは当たって、あとは砕けないように頑張る―
「分かった……私やってみる!」
「そう、その意気だわ!!」
「ううーん……」
寝返りを打つレイチェル。しまった、つい大声を……
『レイチェルを起こしては大変だから、もう寝ましょうか』
『うん』
並べて用意されたふかふかの布団に潜り込む。
腐っても元ヒロイン。それくらいの気概を見せなければ!
私は固い決心を胸に目を閉じた。
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