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頭骨

作者: キリュン

 カンガルーは夜行性の動物で、昼間は森林の茂みなどに身を潜めてじっとしていることが多い。日が落ちると彼らは活動を開始するが、大半は群れをなして民家に接近する。それは彼らが草の葉を食べる食性で、一定の高さで刈り揃えられた牧場が採食に好都合だからだ。

 地元の人間は、カンガルーの接近をその姿を見ずとも察するという。カンガルーは歩行時、強靭な足を揃えたまま両足飛びのように跳ねながら前進する。その際、尾を強く地面に打ちつける。その音が、両足の着地から半音遅れてやってくるため、バタタッバタタッと例えようもない異様な音が、夜半に強く響き渡る。


 耳だけが冴えていた。窓の外から車が走行する音だけが聞こえる。混じり気のない単一の音源、それは今がまだ夜明け前で、空が一番黒い時間帯であることを僕に告げる。枕元でスマートフォンを探る。身体を横に向けると片耳が痛くて、何だと思えば寝際にはめたワイヤレスイヤホンだった。もう片方の耳は何ともないから、寝てる間にどこかに無くなってしまったのか。車の走行音はもう聞こえなくなってしまった。何となく、もう週末が来ていると思った。

 週末と聞いて、金曜日を連想するか土日を連想するかでその人の思考回路がおおよそ分かるというので、僕は金曜日を連想すると言ったら、お前らしいよと言われた。僕らしい思考回路はどのようなものかと問うと、答えは返ってこなかった。別に土日も週末だろうと思うが、僕は僕の思考回路を聞きそびれた。


 何かの骨。頭骨。売人に聞くと、オオカンガルーだと答えた。額から眉間、耳目にかけて滑らかな曲線を描きつつ、中央部に、ややザラついた突起がある。


「興味があるのか」

「いや、初めて見た」

「それなりにしたんだ」

「輸入か」

「出回っているのは、飼育されていたのものだ。譲ってもらうんだ」

「値が張るのか」

「歯の欠損が無いものは」


 目が覚めると既に部屋は明るくなって、むっとした湿度を感じた。頭が重い。頬がいくらか赤くなっている。カーテン越しに部屋に差し込む光彩で、今が昼過ぎであることを察する。口内が粘ついている。判然としない身体を無理やり起こし、流しで水を含んだ。生ぬるい水道水が食道を伝い、胃の内部が満たされていく。耳が痛かった。耳穴に触れると指先に血が付いていた。とにかく、頭が重くて仕方がなかった。

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