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4:新しいヒロイン

 心の準備なんかする暇もなく、すぐに新しいヒロインはやって来た。


「シュゼット・メインズです。よろしくお願いします」


 大きな瞳に小柄なボディ、少し長めのボブカットはふわふわしている。まるで砂糖菓子のような外見。


 セシリア曰く前作と違って異世界から召喚された訳ではなく、ファーレーンの下町出身で、ある日突然聖なる力に目覚めたという筋書きらしい。


 聖なる乙女とは似て非なる存在でありながら同等の力を持っている、ということでその力の解明のため聖女見習いとして学園に招かれることになった。


 流石ヒロインと言うべきか、転入初日からシュゼットはクラス全員を虜にした。


『私のことはシュゼットって呼んでください』


 まずファーストコンタクトで皆の懐に飛び込んだと思ったら、


『シュゼット、今日私達と一緒に帰らない? ケーキが美味しいカフェがあるの』

『いいんですか? 私、王都のお洒落カフェにずっと憧れていて……友達と行くのが夢だったんです!』

『え、そうなの!? そんなの私達でよければいつでも付き合うよ、ねえ?』

『『うん、勿論!』』


 人懐っこい笑顔であっという間に女子グループの輪に入り、


『メインズさん、それ僕たちが運ぶよ!』

『いえ、すぐそこまでなので大丈夫ですよ。そんなに重くないですし……きゃっ』

『ああ、ほら! 大丈夫?』

『クラスメイトなんだからもっと頼ってよ。ほら貸して』

『皆さん優しいんですね……ありがとうございます』

『『ううん、全然!!!』』


 小動物アピールで守ってあげたい! という男心をくすぐり、


『先生のコラム、魔法雑誌で拝読してました。直接講義が受けられるなんて感激です! 私、先生みたいに魔力を自在に操れるようになりたくて……』

『あら、勉強熱心なのね。素晴らしいわ!』


 尊敬と褒め殺しのダブルコンボで講師の好感度までをも爆上げた。


 明るくて可愛くてドジっ子、というテンプレートを絵に描いた様なキャラクターで老若男女、もとい生徒、先生問わず片っ端からハートを鷲づかみ! 一日にして『ヒロイン無双状態』に。


 それは他のクラスにも伝染しているようで……お昼休みになるとシュゼットを一目見ようと廊下には黒山の人だかりが。


 私はというと、自分が前作のヒロインだからか手放しで可愛い! 愛でたいー! という感情が全く沸かず。いつの間にかクラス中に蔓延した「シュゼット至上主義」の空気にすっかり乗り遅れてしまった。

 

 それにしても初期の私と似てるな。自分もあんな風に誰彼かまわず愛想を振りまいていたんだと思うと……いたたまれない。


 何だか1日で1年分の疲れを感じ、放課後教室でぐったりしていると、カイルがやって来た。


「おい、どうした?」

「あ……カイル」

「元気ないな。食べ過ぎか?」

「ううん、大丈夫。心配してくれてありがとう」


 と言った瞬間にカイルが凄いものを見た、という顔をした。


「――……本当にどうした?」

「何がよ」

「ユウナが俺に食って掛からずにありがとうなんて……」

「ちょっと! 私だってたまにはお礼くらい言うわよ!!」

「いや、その「たまには」が前回いつあった? っていう話で」

「数えるくらいで悪かったわね! 安心して、もうあんたには二度と言わないから」

「お、調子戻ったか。やっぱりユウナはそうじゃないとな」


 カイルの笑顔を見ていると体の疲れが解けていく。マイナスイオンでも出てるのかな?


 そういえば、隣のクラスなのにカイルはいつもと変わらない。それが堪らなく私をホッとさせた。


「今日も図書館に寄るだろ? 俺も殿下に呼ばれてるから一緒に行くか」

「うん!」


 カイルについて教室から出ようとした直後、廊下側から突っ込んできた何かがカイルにぶつかった。


「きゃあっ!!」


 そのまま後ろに倒れそうな何かを反射的に掴んで抱きかかえるカイル。その「何か」とは……シュゼットだった。


 さっきまで教室内にいた筈なのに……いつ廊下に出た!?


「あっぶねー……おい、大丈夫か?」

「は、はい。ありがとうございます」


 カイルに抱えられたまま固まっているシュゼット。みるみる内に顔が赤くなって――


「あの、そろそろ離して貰っても……いいですか」

「あ、悪い」 


 上目遣いでモジモジしている超絶可愛いシュゼットと特に何も感じてなさそうなカイル。でもこの感じ……私には分かる、これは出会いイベントだ。


「私、今日転入してきたシュゼット・メインズです。貴方は……?」

「ああ、殿下が言ってた聖女見習いか。俺は隣のクラスのカイル・シュタイナーだ。よろしくな」


 明らかにキラキラした瞳でカイルを見つめるシュゼット。


 ……何だかすごく嫌な予感がした。

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