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1:またいつもの日々

「もう無理……」


 細かい文字列に不可解な暗号。分厚い魔道書とにらめっこしていた私はそろそろ限界を迎えていた。


「ユウナ様、少し休憩なさってはいかがですか?」


 見かねた司書さんが声をかけてくれる。


「ありがとうございます。じゃあちょっとだけ」


 王城内に設置された専門書に特化した巨大図書館。山積みの本に埋もれていた私は、お言葉に甘えて開きかけのページをそのままに立ち上がった。


 ファンタジー映画に出てきそうな扉をくぐり、赤い絨毯が敷かれた廊下に出る。歩いていると頻繁に声をかけられた。


『ユウナ様、今日は図書館においでですか?』

『本日のお召し物も素敵ですわ、ユウナ様』

『今度是非、我が伯爵家のお茶会にいらしていただけませんか』

『よろしければ次回の夜会ではウチの息子と――』

『(何か言ってる×多数)』


 途中から曖昧な返事と愛想笑いを繰り返しながら長い廊下を抜け、ようやく中庭にたどり着いた。大きく伸びをすると丸まっていた背中が一気に解放される。


「あー、生き返る!」


 私はこの世界では聖なる乙女、ユウナと呼ばれていた。


 人気乙女ゲーム「かの君は黄昏に密恋を囁く」の世界にヒロインとして転生した私。


 『これはひょっとして……勝ち確では!?』


 黙っていてもヒーロー入れ食い状態! 意気揚々と途中まではハーレムルートを進めて、分岐の段階でメインキャラクター大本命の第一王子アイスラン・ジークハルトを選択。すべて思い通りにいくと思っていたんだけど……


 同じく転生者だった悪役令嬢、セシリア・フォンクラインとセシリアを溺愛するアイスランの前にあえなく敗北……ハッピーエンドどころかざまあを食らう始末。


 本来なら王族に不敬を働いた罪で処罰される筈だったんだけど、セシリア(正しくは殿下の執念)のお陰で不敬行為そのものがなかったことにされて無罪放免!

 

 その上、今まで通り王城への出入りも許されている。目下、聖なる乙女としての研鑽を積んでいる真っ最中。なんだけれども……


 私が言うのもなんだけど、2人ともちょっと寛容すぎじゃない? 仮にも婚約者を蹴落として王妃の座を狙った相手に対して。


「まあ、魅了は封印したし今更何かしようなんて思ってないけど」


 シナリオ通りに進めていたので私は周囲からの好感度抜群!(ハーレムルートだったし)分岐でアイスランを選択してからはそのパーソナルな部分が明かされ、内に秘めた孤独と闇、王子としての重責、婚約者との冷え切った関係……そんな愛を知らない殿下との距離が縮まり、やがてユウナが彼にとっての唯一かけがえのない存在になっていく……筈だったのに。


 殿下の反応がどうもいまいちだったので、魅力を上げるだけでは駄目なのか? と、裏スキル『魅了』で手っ取り早く攻略しようと思ったら……ざまあされてしまった。


「ていうか、シナリオを書き換えるってありなの?」


 途中からざまあ展開になったので、私がそれまで殿下にアピールしまくった実績はまるっと残っている。


 そのため、結果的に私は叶わぬ恋をして両思いである殿下とセシリアの間に割り込み、見事失恋した恥さらし……もとい、可哀想な異世界人という肩書きで着地した。


 今の私はキラキラヒロイン! ではなく平々凡々なただの聖なる乙女。


「あーあ、短いヒロイン期だったなぁ」


 手をかざすと目の前にステータス画面が現れる。これは聖なる乙女だけの特殊な力で魔力の振り分けが可能なんだけど、魅力の隣のステータス「魅了」には鍵がかかっている。 


 私はざまあの際、魔力そのものを封印される筈だった。なのでせめてもの罪滅ぼしにと特殊技能「ステータス調整」を使って「魅了」をOFF(鍵付)にした。パスワードも破棄したし二度と裏スキルが解放されることはない。


「でもあの時私、魅了に全振りしてたんだよね」


 腐っても聖なる乙女。魔力量も含めポテンシャルはかなり高い。そのステータスを魅了に全振りするとどうなるか……


 乙女ゲームで例えるならば、「学力」「運動」「芸術」「運動」「気配り」等の基本ステータスは全部【2】なのに「魅力」だけ【1000】。他はポンコツ、でも超可愛い! ある意味無双状態。


 そんなメガトン級の魅了攻撃をセシリアへの愛だけで吹っ飛ばした殿下にはどうやっても勝てる気がしない。ううん、むしろ勝ちたくない。


「愛が重すぎて引く……胸焼けを通り越してもはやホラー」


 と、命の恩人に対して失礼なことを言っていると後ろから頭をペシッと叩かれた。


「ぶつぶつうるさいぞ。ユウナ」

「か、カイル!」


 そこにはセシリアの幼なじみ、カーライル・シュタイナーがいた。

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