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第四章 文明崩壊

挿絵(By みてみん)

 闇が落ちた瞬間、空が裂けるように見え、世界の隅々に巨大な亀裂が生じた。その裂け目から吐き出されたのは光ではなく、果てしない闇と破壊の息吹だった。薄暗い雲が瞬く間に広がり、黒いカーテンのように空全体を覆い、太陽の光を永遠に遮断した。

 最初の魔族の爪が地に触れた瞬間、魔王軍の侵攻が正式に始まった。亀裂は地獄への門のように開かれ、これまでに見たことのない恐怖の軍勢が解き放たれた。あらゆる亀裂から無数の影が現れ、死そのものが激流となって人類の隅々まで浸透していくかのようだった。

 アメリカ大陸では、闇に包まれた大都市が依然として賑わいを見せていた。ネオンが点滅し、交通量も多く、街はいつもと変わらず活気にあふれていた。人々は、終末の災害が静かに近づいていることに気づかず、街頭でこの大都市の繁栄を楽しんでいた。

 真夜中、空は突然厚い黒雲に覆われ、まるで巨大な黒いカーテンが街全体を包み込んだかのようだった。街の喧騒は次第に静まり、人々は言い知れぬ圧迫感を感じつつ、恐怖におののきながら空を見上げた。暗雲の中で赤黒い稲妻が亀裂のように空を切り裂き、闇に隠された凄惨な光景を照らし出した。

「なんだあれは?」と歩行者が恐怖で声を震わせながら叫んだ。

 暗雲に大きな裂け目が現れ、まるで地獄の使者がこの世に降臨したかのように、悪魔の軍勢が潮のように押し寄せてきた。先頭に立った指揮官アザール(Azar)は翼を広げて降下し、その目は暗闇の中で不気味な赤い光を放っていた。手に握りしめた杖からは、息詰まるような力がにじみ出ていた。

「愚かな人類よ、貴様らの時代は終わりだ。」アザールの声は低く冷たく、死刑宣告のように夜空に響いた。

 悪魔族の兵たちは瞬く間に街の上空を占領し、その姿は夜と同化したかのように黒い霧に包まれた。杖を持った悪魔の魔法使いたちは強力な闇の魔法を唱え始め、黒いエネルギーが潮のように押し寄せ、たちまち街の通りを飲み込んでしまった。

「逃げろ!悪魔がやってくる!」と警官が叫び、秩序を保とうとしたが、恐怖が広がり、混乱した群衆は四方八方に逃げ散った。

 同時に、市の外れにある軍事基地には最高の警戒命令が下された。レーダー画面には、黒潮のように押し寄せる魔族の姿が映し出され、司令部の空気は極度の緊張に包まれていた。

「多すぎる……!」士官は顔面蒼白で、呆然と画面を見つめた。

「座して死を待つわけにはいかない、直ちにミサイルを発射せよ!」別の士官が毅然と指示を出し、「最も強力な武器で彼らの前進を阻止せよ!」と命じた。

 指令に従い、サイロから複数のミサイルが飛び立ち、夜空を突き破りながら、悪魔族の軍団めがけて直進していった。司令部の士官たちは固唾を飲み、ミサイルが目標に命中する瞬間を待ち望んでいた。

 しかし、ミサイルが悪魔軍団に迫ったその瞬間、アザールは嘲笑を浮かべ、手に持った杖を振り上げた。彼は数語の曖昧な呪文をささやき、その杖を空に向けた。すると、悪魔軍団の前に漆黒の渦が現れ、その中心からは全てを飲み込むような恐ろしいオーラが放たれた。

「ありえない……」その光景に、司令部の士官たちは驚愕しながら画面を見つめていた。ミサイルは急速に接近したが、渦に触れた瞬間、海に沈むように跡形もなく消え去った。爆発の炎も衝撃波も、すべてがブラックホールのような渦に飲み込まれてしまった。

「彼らは一体何という魔法を使っているんだ……?」と軍官は絶望の色を浮かべた目でささやいた。

「これが力というものか?」アザールの声は軽蔑に満ちており、その目には哀れみのかけらもなかった。まるで彼の前にいるのは取るに足らないアリの群れであるかのように。徐々に消えていく黒い渦を見ながら、彼にとって人類の抵抗など退屈な遊びに過ぎなかった。

 手に持った杖が再び異様な光を放ち、闇の力が彼の周囲に集まり、破壊的なエネルギー波となった。それは街の中心部へ一直線に放たれた。大都市の高層ビルはエネルギー波の衝撃で震え始め、そして、砂の山のように崩れ去った。巨大な建物は一瞬にして廃墟と化し、衝撃波で路上を走る車が横転した。人々の悲鳴が夜空に響き渡ったが、すぐに瓦礫の中に消え去った。

 アザールは冷笑し、「これが耐えられない現実だ」と言った。魔法が猛威を振るい、大都市のインフラは一瞬にして廃墟と化した。通信信号は完全に遮断され、電力系統も麻痺し、街全体が前例のない混乱とパニックに陥った。社会秩序は完全に崩壊し、かつての繁栄はもはや存在せず、無限の廃墟と残骸が広がっていた。

「私たちに希望はもうない……」生き残った市民は廃墟の中でひざまずき、その目は絶望と無力感で曇っていた。

 アザールはかつて栄華を誇った都市を見下ろし、都市のランドマークとなる像の上に立った。彼は軽蔑の眼差しで周囲を見回し、闇の力は今も彼の体内で迸り、まるで全世界を飲み込もうとしているかのように広がり続けていた。

「これは我々の征服の第一歩に過ぎない……」アザールは冷たい光を目に宿し、静かにささやいた。彼は杖を振り、悪魔軍に前進を命じた。

 大都市の破壊は始まりに過ぎなかった。魔族が猛威を振るい、世界中の国や都市が次々と崩壊していった。この無慈悲な侵略によって人間社会は瞬く間に瓦解し、かつて強大だった国家も砂の城のように脆く崩れ去った。絶望と恐怖が蔓延し、比類なき魔族の力と終末の闇が、この世界の未来を一歩ずつ飲み込んでいった。

 ヨーロッパ大陸の寒い都市では、強風が平原を吹き荒れる中、空気は火薬と血の匂いで満たされていた。オーガ族の軍勢は鋼鉄の奔流のように雪に覆われた大地を転がり、人間の都市に向かって進軍していた。彼らが一歩踏み出すたびに地面が揺れ、まるで大地自らが彼らに屈服しているかのようだった。遠くの霞の中にかすかに都市の輪郭が見え、その姿はまるで滅びを待つ獲物のように映っていた。

 軍はすでに長い間準備を整えており、数百台の戦車が銃口をまっすぐ前に向けて、防衛線に密集していた。兵士たちは緊張しながら武器を調整し、冷や汗が頬を伝い落ち、心中は恐怖でいっぱいだった。過去の戦争で彼らの装甲車両は幾度となく軍事的功績を上げてきたが、目の前のこの巨大な脅威に対しては、勝機が見えないことが兵士たちの心を重くしていた。

「全部隊、発砲準備を整えろ!」決意を込めた指揮官の声が通信チャンネルに響いた。彼は、この戦いが国全体の生死を左右するものであることを十分に理解していた。

 オーガ族の先兵が徐々に近づいてきた。彼らの体は巨大で、筋肉はまるで岩のように硬く、その皮膚は分厚い鱗に覆われていた。各オーガは重い武器を扱い、息を吹きかけるだけで空気さえもねじれるほどの力を持っていた。彼らは人間の機械をまったく脅威と見なさず、戦車陣地へ向けて止まることなく前進を続けていた。

「発射!」指揮官の号令とともに、戦車の砲声が一斉に響き渡り、耳をつんざくような轟音が戦場を包み込んだ。数十発の砲弾が戦場を飛び交い、オーガ族の最前線に命中した。爆発が彼らの編隊で次々と起こり、火と煙が瞬く間に辺り一帯を覆った。

 しかし、煙が晴れると、兵士たちの顔はたちまち青ざめた。命中したオーガたちは倒れるどころか、砲弾による損傷すら感じさせず、むしろ傷ついた部分は急速に治癒し、筋肉が再生していく様子が目の前に広がっていた。オーガたちは足を止めることなく、重い足取りで確実に近づいてきた。

「これは……どうしてこんなことが可能なんだ?」戦車操縦士は手の中の制御レバーを震わせながら、必死にそうつぶやいた。

「こんな敵はありえない……これはまるで悪魔だ……」別の兵士の声は恐怖でかすれていた。

 オーガ族の指揮官カルバック(Culbac)はオーガの隊列の中央に立ち、その巨大な体躯はまるで動く要塞のようだった。彼の目には冷酷な光が宿り、口元には残忍な笑みが浮かんでいた。手を上げて軍に停止を命じると、その動きには迷いのかけらもなかった。

「これらのおもちゃがオーガを止められるとでも思うか?」カルバックの低い声には嘲笑が込められていた。そして、彼は手を振り下ろし、「彼らに真の力を見せてやれ」と冷たく命じた。

 オーガたちは轟音と共に突進を開始し、戦車陣地に向かって一気に加速した。その力は圧倒的で、踏み出すたびに地面は震え、彼らの進む先にある全てを粉砕していった。戦車は一撃で引き裂かれ、装甲は剥がれ、内部の機械はねじれた鉄の塊となった。逃げようとする兵士たちはオーガの前では無力で、次々と倒され、押し潰されていった。

 戦いが進むにつれ、オーガの破壊力はさらに増していった。都市の街並みは崩壊し、高層ビルはまるで紙のように砕け散り、瓦礫と粉塵が辺りを覆った。市民の叫び声が四方から響いたが、誰もこの惨状を止めることはできなかった。

 オーガ族の攻撃は迅速かつ冷酷で、都市の防衛は数時間のうちに完全に崩壊した。全ての抵抗は無意味に思われ、兵士たちは絶望に沈んでいった。戦車の残骸が街路に散らばり、隠れていた民間人も次々と犠牲になっていった。

 最終的に、カルバックは軍を率いて都市の中心部に到達した。かつて権力と栄光を象徴していた宮殿は、今や瓦礫の山と化していた。荘厳だった建物は認識できないほど破壊され、燃え盛る炎が瓦礫の中から立ち上り、空を真っ赤に染めていた。

「さらばだ。」カルバックは廃墟の中に立ち、破壊された都市を見下ろしながら冷酷に言い放った。その声には勝利の満足感が漂っていた。彼は爆破された階段をゆっくりと歩き、かつて権力の象徴だった高台に立った。そこから彼が破壊した都市を見渡し、両手を掲げて宣言した。「この世界はすでに我々のものだ。」

 カルバックの宣言に呼応するかのように、オーガたちは一斉に咆哮を上げ、その音は空を震わせた。彼らの咆哮は都市全体に響き渡り、まるでこの地の時代の終わりを全世界に告げるかのようだった。

 かつては強大な国家も、今ではオーガ族の侵略によって崩壊した。国家権力は彼らの圧倒的な力の前に脆弱であり、社会秩序は完全に崩れ去った。輝かしい過去の記憶と瓦礫の山だけが残された世界には、オーガ族の影が覆い、絶望だけが広がっていた。

 同じ頃、極東の大都市では夜が明け、街は緊張と不安の雰囲気に包まれていた。地平線には暗雲が立ち込め、遠くでは雷がかすかに轟いていた。街の通りには人影がなく、建物の間から風の音だけが響いていた。かつて賑わっていた街も、今では閑散としていた。

 アンデッド族の侵入は静かに地獄の深淵から這い上がり、死の息吹とともに押し寄せてきた。戦場全体が冷たい霧に包まれ、闇の中からアンデッド族が迫っていた。彼らは幽霊のように音もなく進み、静かに街へと近づいていた。

 市の防衛線は既に確立されており、数千人の兵士が銃を前方に構え、通りの両側に立っていた。軍司令官はトランシーバーをしっかりと握り締め、指揮車両の中で額に浮かぶ冷や汗を感じていた。彼はこれが単なる戦いではなく、国の存亡に関わる最後の防衛線であることを十分に理解していた。

「全部隊、戦闘準備を!」 不安を押し隠した指揮官の声が通信チャンネルに響いた。彼は暗視ゴーグルを通して、敵の影を捉えようと目を凝らした。

 アンデッド族の姿が徐々に兵士たちの視界に入り、その光景は彼らの背筋を凍らせた。かつて死んだ者たちが、闇の力によって再び命を吹き込まれ、その目は生気を失い、よろめきながら歩いていた。彼らの手足は切断され、肉と血を失っていたが、それでも何か抗いがたい力が彼らを前進させていた。

「無理だ…これは現実じゃない…」 新兵は目を見開き、手に持った銃がかすかに震えた。かつて死んだはずの者たちが一歩一歩近づいてきて、彼は息を詰まらせ、恐怖に襲われた。

「彼らはもう人間じゃない…化け物だ!」 別の兵士が震える声で叫んだが、誰も発砲する勇気を持ち合わせていなかった。

「撃て!」 指揮官の声が雷鳴のように響き、兵士たちの迷いを吹き飛ばした。

 銃弾が夜の闇に光の筋を描きながら不死の敵を直撃した。弾丸によってアンデッドは引き裂かれ、血と肉と骨が飛び散ったが、倒れた死体はやがて再び立ち上がり、ふらつきながら前進を続けた。兵士たちは、この怪物たちに弾丸がほとんど効果を持たず、倒れたはずの死体が短い沈黙の後に復活することに愕然とした。

 さらに絶望的だったのは、戦闘で倒れるたびに、その兵士の死体がアンデッド族の魔法によって復活し、不死者の仲間入りを果たしてしまうということだった。戦線は徐々に突破され、アンデッド族の絶え間ない攻撃により、人類の防衛は危機に瀕していた。奪われた土地はすぐにアンデッド族の支配下に置かれ、倒れた兵士たちが驚異的な速度で復活し、かつての仲間に牙をむくようになっていった。

「奴らは復活し続ける! 我々には奴らを全く止めることは出来ない!」 銃弾が飛び交う中で兵士は絶望に満ちた叫び声を上げたが、その声は虚しく消えていった。

「退くな! 陣地を保て!」 指揮官の声が通信チャンネルに響き渡る。しかし、誰もがそれが単なる気休めに過ぎないことを理解していた。アンデッド族の数は増え続け、攻撃はますます激しく、まるで終わりが見えないかのように思えた。

 アンデッド族の指揮官エロス(Eros)は戦場の後方に立ち、冷ややかな視線で戦況を見下ろしていた。彼の身にまとったみすぼらしい黒いローブが風に揺れ、その青白い顔は死の象徴のように不気味だった。戦場の悲惨さを見て、彼の唇には冷酷な笑みが浮かんでいた。

「人間の闘いなど、いつも無駄で退屈だ。」 エロスはまるで地獄からの声のように、低くささやいた。

 アンデッド族が進軍するにつれ、都市の防御は徐々に崩壊していった。街路には倒れた兵士と破壊された武器が散乱していたが、安らぎの中で眠る死体は一人もいなかった。彼らは皆、アンデッドの力によって再び目覚め、強力な死の軍勢の一部となっていた。街の建物は次々と破壊され、廃墟の中で炎が立ち上り、街全体は不吉な霧に覆われていた。

 やがて戦いは市の中央広場へと移り、かつて国家権力の象徴であったその広場は、戦火で崩壊し、瓦礫と折れた旗が散乱していた。濃密な煙が空を覆い、星の光さえも消し去っていた。

 エロスは広場に侵入し、軍団を率いて壊れた階段の上に立った。彼の冷たい目は、荒廃した街を見下ろしていた。かつて力と栄光の象徴だったものは、今や終わりなき廃墟と死だけが残っていた。彼はその光景を、自らの傑作を愛でるかのように眺めていた。

「結局のところ、この地はすべてアンデッドのものだ。」 彼は低くつぶやき、その声は死の風に乗って広がっていった。そして、「ここから我々の新たな世界が始まるのだ!」 と高らかに宣言した。

 その瞬間、アンデッド族の戦士たちは一斉に咆哮を上げ、その恐ろしい声がまるで死のささやきのように街全体に響き渡った。かつての人類の栄光は、今やアンデッド族の冷酷な蹂躙によって完全に崩壊していた。国の防衛線は消え去り、社会秩序は一夜にして崩れ去った。生存者たちは安全な場所を求めて逃げ惑ったが、その努力は無駄に終わった。

「このゲームは続く……」 エロスは高台に立ち、邪悪な光を宿した瞳で征服した地を冷ややかに見つめながら、次なる展開を楽しんでいるかのようだった。

 広大な南太平洋の上空に、奇妙な黒い雲が徐々に広がり、海域全体を包み込んでいった。雲がどんどん厚くなり、大きな波がまるで何か止められない災害を予兆しているかのように押し寄せてくる。この異常な現象は、幻獣族の侵略が始まったことを示していた。破壊の嵐が、終わることなく迫っているのだ。

 その頃、海の向こうの国では、初秋の穏やかな朝が突然、深い闇に覆い尽くされた。街の住民たちは恐怖に震え、空を見上げると、暗雲の中に巨大な怪物たちの姿が浮かび上がっていた。まるで悪夢のように、それらは街の上空にぶら下がり、破滅の影を落としていた。

 海上では、深淵から巨大な海の怪物が現れた。その巨大な体は、古代のルーンが刻まれた鱗で覆われ、まさに幻獣族の指揮官「クラーケン」として恐れられている存在だった。クラーケンの触手は山のように太く、どんな軍艦もその前では無力だった。クラーケンの巨大な目から放たれる奇妙な光と共に、海上には凄まじい波が立ち上がり、瞬く間に数隻の船を飲み込んでいった。

 その直後、伝説の幻獣「グリフィン」が暗雲の中から舞い降りてきた。グリフィンの巨大な翼は夜の影そのもので、空を切り裂くたびに嵐を引き起こした。急降下するグリフィンの強力な爪が高層ビルを無慈悲に引き裂き、轟音と共にビルは崩れ落ちた。雷鳴のようなグリフィンの攻撃は、街の賑わいを一瞬で消し去り、稲妻の閃光と共に完全に破壊していった。

 同時に、暗雲の中から「ヒュドラ」と呼ばれる幻獣が姿を現した。ヒュドラの幾つもの頭が灼熱の炎を吐き出し、その炎が街全体を果てしない火の海へと変えていく。ヒュドラは空を旋回しながら、次々と建物に炎を撒き散らし、その光景は街が絶望と悲劇に包まれていく様子を鮮明に映し出していた。

 そして、さらに「ニーズヘッグ」と呼ばれる幻獣が襲来した。ニーズヘッグの体は山のように巨大で、その黒く光る鱗は圧倒的な威圧感を放っている。ニーズヘッグが翼を羽ばたかせるたびに、猛烈な嵐が巻き起こり、建物や戦艦を次々に破壊していく。その強力な尻尾が地面を叩くたびに、激しい衝撃が街全体を揺るがし、その振動で多くの建物が音を立てて崩れ落ちた。

 海軍司令官は戦艦の甲板上で咆哮した。「全隊員、戦闘準備完了せよ!防御システムを起動しろ!」号令と共に戦艦の砲門が火を吹き、無数の弾丸が発射された。しかし、幻獣族の圧倒的な力を前に、その攻撃はまるで波に溶ける泡のように無意味だった。クラーケンの巨大な触手は、迫り来るすべての砲撃をあっさりと打ち消し、海面を激しく掻き乱しながら、次々と軍艦を転覆させていった。

「反撃を続けろ!我々の街を破壊させ続けるわけにはいかない!」指揮官の声には鉄のような決意が込められていたが、戦況はもはや人類の手に負えるものではなかった。グリフィンの猛攻、ヒュドラの炎、そしてニーズヘッグの嵐が交錯し、人類はほとんど反撃の余地を失っていた。街路には炎と煙が立ち込め、轟音と共に建物が次々と崩壊していく。その混乱の中で、希望という名の光は徐々に消え去っていた。

 そしてついに、街の象徴であったランドマーク的な建造物も、幻獣たちの襲撃によって廃墟と化した。クラーケンはゆっくりと遺跡の中心からその巨体を持ち上げ、濃い煙に包まれたその姿は、あたかも神話の中から現れた悪夢の化身のようだった。「ここはもはや我らの領域だ。」クラーケンの冷酷な声が響き渡り、「すべては計画通りだ。」と、その邪悪な笑みが魔法のように街全体に広がった。

 クラーケンの言葉が降り注ぐと、街の空は完全な闇に包まれた。幻獣族の猛攻によって街は無残に破壊され、社会の秩序も希望も完全に崩壊した。この瞬間、人間の世界は深い絶望に陥り、その力は幻獣族の無敵の残虐さに圧倒されていた。

 遠く離れたアフリカ大陸の砂漠でも、同様の惨劇が展開していた。オーク族の兵士たちは狂気のように狩りを行い、砂漠のオアシスに住む人々に襲いかかった。彼らの粗野で恐ろしい武器は、現代兵器の脅威をものともせず、無数の村が次々と破壊された。生き残った者たちは惨殺され、砂漠の砂は血で赤く染まっていった。

 オーク兵士たちを率いる巨大な指揮官、グロックス(Grox)は、荒廃した村の中心に立ち、牙を剥き出しにして凶暴な笑みを浮かべた。「人間の血って、本当にたまらない味だな!」と、彼は叫びながら、戦利品を噛み砕き、その冷酷な笑い声はまるで地獄の悪鬼のごとく、砂漠の空に響き渡った。

 魔王軍の恐怖は、生き物たちの威圧にとどまらず、その暗影は戦後の廃墟にまで及んでいた。ゴブリン兵站チームが戦場を跋扈し、捜索と略奪に明け暮れていた。彼らの汚れた鎧には、獲物に対する貪欲な欲望が映し出され、その小柄な体は破壊された建物や瓦礫の間を縫うように動いていた。

「おい、これを見てみろ!」ゴブリンの一人が、壊されずに残った軍需品の箱を見つけ、興奮した声で仲間を呼び寄せた。ゴブリンたちはすぐに集まり、その汚れた手で箱を引き裂くように開け、中身を貪欲にあさり始めた。まるで価値ある宝物でも掘り当てたかのように、彼らの目はぎらぎらと輝いていた。

 一方、他のゴブリンたちは爆破された軍用車両の残骸を集め、輸送車に積み込んでいた。車輪こそ吹き飛ばされたものの、有用な部品や素材はまだ残されていた。「この鉄の塊は、俺たちの装置を修理するのにうってつけだな。」と、あるゴブリンが満足げに言いながら、重たい鉄を運び去った。

 彼らの作業は粗野でありながら驚くほど効率的で、破壊された戦場から資源を容赦なく奪い取っていった。ゴブリンたちの活動がもたらす混乱は、魔王軍が次なる一手を打つための支援となり、さらなる恐怖を生み出す燃料となっていた。

 その頃、廃墟となった都市の暗闇の中では、ダークエルフたちが影のように動き、暗殺と破壊活動を静かに遂行していた。夜の帳が降りると共に、彼らの黒いローブは闇と一体化し、その冷たい瞳だけが僅かに光を放っていた。

 高層ビルの屋上では、数人のエルフが慎重に近づき、短剣を使って通信線を音もなく切断した。そしてまるで幽霊のように建物内へと忍び込む。地下司令センターに潜入したエルフたちは、冷酷かつ正確な動きで警備兵を次々と沈黙させていった。

「ターゲット排除完了、通信システム破壊済み。」エルフの一人が冷静に報告を終えると、遠くで爆発音が轟き、司令センターが炎と共に音もなく崩れ落ちた。ダークエルフの影の如き行動により、残されたのは混乱と恐怖だけだった。

 魔王軍の侵攻は、緻密に計画された世界破壊のカーニバルだった。その圧倒的な破壊力は、世界各地に終わりのない災厄をもたらし、人類文明の栄光は、今や風前の灯火のように揺らめいていた。

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