3:それってもしかして
「それって、ユウナがカイルを好きってこと?」
「っ! な、何でそうなるのよ!?」
思わず飲んでいた紅茶を吹きそうになった。
フォンクライン家自慢のガーデンテラスに用意された豪華アフタヌーンティーセット。綺麗な花々に囲まれた空間でまったりとお茶会を楽しんでいるとセシリアがとんでもないことを言い出した。
興奮気味に身を乗り出すセシリア。
「だって、前世の推しに嫌われるのが悲しいのよね? その上毎日の逢瀬を待ち望んでいる……これはもうLOVEですわ、LOVE!」
「逢瀬じゃなくて監視だし! ……っていうかセシリア、その口調で前世の表現、面白いんだけど」
「あら、私は割と気に入っているのよ。この話し方」
「そっか」
殿下の婚約者でゲーム内では悪役令嬢だったセシリア・フォンクラインは、今やすっかり愛されヒロイン。
そんなセシリア。実はざまあの真っ最中に前世の記憶を思い出した転生者だったことが判明。確かにあの切り返しはゲームの内容やざまあの存在を知っていないと出来ない。
『ユウナ、あなたもしかして前世の記憶があるんじゃない?』
あの後セシリアに呼び止められて転生者同士意気投合。今はこうして友人として親しくしている。ちなみに前世で社畜OLだった彼女は貴族階級の生活や口調に興味津々らしい。
その点、私はゲーム内でも転生者の設定だから楽で良かったな。
「そういえばレイチェルは? 今日は聖女研修なかったよね」
「ええ、久しぶりにゆっくりお話出来ると思ったのだけど。あっという間にジュラルド様に連れ去られてしまって」
「あー……」
セシリアの親友、レイチェル・ハワードは最近選抜試験を突破して聖女になった。その後聖女審判で血が清められたことで家族との縁が切れ、待ってました! とばかりに赤の他人となった兄ジュラルド・ハワードに一瞬で外堀を埋められ囲い込まれてしまった。
どうやらジュラルドは幼い頃からレイチェルにガチ惚れしていて、彼女を手に入れるために画策。10年間レイチェルを意のままに操りまんまと彼女をその手中に収めた。
セシリアのためにシナリオをねじ曲げるアイスランと妹と結婚するためなら家族の絆さえもぶった切るジュラルド。
かの恋のメインヒーローはどいつもこいつも愛が過ぎる。ホラーとサイコ……
「……今、殿下に対して失礼なことを考えていなかった?」
「ぜ、全然!?」
ジト目のセシリア、ちょっと可愛い。
「そうだセシリア。あの時は本当にごめんね、私考えなしで」
「いいのよ、もう気にしていないわ。乙女ゲームでまずメインヒーローを攻略するのは当たり前ですもの」
あの時、私は何も考えていなかった。
好きなものは最後に食べる主義の私は推しのルートをご褒美として残した上で、折角ヒロインになったんだから最初はこっちだよね! と、それだけの理由で攻略相手にメインヒーロー(第一王子)を選択した。
駄目ならルートを変えるかリセットしてやり直せばいいんだしー、というゲーム感覚が抜けきっていなかったのだ。ここはもう【現実】だというのに。
こんなことなら最初から自分の推しを選んでおけば良かった。と思ってもあとの祭……昔の人の教えは正しい。
今後から一番好きなものは最初に食べよう! 死んでしまっては元も子もないし、と意識改革した私が大好物のフォンクライン家パティシエお手製いちごタルトをパクついていると、紅茶を口にしていたセシリアが思い出したように、あ、と言った。
「そういえば、ユウナは私より先に転生していたから、続編は未プレイよね?」
「え、うん」
続編。プレスリリースはチェックしたのに結局プレイ出来なかった。メインビジュアルにカイルが入っていたからすごく楽しみにしていたのに。
「続編では引き続きカイルが攻略対象として登場するんだけど、ヒロインは新しくなるの。だから、カイルの好感度は今の内に上げておいた方がいいと思うわ」
「だからそんなんじゃないってば!」
声を荒げながらも私は内心焦っていた。
え!? 新しいヒロインがいるの? ……き、気になる。
「ちなみに……そのヒロインって……何て名前?」
やっぱり気になるんじゃない~と侯爵令嬢らしからぬニヤニヤ顔を浮かべたセシリアがドヤ顔で教えてくれた。
「シュゼット・メインズですわ」
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