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9 仮試験終了!

「獲物がいたわ!」


遠くからこの世のものとは思えないしゃがれた大声がした。


「なんなんだ、貴様。ええい、離れい!」


そして、その方を見ると猫おじさんがメデューサの尻尾を抱きかかえるように掴んでいる。メデューサは猫おじさんを切り裂こうとするも刃物が透けて切れない様子だ。


「猫おじ!」

「行くんじゃ。お主のお陰でのう、幸せなんじゃ」


ドン! パラパラ!


石が弾ける音が響いた。


「合言葉は十字架。合言葉は十字架」


涼子はメデューサに捕まらないように走って、校門に着く。校門を縛っている3つの錠を外す。数漢字になっている一番上は十、漢字の並んでいる2番目は字、難しい漢字から選ぶ3番目は架。

校門を開いて外に出た瞬間、今度は真下に落ちる感覚がした。


意識下で起きているような夢を見ているような不思議な体験をする。

背景はアナログテレビの砂嵐のようで、目の前に水晶玉が赤い布の上に置かれている。

それに手をかざすと水晶玉は青くなった。


「あなたはB組になりました。岬浦涼子さん。仮試験合格おめでとう。B組の曲は黒うさPのボーカロイド曲、千本桜です。ちなみにピアノの楽譜はご自身でお買いいただくか、学校の中の先生にアポを取り、頂いてください。9月3日、会場でお待ちしています。音楽を頼りにして来てください」


そう声が聞こえて、目の前の水晶玉が木でできているようなドアに変わった。


「でていっていいのか? 行くぞ?」


涼子はドアノブに手をかけた。


空間が歪む。

意識が研ぎ澄まされた。

脳内に単調な、特徴のない音楽が聞こえてくる。まるで炊飯器が炊けたかのような、そんな音だった。

気がつくと、目前にはアーガイルチェックのネクタイをしたローカがいた。


「ローカ! ヘビの女がいた!」

「怖かったね、もう大丈夫。きっちり45分だよ。半月に追いかけられた? 後で、半月の月影化と半月化について説明するよ」


ローカは涼子の頭をなでた。


「子供扱いするな!」

「それより、指輪交換しよっか!」


ローカは涼子の手の指輪をとって、自分にはめる。そして、アーガイルチェックの指輪を涼子の人差し指にはめた。それはさながら結婚式の指輪交換だった。


「こっち、未来予知できる指輪は百年前ラウレスクという義理の父から代々受け継いでいるものなんだ。今はなき兄貴にもらったんだ。自分が死ぬ前の1分前の姿がわかるんだ。後はある呪文で他の人の未来視もできる」

「へえ、そっか。もう帰ろうか!」

「呼んだ?」

「呼んでない」


涼子ヘトヘトで、ローカの隣で遅く歩き始める。


「じゃあ半月の月影化と半月化について説明するね。両方とも片目が赤くなるんだよ。月影化はその名の通り月影の身体、つまり何らかの動物または虫の姿になる。半月化は人間の身体に、その動物または虫の身体の一部が至る箇所に現れるということだ。でも、対月影の薬を飲んでいれば、月影化も半月化もできないんだ。ヘビの女は半月化していたとすれば薬を飲んでないのか」

「それがメデューサだったんだ」

「そっか、それは薬を飲むのがもったいなかったのかもね。1万人に1人だよ。その属性の半月」


ローカは先に止まっていたタクシーの車のドアを軽く叩く。

タクシー運転手はうつらうつらしていて、いきなり、しゃきっと体制を正すと、ドアを開けた。


「おっちゃん、半月デパートまで」


2人が乗り込むとドアが閉まる。


「はい」


タクシーは発進していく。


「涼子は何組?」

「B組。選考曲は千本桜だって」

「時期に合わんな!」

「何人くらいになるのか?」

「去年は50人くらいで、試験合格者が20人だったかな」

「およそ5分の2人か」

「しっかり練習すればなんとかなるよ」

「来月までなら余裕だけどな」

「その余裕が命取り。サメに食われないようにね」

「怖いこと言うなよ」


涼子は商店街を見て気づく。黒い三角帽を被った人がちらほら見える。


「魔法使いか」

「音楽魔法使いね」

「そうなんだな、ところで、こっちに来る時、ペドルに換金しないといけないよな」

「ああ、俺が必要な分、渡すよ。そういえば、武楽器は何?」

「ピアノ」

「涼子ってピアノ弾けるの!? タンバリンじゃなくて? 英才教育?」

「また人のことをバカにして! そうだぞ? 似合わなくて悪かったな」


住宅地に出て直進すると大きなデパートの前で、タクシーは停止した。


「半月デパート到着です。450ペドルです」

「パース。はい、どぞー」


ローカは金貨4枚と銀貨1枚をカルトンに置いた。

2人はタクシーから降りた。

「ペドルのことも教えてくれ」

「金貨1枚100ペドル、銀貨は50ペドル、銅貨は10ペドル。パース。お前に渡しておく」


ローカは箱の中から小さな巾着の麻袋を涼子に持たせる。ぎっしりと重みがある。


「これ本当にこの国のお金?」


涼子は中身を見て、訝しむ。なぜなら、金貨に書かれている顔がバッハ、銀貨はヘンデル、銅貨はハイドンだったからだ。人生ゲームのお金に思えてならなかった。


「じゃあ試しにカヌレでも買おう」


ローカは涼子の手をとって半月デパートに入っていった。

涼子は目まぐるしい変化に感情で頭が爆発しそうだった。

1階は食品売り場、2階は雑貨店、百均もある。屋上はソフトクリーム屋とカヌレを売っている小店があった。


「これがおすすめ」


ローカはラズベリーのカヌレを指し示す。卵が入ってない米粉を使ったカヌレと書かれている。

「すみません、このカヌレ2つください」

「240ペドルです」


コック帽を被った女性がカヌレを紙袋に入れた。

涼子は麻袋から金貨2枚と銅貨4枚を出して、カヌレと交換した。


「何処で食べようか?」

「こっち!」


ローカは再び、デパートの店内に入っていく。1階にあるイートインコーナーまで案内した。

2人は無料の緑茶をもらい、カヌレを味わった。カヌレは手で包み込めるほどの大きさだった。


「甘酸っぱいな」

「んね! リコヨーテにはこのデパートしかカヌレは売ってないからね」

「へえー。あと聞きたいんだけど武楽器って出せるの?」

「最後に弾いた楽器なら出せるよ」

「ありがと。食べ終わったら帰ろう。執事が心配してる」


涼子はポケットの中でケータイのブザーが鳴っているのを気にする。ちなみに、リュックの中にペドルの入った麻袋をしまった。


「んね! 帰りはちょっと歩くよ。10分くらい。近道で行くけど」


ローカは口いっぱいに頬張る。


「行こう」


2人はまた、暑い外に出る。

ローカが細い道ばかり進むので行き止まりにならないか不安な涼子であった。


「ここって?」


着いたのはもれなく、公園だった。来た時の公園よりは広い場所だ。


「あの木に近づいてごらん? 緑色の膜になるよ。俺の演奏で。ウォレスト」


ローカはビオラをとると、辺りを見て、直進する。

小さめの木が公園の隅にあった。

ローカは正しい旋律で演奏する。


ゴゴゴゴ。


「おお?」

小さな木から緑の膜がでてきて、涼子を中に引き入れた。

世界が緑色になっていく。

ビオラの音が止む。


「ローカ? 何処にでたんだ?」

「おいでー」


ローカは涼子の手を掴んで、真っすぐに出る。低姿勢になっている。

ドン!


「いって!」


涼子は頭をぶつけた。

いきなり上にアスファルトが出てきたのだ。

そのまま、土管を抜ける。


「ローカ、あんた……、わざと!?」

「わざとじゃないよ、気づくと思って……って痛い! 暴力反対!」


ローカは膝小僧あたりを涼子に蹴っ飛ばされた。


「いちいち女々しいんだよ。あたしは帰るから。また後で学校でな」


涼子は逃げるように走ってケータイをポケットから取り出した。そして、赤石に迎えに来てもらい、難なく帰ることができた。

検視が終わり通夜が開かれた。仲良かった親族達、メイドの家族で通夜振る舞いをした。朝陽が食事に手を付けて、皆食べ始めた。

朝陽は泣いていて、時折、会場の外に出ていった。

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